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鬼蜘蛛の網の片隅から › 原子力発電

2014年10月22日

巨大噴火の国に生きる日本人

 先の御嶽山の噴火で、火山の噴火の恐ろしさを実感した人も多いと思うが、御嶽山の噴火は規模の大きなものではない。火山が連なる日本列島では大噴火、巨大噴火が何度も発生している。

 北海道でも過去にはもちろん大きな噴火が何度もあった。大雪山国立公園の層雲峡に行ったことがある人は多いと思うが、石狩川の峡谷にそそり立つ柱状節理は大雪山の噴火で流れ出た火砕流が冷えて固まったものだ。あの景観を見ただけで、ものすごく大量の火山噴出物が堆積したことが分かる。

 新得町屈足の十勝川の河岸には火山灰の堆積した崖がある。これは十勝北部の三股盆地(カルデラ)から噴出したものだ。この噴火でも大量の噴出物が十勝地方を覆った。

 屈斜路湖は日本最大のカルデラ湖で、支笏湖は2番目に大きなカルデラ湖だ。洞爺湖もカルデラ湖。数万年前とは言え、これらの火山が大噴火を起こした時はどんな状態になったのだろう。樽前山の噴火では十勝地方にも火山灰が堆積している。大気はしばしば噴煙で覆われ、太陽はさえぎられてうす暗くなり、一面灰色の世界に変わるのだろう。考えただけでもぞっとする。

 しかし、もっと規模の大きい巨大噴火は九州の火山だ。たとえば阿蘇山は世界でも有数の大型カルデラを持つし、姶良カルデラも巨大カルデラだ。九州のカルデラが巨大噴火を起こした場合、その火山灰はなんと日本中におよび、北海道を除く地域では10センチ以上の火山灰が降り積もると言われている。以下参照。

御嶽山に続く巨大噴火はロシアンルーレットの可能性!?プチ鹿島の『余計な下世話!』vol.64  (東京BREAKING NEWS)

 南九州で巨大噴火が起きた場合、「火砕流で全て焼き尽くされる領域には1000万人以上の人口がある」という。仮に大噴火の前兆が捉えられたとしても、数千万人の住民をすみやかに避難させるというのはとても困難なことだろう。もちろん川内原発の管理などはできなくなる。

 神戸大学大学院の研究グループによると、日本で今後100年以内に火砕流が100キロ余り先まで達するような巨大噴火が起きる確率はおよそ1%だそうだ。

巨大噴火”今後100年間で確率約1%” (NHKニュース)

 九州中部で巨大噴火が起きたと仮定すると、火山灰は西日本で50センチ東日本で20センチ、北海道でも場所によって5センチ以上積もると予測されている。日本中に火山灰が降るのだから、九州ではなくても人々の生活は大変なことになる。火山灰によって交通は麻痺し、ライフラインにも支障がでるだろう。農耕地は壊滅的な被害を受けて日本中が飢饉に襲われるに違いない。

 火山灰で太陽光も遮られて寒冷化するだろうから、降灰の少ない北海道でも作物は凶作になる可能性がある。太陽光発電もできなくなる。各地で暴動や略奪が起き、サバイバルゲームのようになるだろう。こうなると国家存亡の危機になるに違いない。さらに原発のコントロールができなくなれば、日本が完全に終わるだけではなく、世界中に放射能をばら撒くことになる。

 そうした大噴火、巨大噴火はごくたまにしか起きないので、今のように人口が増え近代都市が広がってから巨大噴火による被害を受けていないにすぎない。火山噴火に関し平穏な時代に生きている私たちは巨大噴火のことなどすっかり忘れていたに等しい。しかし川内原発の再稼働の審査をめぐって、巨大噴火の危険性が火山の専門家からも指摘されているし、また御嶽山の突然の噴火によって火山噴火に対する危機意識がにわかに高まってきた。

 今は平穏であってもいつかは必ず大噴火、巨大噴火が起きることは間違いない。そして、それがいつなのかは誰にも分からないのだ。「備えあれば憂いなし」と言うが、巨大噴火に関しては多少の備えなど焼け石に水だろう。ということは、私たちは心の片隅で巨大噴火を自覚しつつ、自分の生きている時代にそれが起きないことを願うしかないのだろうか。死傷者を最小限にするために噴火予知の体制づくりをし、いざとなったら命に関わる場所に住んでいる人たちは避難する以外何もできそうにない。

 もっとも、いつ起きるか分からないことに怯えていてもストレスになるだけだから、運を天にまかせ、せめて火山の造り出す美しい景色を楽しみたいとも思う。

 ただし、巨大噴火が起きる前に日本中の原発を廃炉にしておく責任が我々の世代にある。否、巨大噴火だけではなく巨大地震や巨大津波がいつ襲うかも分からないのだから、一刻も早く原発を止めて使用済み核燃料の安全な保管を真剣に考えるべきだ。

写真は3万年前に噴火したとされる大雪山のお鉢平カルデラ。




  


Posted by 松田まゆみ at 21:28Comments(0)原子力発電

2014年09月28日

汚染を拡大させる除染土の全国処分

 今日のNHKニュースで以下の報道があった。

除染で出た土「最終処分」法案まとまる(NHKニュース)

福島県内の除染で出た土などを保管する中間貯蔵施設について、政府は、保管を始めてから30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を取ることを定めた法案をまとめました。
今後、法案を閣議決定したうえで今月29日に召集される臨時国会に提出する方針です。
政府は、中間貯蔵施設で保管する除染で出た土などについて、保管を始めてから30年以内に福島県外で最終処分を完了する方針で、地元の要望を受けて、こうした内容を定めた法律の改正案をまとめました。
具体的には、有害物質のPCB=ポリ塩化ビフェニルの処理を行う国の特殊会社について定めた法律を改正し、この会社が中間貯蔵施設に関する事業を行うとしています。
そして、国の責務として中間貯蔵施設を整備し安全を確保するとともに、保管を始めてから30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を取るとしています。
また、土などに含まれる放射性物質の濃度を低くしたり再生利用したりする技術開発などの状況を踏まえ、最終処分の方法を検討するとしています。
政府は、改正案を閣議決定したうえで今月29日に招集される臨時国会に提出する方針で、今後、最終処分に向けた具体策を早期に示すことができるかが課題となります。

 ツイッターでも、PCBの処理を行う会社が全国で除染土の処理を行うという情報が拡散されていたが、その根拠はこの法案だろう。

 この法案は29日、つまり明日の臨時国会に提出される予定とのこと。この法案が通れば、福島で保管されている大量の汚染土が全国で処理され、再利用した製品が出回ることになると推測される。いくら放射性物質の濃度を低くする処理をするからといっても完全に除去できるわけではないだろうし、セシウム以外にもストロンチウムやプルトニウムなどが含まれているだろう。

 ニュース記事では「30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置をとる」となっている。気をつけねばならないのは、あくまでも「30年以内」ということだ。来年でも再来年でも30年以内だから、法案が成立すればすぐにでも県外での処理が始まる可能性があるのではなかろうか。

 除染土は増える一方だろうし、土を入れている袋も劣化してきている。不法投棄も問題になっている。福島県としては少しでも早く汚染土を処分したいと思っているに違いない。

 しかし、放射性物質を全国に拡散させるというやり方はとても容認できない。放射性物質は閉じ込めるのが原則であり、拡散させるという国の方針は明らかに原則に反している。この法案を通さないように声を上げるべきだと思う。

 そもそも、いくら除染しても放射性物質を取り除くことはできない。チェルノブイリでは穴を掘って汚染された家を埋めてしまったところもある。除染の限界を認識するべきだ。
   
タグ :除染除染土


Posted by 松田まゆみ at 11:28Comments(0)原子力発電

2014年09月12日

原子力推進派に騙されてはならない(その2)

 遠藤順子医師による講演会がYouTuboにアップされている。

遠藤順子20140803家族を放射能から守るために~国際原子力組織の動きと内部被曝



 私は遠藤医師については全く知らなかったのだが、実に重要な問題点を指摘しており、多くの人に広めてもらいたい動画だ。講演自体は1時間ほどなので視聴されることをお勧めするが、重要な点について簡単に紹介しておきたい。

 講演で語られているのは以下について。
1国際原子力組織の福島後の動き
2チェルノブイリで何が起こってきたか
3内部被曝による細胞損傷の機序
4「放射性セシウムは安全」論への反論
5食品の放射線基準の考え方について

 冒頭の「国際原子力組織の福島後の動き」だけでも視聴に値する。特筆すべきは、IAEAについての以下の指摘だろう。

1996年4月IAEAの会議(ウィーン)「チェルノブイリ事故から10年」
「再び事故が起こるのは避けられない」として、そのとき取るべき方策も話し合われた。

「次回の原発事故にあたっては、人々を避難させず、情報をきちんと統制すること」

 福島の事故を顧みれば、事故当初からまさにこの方針が貫かれている。だから、SPEEDIの情報は隠され、関東地方にプルームが襲ったときも屋内退避の指示すらしなかった。そして御用学者に「福島の事故程度では健康被害は起きず、体調不良はストレスによるもの」という発言をさせ、除染することで汚染地に住民を帰還させるというのが政府の方針だ。IAEAが主導し日本政府はそれに従っているということだ。

 また遠藤医師は、最近の国際機関側の人物の以下の発言を紹介している。

「(情報統制のことだが)チェルノブイリは失敗したが、フクシマはうまく行った・・・」

 この発言からも、福島の事故においてはIAEAの方針通りに進められていることが裏付けられる。原子力推進派に不都合な事実は、まず隠蔽されていると思ったほうがいい。

 遠藤医師は元ICRP科学事務局長Jack Valentin博士の以下の告白も紹介している。

「内部被曝による被曝は数百倍も過小評価されている可能性があるため、ICRPモデルを原発事故に使用することはもはやできない。体制側にある放射線防護機関は、チェルノブイリのリスクモデルを見ておらず、誤った評価をしている」(2009)

 内部告発だから信ぴょう性は高い。ICRPも自分たちの理論が正しくなく、著しい過小評価をしていることを分かっているはずだ。しかし、原発を推進するためにはその誤ったモデルを主張し日本国民を騙しつづける必要がある。

 原発事故直後から、福島の事故がチェルノブイリに匹敵する惨事であり被曝による健康被害に警鐘を鳴らす人たちがネット等で発言していた。クリス・バズビー氏然り、アー二―・ガンダーセン氏然り。日本でも矢ヶ崎克馬氏などが被曝の危険性について積極的に発言をしていた。ところが、インターネットが発達して誰もが簡単に情報を手に入れられる時代になったにも関わらず、私たち日本人の多くはこうした警告に耳を傾けることなく、マスコミを通じて政府や原子力関係者、御用学者の垂れ流す情報に洗脳されている。

 さらにネット上では「工作員」と呼ばれるような人たちが跋扈し、原子力推進派に不利な情報の統制に躍起となっている。私自身は、未だに海へ大気へと垂れ流されつづける放射性物質のことを考えると、福島の事故の規模はとっくにチェルノブイリを超えていると思っている。しかも制御不能状態。それを政府は必死に隠しているに違いない。

 故郷に愛着を持つのはごく自然なことであり、誰しもが仕事や故郷を簡単に捨て去る気にはなれない。御用学者達の「大きな健康被害は起きないだろう」という言葉を信じたい気持ちになるのは分からなくもない。しかし、原子力推進派はこうした住民の気持ちを利用し、彼らを欺いているのだ。

 遠藤医師は、内部被曝のしくみについても最新の研究を紹介して詳しく説明している。もちろん原発推進派はこうしたことも知っているだろうが、無視を貫いている。

 すぐに頭に浮かぶだけでも、遠藤医師のほかに菅谷昭医師、小野俊一医師、西尾正道医師、高岡滋医師、三田茂医師、きむらとも医師、松江寛人医師、安藤御史医師などが原発事故による被ばくの危険性に警鐘を鳴らしている(もちろん他にも同様の主張をしている医師は何人もいるだろう)。片や、原子力推進派を擁護するかのような発言を繰り返している医師もいる。ここに医師としての矜持、姿勢がはっきりと表れている。

 原発の過酷事故は福島が最後ではない。IAEAはもちろん今後も原発事故があることを想定しているだろう。それでも原発を推進するのだ。自分たちの利益のために。しかし、原発事故のリスクが最も高い国といえば、間違いなく繰り返し大地震・大津波・火山噴火に見舞われてきた日本だ。こんな危険な国である以上、原発は廃止するしかない。

 原爆を落とされ、福島の原発事故を体験した日本国民が原発反対を貫くことをせずして、誰が原発災害という人災を阻止することができるのだろうか。推進派に騙されていてはならないのだ。

 日本では、チェルノブイリの原発事故で被災した子ども達の保養活動が行われていた。そうしたグループが発行した「私たちの涙で雪だるまがとけた」という本がある。ネットでも公開されているので読んでほしいのだが、これが原発事故による健康被害の実態だ。なんの責任もない子ども達がまっさきに犠牲者になる。

私たちの涙で雪だるまが溶けた 子どもたちのチェルノブイリ

原子力推進派に騙されてはならない(その1)
  


Posted by 松田まゆみ at 09:27Comments(30)原子力発電

2014年09月11日

原子力推進派に騙されてはならない(その1)

 今日で東日本大震災および福島の原発事故から3年半になる。地震のあと、福島第一原発は次々と爆発を起こした。あの爆発の映像を見たときは、ほんとうに気が遠くなるような思いだった。とうとう日本もチェルノブイリと同じ過ちを起こしてしまった!と。

 福島第一原発の爆発は複数回起きているが、とりわけ3月15と20~21日には人口密集地である首都圏まで放射能プルームが到達した。そのことは放射線量の増加ですぐに分かったことだし、小出裕章さんも事故後間もなくこの事実を公表していた。当然、SPEEDIでも予測されたことだった。

 米軍は3月20~21日の放射能プルームについて情報を持っており、横須賀基地に配備されていた米原子力空母ジョージ・ワシントンは21日にさっさと出港し、横須賀基地や厚木基地の将兵や家族にも屋内退避するよう通知していた。

 もちろん日本政府が関東地方の放射線量の上昇を知らないわけはない。ところが、日本政府は「ただちに健康に影響を与えることはない」と言って避難どころか屋内退避の勧告すらしなかった。これは意図的に国民を被曝させたといっても過言ではないだろう。これについては以下の「院長さん」こと小野俊一医師のブログを参照していただきたい。

1153.2011年3月下旬に首都圏をおそった放射能プルーム(院長の独り言)

 2014年9月6日の毎日新聞記事に「東京電力福島第1原発事故後、上空に巻き上げられた放射性物質の雲状の塊「放射性プルーム(放射性雲)」が、これまで知られていた2011年3月15~16日に加え、約1週間後の20~21日にも、東北・関東地方に拡散していく状況が、原子力規制庁と環境省による大気汚染監視装置のデータ分析から裏付けられた」と書かれている。

 院長さんによると、この時は柏では1時間で150Bqものセシウムを吸入したことになるという。これほど重要なデータが、3年半もたった今ごろになって公表されるとはどういうことなのだろう。国民を馬鹿にしているとしか思えない。

 このこと一つをとっても、国民には重要な情報が隠されていることが分かる。つまり、我々は事故直後から騙され続けているのだ。

 ところで、原子力規制委員会は9月10日に川内原発について「新規制基準に適合している」と結論づけた審査書を決定して設計変更を許可した。

川内原発「新基準に適合」審査書を決定 規制委(とある原発の溶融貫通)

 国民からの意見を聴取するパブリックコメントには1万7819通の意見が寄せられたそうだ。その締切はたしか先月の15日だった。多くの反対意見があったに違いない。ところが締切から1カ月もたたずに、再稼働にお墨付きを与えてしまったのだ。国民の意見を精査したとは到底思えない。しかも火山学者の意見も無視。

 ここから見えるのは、規制委がとにかく原子力発電を続けたいという国の意向を受けて突っ走っている姿だ。「無理が通れば道理引っ込む」というが、「無理をごり押しして道理を無視」しているのが日本政府と電力会社の実態だ。

 今、日本国民が騙され続けたり、あるいは騙されていなくても黙っていたなら、道理など簡単に踏みにじられてしまう。

原子力推進派に騙されてはならない(その2)
  


Posted by 松田まゆみ at 14:34Comments(0)原子力発電

2014年06月12日

甲状腺がんから見る日本の現実

 6月10日に、福島県民健康調査の検討委員会で甲状腺がんに関する専門部会が開催されたのだが、その中で甲状腺がんの手術を受けた子ども達にはリンパ節転移をしている深刻な事例が多数あることが明らかになってきた。これまでに甲状腺がんとして手術を受けた50人の子どもの大半が放置できるような状態ではなかったというのだ。以下を参照いただきたい。

リンパ節転移が多数~福島県の甲状腺がん(OurPlanet-TV)

 これまでいわゆる「安全派」と言われる人たちは、福島の場合はチェルノブイリの時より検査制度が高くなったために多く発見されるだけだと言っていたが、そんなことは決してない。以下の高松勇医師はそのような主張が誤りであることについて分かりやすく説明している。

高松勇医師「エコー検査の精度が高くなったからだ」と言われますけれども、そういうものではないという事をこれは示しています。6/6小児甲状腺がん89人は異常多発(内容書き出し) (みんな楽しくHappyがいい)

 原発事故から3年が経過した時点で、疑いも含めた甲状腺がんの子どもが89名も出ており、転移している事例が多数あるということは、まさに今回の福島の原発事故による被ばくがきわめて深刻なものであることを物語っている。

 チェルノブイリの事例では事故のあと4、5年してから甲状腺がんなどが急増しているのだから、日本でもこれからさらに増えていくと推測される。とすると、とんでもない数字になるのではなかろうか。

 高松医師も指摘しているが、福島の調査は18歳以下の甲状腺がんしか対象にしていない。甲状腺がんは放射線による健康被害のごく一部でしかない。白血病、心臓疾患や循環器の病気、白内障などもあるし免疫力低下による病気もあるだろう。

 また、福島県以外の周辺の汚染地でも当然健康被害が生じているだろう。しかも日本の場合は人口密度が極めて高く、汚染は近隣の宮城県、栃木県、群馬県、茨城県などのほか人口密集地の首都圏にまで及んでいる。そういったことを考えるなら、日本の場合チェルノブイリ以上の健康被害が生じる可能性が高い。若者の心筋梗塞による突然死など、恐らく被ばくが関係している可能性が高い。

 チェルノブイリの事故の教訓を活かすどころか、事故の責任回避に必死になり汚染地域から人々を避難させるどころか留まらせて被害を拡大させようというのがこの国のやり方だ。否、チェルノブイリの事例があるからこそ、必死に都合の悪いことを隠蔽して国民を騙しているのだろう。

 しかも、いつ巨大地震や巨大津波に襲われてもおかしくないというのに、安倍自民党政権は原発の再稼働を目指している。狂気が支配しているとしかいいようがない。

 これほどにまで無責任で国民を愚弄する政府は世界的にみても稀ではなかろうか。日本はやがて世界の笑いものになり、どこからも信用されなくなるだろう。

  

  


Posted by 松田まゆみ at 11:37Comments(0)原子力発電

2014年06月10日

福島原発事故の刑事責任は問われない?

 久しぶりに黒薮さんのサイトを覗いたら、検察審査会についての驚くべき記事が掲載されていた。

東京第5検察審査会の「闇」、第5検審による疑惑だらけの小沢起訴議決の次は福島原発訴訟の審査(MEDIA KOKUSYO)

 検察審査会は検察の不起訴判断に対して異議申し立てがなされたときに審査する機関で、その審査員は一般の市民(有権者)から選ばれるということになっている。私も過去に一度検察審査会に審査を申し立てたことがあり、そのときにこのことを知った。その時いくつか疑問が浮かんだ。

 くじ引きというが、具体的にどのような方法で委員を選ぶのか。法的な知識もない一般の市民にこのような委員が務められるのだろうか。また、辞退した場合はどうするのか、男女比はどうなっているのだろうかなど・・・。

 今回、黒薮さんのこの記事を読んで、パソコン上の「くじ引きソフト」なるもので委員を選ぶことを知った。ところが、そのソフトはどうやら「いかさま」らしい。つまり、審査員の選出は闇の中だというのだから、呆れ果てた。

 このシステムによって、架空の審査員を選んだり架空の議決を行うことすらできるという。そして、小沢一郎氏に対する起訴議決は架空だった可能性が高いというのだ。もしそうであれば、まさに「でっちあげ起訴」ということになる。

 そして黒薮氏は福島原発訴訟でも同じ方法を使う可能性が高いとしている。

 福島の原発事故では、福島の住民1324人が東電幹部や政府の役人など責任者33人を刑事告訴したが、福島地検は東京地検に事件を移送し、東京地検は昨年9月に不起訴にした。このために、告訴団は検察審査会に審査を申し立てている。その審査を行うのが、小沢氏のときと同じ東京第5検察審査会だ。これについては以下を参照していただきたい。

「なぜ東電を強制捜査しないのか」検察審査会を人間の鎖で包囲(田中龍作ジャーナル)

 黒薮氏は、最高裁事務総局が「はじめに不起訴ありき」で東京第5検察審査会に割り当てた可能性が高いと指摘している。もしそれが事実であるなら、この国は恣意的に原発事故の責任を加害者にとらせないということだ。

 日本が法治国家だと思っていたら、とんでもないだろう。
  


Posted by 松田まゆみ at 14:59Comments(0)原子力発電政治・社会

2014年05月17日

「美味しんぼ」批判こそ差別であり目的は言論封じ

 福島の鼻血のことなどを取り上げた漫画「美味しんぼ」への批判がマスコミでも取り上げられているが、鼻血と被ばくの関係については多くの人が指摘している。チェルノブイリの事故でも鼻血を出した人が多かったという事実があるし、福島も同じだ。鼻血が増えたという事実は歴然としてある。被ばくが関係していないというのなら疫学調査をして証明すべきだが、批判者は誰もそれをしていない。

【チェルノブイリでは避難民の5人に1人が鼻血を訴えた】2万5564人のアンケート調査で判明(DAYSから視る日々)

福島県双葉町で鼻血「有意に多い」調査 「避難生活か、被ばくによって起きた」 (J-CATニュース)

 上記の記事で紹介されている論文は以下。

水俣学の視点からみた福島原発事故と津波による環境汚染(大原社会問題研究所雑誌)

 なお、福岡の子どもが福島の8倍も鼻血を出したという山田真医師の調査も報道されている。しかし、これは小学校の保健室にいる養護教員からの聞き取り調査であり、どうみても疫学的調査と言える代物ではない。

福岡の子ども、福島の8倍も鼻血を出す? 小児科医が調査、理由は「わからない」 (J-CATニュース)

 「美味しんぼ」作者の雁屋哲さんはご自身のブログで「私は自分が福島を2年かけて取材をして、しっかりとすくい取った真実をありのままに書くことがどうして批判されなければならないのか分からない。」と書いているが、事実を書いたことがなぜ批判されねばならないのだろう。

 双葉町は「美味しんぼ」の鼻血を出す描写などに対し「福島県民への差別を助長する」として小学館に抗議をした。

 福島の原発事故以来、「風評」とか「差別」という言葉が頻繁に使われるようになったが、言葉の用法を誤っているとしか思えない。辞典では以下のようになっている。

風評:世間であれこれ取りざたすること。また、その内容。うわさ。「―が立つ」

差別:1 あるものと別のあるものとの間に認められる違い。また、それに従って区別すること。「両者の―を明らかにする」 2 取り扱いに差をつけること。特に、他よりも不当に低く取り扱うこと。「性別によって―しない」「人種―」

 雁屋さんが描いたのは、取材に基づいた事実であり、うわさではないので「風評」には当たらない。では、福島で鼻血を出す人が増えたという事実は「福島県民への差別」につながるのだろうか? もし、鼻血が出た人を他者が不当に低く取り扱うようなことがあれば差別といえるだろうが、果たして誰が何のためにそんな扱いをするというのだろう?

 福島では多くの子ども達が甲状腺がんを発症しており、被ばくが関係している可能性が高い。多くの人たちはこの事実を深刻に受け止めて心を痛めたり加害者に怒りこそ抱いても、被害者を差別したりはしないだろう。もし鼻血を出したという事実を理由に福島の人たちを差別するような人がいるのならば、そんな意味不明の差別こそ問題にしなければならない。

 今回の抗議は、結局は被ばくによる健康被害が生じると不都合な人たちによる言論封じであり、そのために「風評」や「差別」という言葉を利用しているに過ぎない。また、汚染された福島で暮らさざるを得ない人々は、大変な不安やストレスにさらされている。だから、不安になるような情報に対して過敏に反応し、バッシングに同調してしまう人もいるのだろう。

 福島では被ばくや健康被害について語ることはタブーになっていると聞く。どうやら事実を語ると叩かれてしまうという状況があるらしい。ご自身の原因不明の体調不良をブログに綴っていた「ぬまゆ」さんもブログを非公開にしてしまったが、福島では自分の体調や症状を語ることすら困難になっているのだろう。本当のことを言う人が叩かれるのであれば、それこそ真実を語る人への「差別」である。ところが、本当のことを言うと「差別を助長する」というのだから、アベコベではないか。

 私は日本にはびこる「ムラ社会」的な同調意識こそ、差別の温床だと思っている。多くの人はその場に漂う同調圧力によって周りの人に合わせてしまう傾向があるし、批判などを恐れて本音を言わないことが多い。多数意見に合わせていれば、まず自分が批判されたり攻撃されたりすることはないからだ。

 しかし、これは多様な意見や個性を否定することに他ならない。日本人の多くが、無意識のうちに同調圧力によって差別を助長しているといっても過言ではないと思う。被ばくによる健康被害を懸念する人に対し「福島に対する差別だ」と言う人がいるが、福島では被ばくを懸念したり健康被害を訴える人たちに対して差別がまかり通っていると認識すべきだ。

 今回の鼻血をめぐる問題で、双葉町が作者の雁屋さんではなく版元の小学館に抗議をしたというのもおかしな話だ。雁屋さんに抗議をしても漫画の販売を止められないからこそ、版元に圧力をかけたとしか思えない。

「美味しんぼ」一時休載へ 「表現のあり方を今一度見直す」と編集部見解(産経新聞)

 なお、この記事ではあたかも批判によって休載に追い込まれたかのように感じられるが、実際にはシリーズの区切りごとに休載しているらしい。なんとも誤解を招く書き方だ。

https://twitter.com/asozan_daifunka/status/467324623927791616

 もう一つ指摘しておきたいことがある。この記事で立命館大名誉教授の安斎育郎氏の以下のコメントが掲載されている。

この中で、立命館大の安斎育郎名誉教授(放射線防護学)は、1シーベルト超の被曝(ひばく)をしなければ倦怠感は表れないが、漫画で第1原発を見学した際の被曝線量ははるかに低く、倦怠感が残ったり鼻血が出たりすることは考えにくいと指摘。「率直に申し上げれば、『美味しんぼ』で取り上げられた内容は、的が外れていると思います」「200万人の福島県民の将来への生きる力を削(そ)ぐようなことはしてほしくない」と訴えた。


 安斎氏の原発事故後の発言に関して私は以前から疑問を感じていたが、このコメントを読んで明らかに被ばくによる健康被害を過小評価していると思った。しかも、実際に倦怠感があったり鼻血が出た人が有意に多かったという調査結果を無視した意見だ。安斉氏の放射能リスクに関しては高岡滋氏が批判的な見解を述べているが、高岡氏の指摘はもっともだと思う。

安斎育郎氏の放射能リスクに関する諸見解について(togetter)

 今年は原発事故から3年目。甲状腺がんをはじめとした健康被害の急増が懸念される時期に突入した。今回の騒動で、いよいよ被ばくによる健康被害に対する言論封じが本格的に始まったと感じざるを得ない。この国は、どんどん自由に物が言えないようになっていくだろう。大事なのは同調圧力に負けずに主張していくことだと思う。
  


Posted by 松田まゆみ at 16:07Comments(4)原子力発電

2013年12月29日

関西まで汚染した福島原発事故の放射能

***原発反対・秘密保護法は廃止・共謀罪反対***

 福島第一原発の事故によって放出された放射性物質は東北地方から関東地方にかけて深刻な汚染地をつくった。このために汚染地から多くの人が西日本や北海道に避難した。しかし、北海道や西日本に放射性物質が飛んでこなかったわけではない。

 以下のサイトでは関西の土壌の検査結果を報告している。

関西・土壌の放射性セシウム汚染

 ここでは大阪府能勢町3地点、大阪府高槻市2地点、滋賀県野洲市1地点の土壌の計測結果のほか、参として高槻市日向町、和歌山県新宮市、秋田県横手市、東京都世田谷区、宮城県のデータを掲載している。これを見ると、関西でも場所によっては福島の原発事故由来の汚染が確認されている。確認されたセシウムの汚染は6.9ベクレルだから酷い汚染というわけではないのだが、近畿地方もまだらに薄く汚染されたことは間違いないだろう。

降下セシウムの濃度比較2(大阪汚染3)

 では九州はどうなのだろう? 以下のページの記述から、九州では福一からの汚染はほとんどないが、がれき焼却によってセシウムが放出されたと考えるのが妥当だと思う。

北九州市のセシウム汚染は放射能がれき由来だ! 

北九州市のマスクからセシウム検出! 

 がれき焼却に関してはあちこちで反対の声が上がったが、やはり焼却は間違いだったとしか言いようがない。

 北海道ではチェルノブイリの原発事故による土壌汚染が若干残っている状態だった。知らぬが仏で、多くの道民は福島の原発事故が起きるまで、チェルノブイリの事故で北海道が多少汚染されたことを知らなかったのだ。そこに福一からの汚染が少し加わった。近畿地方でも福一由来の汚染が若干ある。偏西風にのってアメリカまで汚染されたのだから、日本中に放射性物質が飛んできたのは間違いないだろう。

 2011年の春はイソコモリグモの調査などで道南に何回か出かけたが、でかけるたびに喉の痛みを感じたし、東京に行ったときは風邪もひいていないのに喉が痛くなった。あれももしかしたら放射性物質の影響だったのかもしれない。

 福一由来の放射能は日本中に広がり、日本人の大半は被ばくをしたのだ。ただし関西や北海道は汚染の程度がそれほど酷くはないというだけのことだ。東北から関東にかけての地域は、場所によってはかなり深刻な汚染となった。そして、汚染地で造られた農作物や畜産物などが全国に流通している。広く薄く日本中に放射能が拡散している。それが日本の現状だ。

 言うまでもないが、福島の汚染はすさまじい。関東も場所によってはかなり汚染されている。そんなところにおびただしい人が放射能を気にしながらもやむを得ずに住んでいるのだ。福島県の子ども達の甲状腺がんの発症率も尋常ではない。被ばくによる健康被害が明らかに顕在化しつつある。

 ところがこの国では被ばくによる健康被害の問題はほとんど無視されてしまっている。それどころか除染で多少線量を下げて住民を汚染地に帰還させるという信じがたい方針を変えようとしない。そして政府も東電も原発再稼働へと突き進んでいるのだ。

 マスコミも被ばく問題は全くといっていいほど報道しない。政府もマスコミも被ばくによる健康被害に関しては貝のように口を閉ざしている。そんな中で頼りになるのは市民による土壌や食品の検査だ。しかし秘密保護法が施行されたなら、被ばくによる健康被害は隠されて、市民による情報も規制されかねない。何という国だろう。

 恐らく日本ではこれからじわじわと健康被害が広がっていくと思う。とりわけ早く影響がでるのは原発を容認してきた大人ではなくなんの責任もない子ども達だ。そう思うとほんとうにやるせない気持ちになる。


    
  


Posted by 松田まゆみ at 11:12Comments(2)原子力発電

2013年12月11日

原発は巨大地震の揺れに耐えられない

 福島の原発事故以来、エネルギー問題に絡んで、ときどき「安全な原発を目指すべきだ」という意見を言っている方がいる。しかし、いったい何をもって「安全」と言うのだろう?

 地震学者の島村英紀さんが、夕刊フジに以下の記事を書いている。

強震を過小評価する危ない“常識” 計画せよ! 生死を分ける地震の基礎知識 (島村英紀のホームページ)

 この記事で島村さんは、1995年の阪神淡路大震災以降に日本中に強震計が設置され、それによって大地震のときの揺れがそれまで考えられてきたよりもはるかに大きいことが分かってきたと書いている。

 阪神淡路大震災の前には「岩が飛び上がるほどの揺れ(980ガル超)」はないだろうというのが地震学者の常識だったというのだ。ところが、阪神淡路大震災の後に起きた新潟県中越地震(2004年)では2516ガル、岩手・宮城内陸地震(2008年)では4022ガルの加速度を記録したというのだ。しかし、ある電力会社の原発のホームページには「将来起こりうる最強の地震動として300-450ガル、「およそ現実的ではない地震動」として450ガル-600ガル、という数値が載せてあったそうだ。電力会社が「およそ現実的ではない」という地震の加速度よりはるかに大きな地震が起きているのが現実だ。

 つまり、日本の原発の耐震設計はせいぜい450-600ガルの揺れまでにしか対応していなかったと言っても過言ではないだろう。たとえば柏崎苅羽原発の耐震設計でも、300ガルの揺れを想定して設計されていた。以下参照。

地震と原発①柏崎苅羽原発の地震地盤論争と新指針(原子力資料情報室通信)

 実際、2007年の新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8、柏崎市の震度は6強、最大加速度は柏崎市西山長池浦で1018.9ガル)によって柏崎苅羽原発で事故が起きた。幸いにも放射能の大量放出は免れたが、このときに全国の原発の耐震設計について十分な検討を行うべきだったのだ。

2007年の中越沖地震で原発をやめるべきだった(つぶやきかさこ)

 日本で最初に商業原子力発電の運転が始められたのは1966年の東海原発だ。それ以降、日本の各地で原発の耐震設計を超える地震はいくつも起きており、柏崎苅羽原発も地震で事故が起きた。幸いにも柏崎苅羽原発の場合、福島第一原発ほどの過酷事故にはならなかっただ。3.11まで、日本の原発は苛酷事故を起こすほどの大地震の直撃は免れていただけのことだ。

 「安全な原発」という人は、3000ガルとか4000ガルもの揺れにも耐える原発を造ることが可能だと思っているのだろうか? 配管だらけの原発がそんな揺れに耐えられるとはとても思えない。

 近年、地球は巨大地震活動期に突入したという報告がある。

警告レポート 地球は巨大地震活動期に突入 世界の、日本の「次はここが危ない!」 (現代ビジネス)

 日本に原発がどんどん建てられていった時期はちょうど地震の静穏期だったとも言えるだろう。しかし、静穏期はいつまでも続くわけではない。

 3.11の東北地方太平洋沖地震では日本海溝の歪が開放されたが、北海道の太平洋側(千島海溝)や房総半島沖(伊豆小笠原海溝)、南西諸島(琉球)海溝に歪がたまっていて、巨大地震が起きる可能性があるとされている。マグニチュード8.5~9といった巨大地震が起きたなら、原発が大きな揺れに襲われるだけではなく大津波で浸水する可能性がある。太平洋側に立地する原発がまた大事故を起こす可能性は否定できない。

ほかに地震の巣はないか 大地震の「定説」見直す動き(朝日新聞) (阿修羅掲示板)

 上記記事で指摘しているのはあくまでも海溝型の地震であり、内陸で直下型地震が起きる可能性ももちろんある。こうしたリスクを考えるなら、日本に原発を造ったこと自体が間違いだといえるだろう。再稼働などもってのほかだと思う。

  


Posted by 松田まゆみ at 15:47Comments(2)原子力発電

2013年12月01日

【拡散希望】可視化された被ばくによる健康被害(追記あり)

 久しぶりに岡田直樹さんのブログを訪問したら、被ばくに関する極めて重要な論説が掲載されていた。実に詳細かつ具体的に論旨を展開しており、息をのむような優れた論考だ。

 私はこれまで福島の原発事故による被ばくの影響は、疾病や死亡率の増加などの客観的データからしか分からないと書いてきた。福島の子ども達の甲状腺がんの増加からも、これからは間違いなく被ばくによる健康被害が顕著になってくるだろうと思ってはいたが、統計的なデータがなければ被ばくとの因果関係まで言及できない。いくら自分の体調が不調だとか身近な人たちに異変が起きているなどと報告したところで、客観性がない。

 ところが、岡田さんは実際の疾病の増加データではなくGoogleの検索キーワードのトレンド(トレンドとは時代の趨勢、流行のこと)を表示する「Googleトレンド」を利用して東京での健康被害の実態を可視化したのである。2回に分けて論じられている岡田さんの記事はとても長いのだが、きわめて重要な指摘なのでぜひ最後まで読んでいただけたらと思う。

東京電力原発事故、その恐るべき健康被害の全貌-Googleトレンドは嘘をつかない- ①理論編(Space of ishtarist)

東京電力原発事故、その恐るべき健康被害の全貌-Googleトレンドは嘘をつかない- ②データ編(Space of ishtarist)

 岡田さんの論考は実に論理的かつ客観的だ。まずまず①の理論編について見てみよう。岡田さんの論理構成は以下だ。

●東京の放射能汚染は、「放射線管理区域」相当の汚染状況である。
●広島・長崎やチェルノブイリなどの過去の例からいって、被曝による健康被害の典型は癌ではなく、倦怠感・心不全・膀胱炎・ホルモン異常・免疫低下など、全身の多様な慢性疾患であること。
●「科学的にいって放射能は安全である」という議論の元となっているICRPは、論理によってデータを排除し、残ったデータで理論を強化する「神話」の「循環構造」を構成している事。
●東京電力原発事故の主たる放射性降下物は、セシウムを含む不溶性合金の放射性物質微粒子(ホットパーティクル)であることが実証されたこと。
●人工放射性物質と自然放射性物質の唯一の違いは、ホットパーティクルを構成しうるか否かであること。
●ホットパーティクルとよばれる人工放射性物質の微粒子のリスクを、ICRPの体系が過小評価していること。
●バイスタンダー効果など最新の生物学の知見によって、ホットパーティクル(放射性物質微粒子)の危険性が明らかになりつつあること。


 岡田さんはまず、福島の原発事故によって東京に2度にわたって大量の放射性物質が降下したことを取り上げ、公表されているデータから東京(少なくとも新宿)の汚染が放射線管理区域相当であることを示している。本来であれば放射線管理区域として封鎖されなければならないようなところに都民は生活しているのである。この点は小出裕章さんもずっと指摘していることだ。それにも関わらず東京が封鎖されないのは「都市機能が完全に機能不全に陥るから」と指摘する。要するに、政府には首都東京を放棄することができないという事情があるからだ。首都圏に住む3000万人以上もの人たちを速やかに非汚染地に移住させることは、経済的のみならず物理的にも不可能だろう。

 次に、「放射能は安全である」という言説についての考察を展開する。広島・長崎に落とされた原爆、あるいはチェルノブイリの原発事故における健康被害の事例などから、放射線による被ばくは癌だけではなく、人体のあらゆる部位にあらゆる形での疾患を発生させることをデータから示し、ICRPのモデルとECRRのモデルについて検証している。その結論は以下。

ICRPは、物理的な単位である吸収線量によって、基本的には健康被害が直線的に発生するという、物理学的(というか即物的な)アプローチを。それに対して、ECRRは、生命については判明していないことが多いという前提に立った上で、放射性物質が人体や細胞内でどのようなメカニズムで働いているのかを、実際の膨大なデータに基づいて仮説をたて、検証していくスタイルを取っています。
ECRRは、内部被曝に関して、ICRPの500倍から1000倍のリスクを主張するため、特に「極端」であると批判されます。しかし、ECRRによれば、主にγ線の外部被曝によるデータを、α線・β線も含む内部被曝に誤って適用しており、それゆえにICRPが内部被曝を極端に過小評価しているということになります。


 また人工放射能のホットパーティクルによる局所的被ばくの危険性について論じ、ICRPが内部被ばくによる健康被害を過小評価していることを指摘している。人工放射性物質と自然放射性物質の違いについては私も以前紹介した「さつき」さんのブログを紹介している。これは非常に重要なことなので、以下にもう一度紹介しておきたい。

天然放射能と人工放射能は違う(その1:単体の物理。科学的性質) (さつきのブログ「科学と認識」

天然放射能と人工放射能は違う(その2:ホットパーティクルの放射能) (さつきのブログ「科学と認識」

天然放射能と人工放射能は違う(その3:まとめ) (さつきのブログ「科学と認識」

 そして岡田さんがホットパーティクルに関して導き出した結論は以下だ。

1.放射性微粒子による内部被曝で問題になるα線とβ線について、ICRPは放射線荷重係数において過小見積もりしている可能性が高い。
2.ホットパーティクルによる細胞群の局所的な被曝は、1kgという巨視的な単位で平均化された吸収線量で測ることができない。
3.ホットパーティクルによる局所的な細胞群の高線量被曝は、発癌以外のあらゆる急性被曝症状を引き起こす可能性がある。
4.ホットパーティクルによる局所的な被曝は、電離密度の高さによって、DNAの二重鎖切断など、細胞に対する重大なダメージをもたらす可能性が高い。
5.ホットパーティクルによる細胞の継続的な被曝は、被曝によって細胞が複製モードに入るため、放射線に対する細胞の感受性を高める(セカンド・イベント理論)。
6.バイスタンダー効果およびゲノム不安定性は、ホットパーティクルによって集中的に被曝した細胞群の危険性を高める可能性が高い。
7.人工放射性物質のみが、ホットパーティクルを形成できる。


 さらに注目すべきことは、2度のフォールアウトのうち3月14~16日のフォールアウトについて「鉄まで合金になっているということは、3000℃近い温度で、燃料棒が気化したことを示しているように思われます」と述べている。

 ここまでは①の「理論編」の要点だが、②の「データ編」ではGoogleトレンドによって福島の原発事故の時点を境にしてさまざまな健康被害が増加しているという実態をデータによって示している。

 具体的には健康被害に関わる検索キーワード、たとえば「心臓 痛い」「胸 痛い」「血圧 高い(低い)」「動悸」「だるい」「湿疹」「爪 剥がれる」「鼻血」「喉 痛い」などといった検索件数の推移を東京と大阪(対照群)という地域に分けて検討したのである。岡田さんが東京と大阪を選んだのは、人口の多い大都市圏でなければグラフがうまく表示されないことが多いからだという。

 こうして出てきた検索トレンドのグラフを見ると、東京では福島の原発事故を境に体の不調について調べる人が急増していることが実感できる。これらの指標が「発病率」に近いと仮定したなら、福島から200km以上離れている東京ですら健康被害が増え続けていることを示している。しかも、大きな汚染を免れた関西でさえ決して安心な状況ではない。

 少し前に私の知人らがベラルーシなどを訪問したのだが、ベルラド放射線防護研究所でホール・ボディ・カウンターを受けたところ、北海道から参加した3人が13~20ベクレル/kgを検出したという。最高は埼玉県の方の23ベクレル/kgとのこと。私たち日本人のほぼ全員が被ばくしてしまったといえるのではなかろうか。早野龍五氏らの行ったホールボディ・カウンターの検査を鵜呑みにするのは危険だ。

 さて、私たちはこの現実をいま一度、直視する必要があるだろう。チェルノブイリの原発事故による健康被害は今も続いている。つまり、東北や関東などの汚染されてしまった地域に住んでいる人たちは、これ以上の被ばくを避ける努力をすべきだということだ。本来ならもちろん放射線管理区域に当たるようなところに人を住まわせてはならないのだが、福島を除染して住民を戻そうとしている国が、東北や関東に住む人たちの移住を補償するなどということは考えられない。汚染地に留まるリスクを避けたいのであれば、自力で移住するしかない。ただし、3月の2回のフォールアウトで受けた初期被曝による影響は、移住してもどうしようもない。

 移住ができない場合は、呼吸からの被ばくを避けるために、外出時はできる限りマスクをするべきだし、子どもが部活などで土埃にまみれるようなことは避けるべきだ。農作物の産地を選ぶのも大事だが、汚染水がダダ漏れの太平洋で獲れた魚介類はとくに要注意だろう。産地偽装があるので難しい面もあるが、気をつけるに越したことはない。食品に気をつけるのは東北や関東以外でも同じだ。自分の身は自分で守るしかないのだから。

 最後にひとこと。岡田さんの論考を読めば、福島の原発事故では健康被害は出ないと吹聴していた菊池誠氏や野尻美保子氏ら「ニセ科学批判」に集う科学者たちの認識不足がよく分かる。否、認識不足にとどまらない。彼らは自分たちの主張に都合の悪い論文に触れようとしないし、放射性物質の危険性について説く人に対し、「福島の人たちへの差別だ」といって論点を逸らせてきた。これは科学者としてあるまじき怠慢であり無責任の極みだ。なぜならこの論考を書いた岡田さんの専門は社会哲学・社会システム理論であり、科学を専門とはしていないからだ。「ニセ科学批判」「科学者」という看板に騙されてはならない。

【12月2日追記】
 放射線被ばくによる健康被害が癌にとどまらず様々な疾病や体調不良を引き起こすことはチェルノブイリの原発事故などから明らかになっている。チェルノブイリの原発事故当時は分かっていなかったことなのだが、多様な健康被害の引き金となる細胞へのダメージに関してはエピジェネティクスがひとつの重要なポイントになるのではなかろうか。内部被曝とエピジェネティクスについて示唆に富む書評記事が目に止まったので、紹介しておきたい。

内部被曝とエピジェネティクスについて(講談社ブルーバックス『エピゲノムと生命』を読んで感じたこと(いちろうちゃんのブログ)

 今までは何の役にも立っていないのではないかと思われていた「ジャンクDNA領域」と呼ばれていたDNAの一部分がある。ところがこのDNAが転写によって生みだす「ノンコーディングRNA」は複雑な遺伝子制御に関わっていて、複雑な生命プログラムの実行を可能にしているという。何の役にも立っていないと思われたDNAが、生命維持に欠かせない重要な役割を持っているのだ。

 被ばくによる健康被害を論じる際はDNAの損傷が持ち出されるのだが、この「ジャンク」とされてきたDNAが放射線で破壊されることも考えねばならない。この記事を書かれた田中一郎さんは、「放射線被曝とは、遺伝子の破壊のみならず、生物の生命秩序全体の破壊=細胞内の全生理メカニズムの崩壊をもたらす、巨大は破壊作用です」と主張している。

  


Posted by 松田まゆみ at 15:51Comments(14)原子力発電