さぽろぐ

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2013年11月14日

森林を追われたトタテグモ

 前回の記事でキシノウエトタテグモを紹介し、「森林の雨に当たりにくい斜面や崖地などに穴を掘って生活している」と書いたのだが、トタテグモ類の生息地については少し説明が必要だ。

 私が東京に住んでいた頃、キシノウエトタテグモの生息地として思い浮かべるのは崖地だった。クモ愛好者の多くは「崖地に多い」という認識だったと思うし、自分が見ていた生息地も散策路の脇にある崖地だった。だから、「キシノウエトタテの生息地は崖地」「崖地があればキシノウエトタテがいるかもしれない」というように頭にインプットされていたと思う。また、巣穴に両開きの扉をつけるカネコトタテグモもキシノウエトタテグモと似たようなところに棲んでいる。

 ところで北海道にはエゾトタテグモが生息している。しかし、以前はエゾトタテグモの観察例が少なく、住居(巣穴)が確認されたのは1973年になってからだ。この記録は東亜蜘蛛学会(現在は日本蜘蛛学会)の機関誌である「ATYPUS」の61号に掲載されている。それによると、発見場所は阿寒湖周辺の崖地で、横穴式両開きとなっている。

 その後、北海道に住むようになった私は、折に触れ崖地でエゾトタテグモの巣穴を探したのだが、一向に見つからない。しかし家の近くで死体や徘徊している個体を見かけることもあり、生息していることは間違いなかった。生息しているのは間違いないのに崖地で巣穴が見つからないのだから、なんだか狐につままれた気分だった。

 後年、エゾトタテグモが森林に仕掛けたピットフォールトラップによくかかることを知った。ピットフォールトラップというのは地面に穴を掘ってプラスチックのコップなどを埋め込み、地表を徘徊する昆虫などを捕える罠である。また、森の中の地面を掘っていると土の中から立派なエゾトタテグモが出てくるという場面にも遭遇した。

 つまり、エゾトタテグモは崖地に巣穴をつくることは少なく、ふつうは森林の地表に巣穴を掘って棲んでいるのだ。森林の地表は落ち葉や植物に覆われているので、エゾトタテグモの巣穴は簡単に見つけることができない。崖地に巣穴があれば見つけるのは比較的容易だが、森林の地表であれば見つけるのは困難になる。

 キシノウエトタテグモやカネコトタテグモが崖地でよく見られる上、最初にエゾトタテグモが発見されたのが崖地であったため、私はすっかり崖地に巣穴があると思い込んでいた。しかし、崖地の巣穴というのは実は珍しいのである。思い込みとは実に恐ろしい。

 ということは、キシノウエトタテグモの生息地も崖地とは限らないはずだ。池田博明氏の「クモ生理生態事典」では、生息地は家の土台石、敷石の脇、石垣、崖、植え込みの地面、木の根元などとなっている。しかし、これらの生息地はほとんど人為的な環境である。では、もともとはどんなところに棲んでいたのだろうか? 以下のサイトでそのことに触れられている。

キシノウエトタテグモ(東京都環境局)

 ここでは「本来は森の中の地面に生活するクモですが、寺や神社の境内や人家の周辺にも生息しています」となっている。

 キシノウエトタテグモももともとは森林の地面に穴を掘って生活するクモなのだが、道路脇の崖地や建物の土台近くなどにも生息地を拡大したのだろう。こうした場所は雨が当たりにくいという利点もある。そして、そのような人家周辺の生息地こそ人目につくために、キシノウエトタテの生息地は「崖地や建物の土台石」と思うようになってしまったのだ。しかし、崖地や人家周辺というのはこのクモの本来の生息地ではない。

 話しをエゾトタテグモに戻そう。エゾトタテグモの場合、崖地の巣穴は珍しいと書いたが、それは寒さとの関係ではないかと私は考えている。寒冷な北海道ではクモの多くは積雪下で越冬する。雪が積もってしまえば、地表近くでも0度くらいに保たれるのだ。しかし、積雪下にならないような崖地の巣穴はもろに寒さに晒されてしまうだろう。マイナス20度とか30度という寒さに対する耐寒性を持たなければ生きていけない。雪にすっぽり被われる地表の巣穴なら、容易に越冬できる。

 ところで、前述の「クモ生理生態事典」のキシノウエトタテグモの項には「東京・横浜・京都など大都市の中心部に多く, 郊外に行くに従って減少する.」と書かれている。

 本来は森の地面に穴を掘ってひっそりと生活していたはずのクモが、大都市の中心部に多く、郊外に行くに従って減少するというのはどういうことなのだろうか?

 ビルのひしめく大都市といっても、一気に自然が破壊されたわけではない。お寺や神社、庭園、大学の構内、墓地などは人手が加わってはいるもののある程度の樹木が残されてきた。都会には大きな改変を免れた緑地が点々とあり、そこには餌動物もかろうじて生息している。キシノウエトタテグモは、森林からそんな人為的環境へと進出して生き延びてきたのだろう。

 一方、郊外の住宅地は丘陵地や農地などをブルドーザーで崩し、根こそぎ自然を破壊してしまったところが多い。そんなところでは森林から人為的環境に移り住む余裕すらあまりなかったのではなかろうか。

 都会に生息しているからといって、都会の環境が彼らにとって好適な生息地だとは思えない。本来の生息地である森林を追われ、かろうじて残された猫の額のような緑地の中の人為的環境に生き残っているということを忘れてはならないと思う。

  


Posted by 松田まゆみ at 14:39Comments(0)クモ

2013年11月12日

生息地破壊が懸念されるキシノウエトタテグモ

 数日ほど東京に行っていたのだが、その間に散歩がてらに実家近くのキシノウエトタテグモの生息地を覗いてきた。

 キシノウエトタテグモは森林の雨の当たりにくい斜面や崖地などに穴を掘って生活している原始的なクモの一種だ。巣穴といっても、穴にはちゃんと扉がついているために、注意深く探さないとどこに巣穴があるのか分からない。意識して探さない限り、一般の人が気づくことはほとんどないだろう。

 下の写真の中央に巣がある。

キシノウエトタテグモの巣穴



 こちらは巣穴を開いたところ(上の巣穴とは別の巣)。

扉を開いた巣穴



 このクモが生息している崖地には、よく見ると扉の取れた古巣がある。だから、古巣の存在でもキシノウエトタテグモが生息しているかどうかの見当はつく。

 今回はあまり大きな巣穴は見つからなかったが、小さめのものはいくつかあり、まだ健在であることが確認できた。

 今の季節は見られないが、7月頃に行くと「クモタケ」というクモに寄生するキノコが巣穴から生えていることもある。このクモタケの存在もキシノウエトタテグモが生息していることの目印になる。

 キシノウエトタテグモは環境省のレッドリストで準絶滅危惧に指定されている。

 キシノウエトタテグモは人家周辺などにも生息しており決して珍しいクモではないのだが、このクモがよく見られる崖地は工事などで簡単に壊されてしまいかねない場所も少なくない。しかもこんなところに希少なクモが生息していると気づく人はまずいない。そんなわけで生息地の破壊が懸念されるクモの一つだ。

 キシノウエトタテグモやそれに寄生するクモタケの写真はこちらをどうぞ。

キシノウエトタテグモ(クモ画像集)



  


Posted by 松田まゆみ at 22:05Comments(2)クモ

2013年09月16日

木の幹に棲むムレサラグモ

 8月下旬にムレサラグモ(Drapetisca socialis)を探しに行ったときには1頭も見つけられなかったのだが、9月11日にもう一度探しに行った。数十本のシラカンバなどの幹を見て回り、1頭だけ見つけることができた。





 ムレサラグモの成体が現れるのは夏の終わりから秋にかけて。そして、生息している場所は木の幹である。特に、カンバ類やトドマツなど、樹皮がなめらかな樹種を好むようだ。モノトーンの斑紋は隠蔽色となっており、樹皮に紛れて目立たない。また斑紋は個体変異がある。

 ムレサラグモの学名のsocialisは、「仲間の」「社会の」という意味である。このクモを観察していれば分かるが、しばしば1本の木の幹に何頭も見られることがある。和名のムレサラグモの「ムレ」は「群」のことだ。

 クモは基本的に単独生活者だし、サラグモの仲間は大半が皿状の網を張る。ところがムレサラグモはしばしば群がっているし、皿状の網を張らない。かなり変わり者のサラグモだ。

 幹にいるムレサラグモはどう見ても徘徊性(網を張るクモを造網性、張らないクモを徘徊性という)のクモにしか見えない。しかし、よくよく見るとクモのいる場所には細かく糸が張られていて網を持っていることが分かる。下の写真ではクモの左側に網が見えるのだが、分かるだろうか?





 それにしても、この季節にたった1頭しか見つからないというのはどうしたことなのだろう? たまたま今年は個体数が少ないだけならいいのだが、ちょっと気になってしまう。

 同じように幹を生活の場としているサラグモにキノボリキヌキリグモ(キハダキヌキリグモ)がある。キノボリキヌキリグモは長野県の高地の森林で数頭見たことがあるが、湿度の高い自然林の苔むした樹皮に生息していた。原生林の減少とともに数が減っているクモだろう。日本での記録は少なく、希少なクモだ。

 キノボリキヌキリグモの写真は以下を参照いただきたい。

キノボリキヌキリグモ(キハダキヌキリグモ) (三重クモ談話会ホームページ)

  


Posted by 松田まゆみ at 21:20Comments(0)クモ

2013年09月01日

命をつなぐマルコブオニグモ

 先日、ムレサラグモの写真を撮りに行こうと思い立った。フイルムカメラを使っていた頃に写真を撮ったことがあるが、考えたらデジカメでは写真を撮っていなかったのだ。ムレサラグモは夏の終わりから秋にかけて成体が出現するサラグモの仲間で、カンバ類やトドマツなどの幹に多い。

 今の季節ならまず間違いなく見られるだろうと思っていたのだが、何本ものシラカンバの幹を見て回っても全然姿が見られない。いったいどうなっているのだろう??

 で、ムレサラグモの代わりに見つけたのがマルコブオニグモ(Araneus rotundicornis)。その名のとおり、腹部に丸みを帯びた二つのこぶがある。卵のうを守っているのだが、すでに子グモがふ化しているようだ。北海道のクモの多くは幼体で越冬するが、マルコブオニグモも子グモで越冬するのだろう。こうして次世代へと命が引き継がれていく。





 マルコブオニグモは北海道では平地にも生息していてそれほど珍しい種ではないが、個体数は多くはない。本州では山地に生息し、珍しい種のようだ。

 もうずいぶん昔のことになるが、北アルプスの常念岳の山頂近くのハイマツの茂みにこのクモが何頭もいた。本州でも標高の高いところでひっそりと暮らしているのだろう。

  


Posted by 松田まゆみ at 13:39Comments(0)クモ

2012年12月29日

イソコモリグモの未来は如何に・・・

 先日届いた東京蜘蛛談話会の会誌「KISHIDAIA」にはイソコモリグモ関係の報告が複数掲載されていた。その中でも興味をひかれたのは、谷川明男さんと新海明さんによる「今そこにいるイソコモリを大切にしよう」という報文。谷川さんと新海さんは日本各地のイソコモリグモ生息地を訪ねて採集を行い、遺伝子解析を行ったのだが、その概要が説明されている。

 内容をかいつまんで紹介しよう。

 イソコモリグモは北海道と本州に生息している。北海道では磯海岸を除きほぼ全周に生息地がある。本州の日本海側では青森県から島根県まで分布し、太平洋側では青森県と岩手県北部、そして茨城県に分布する。これらの44カ所でイソコモリグモを採集し遺伝子解析を行ったところ、AからFの6つの系統群に分けることができた。

 これらの6つの系統群はAグループ(北海道・青森県および岩手県北部の太平洋側・青森県と秋田県北部の日本海側)とBグループ(青森から新潟県までの日本海側)が一部(青森県と秋田県北部の日本海側)で重なっているほかは、異所的に分布していることが分かった。また、海岸間の集団構成には大きな違いがある。

 つまり、日本のイソコモリグモは遺伝子レベルで6つのグループに分けられ地域ごとに分化しているが、ひとつの海岸(一続きの生息地)内では遺伝子構成の違いが少ない。このことから、イソコモリは移動能力が低いクモであると推測される。


 クモはバルーニングといって空中飛行をすることが知られており、種によってはかなり遠方まで移動することができる。しかし、イソコモリグモの場合はそのような移動はしないようだ。

 北海道と東北北部に生息するイソコモリが、同じグループであることも興味深い。おそらく海水面が低下して北海道と青森が陸続きになったときに、北海道のものが南下したのだろう。イソコモリグモの分布拡大には海水面の低下による生息地の拡大が大きく関わっていたに違いない。私はミズグモもおそらく同じようにして海岸沿いに分布を広げたのではないかと推測している。

 私はここ数年にわたって北海道のイソコモリグモ生息地を回って見てきたが、小さな入り江の砂浜などに隔離分布しているところがいくつもあった。しかし、そのような生息地が破壊などによって絶滅してしまったなら、まず回復することはできないだろうと思っていた。今回の谷川さんと新海さんの解析は、まさにそのことを証明している。

 イソコモリグモは、時には孤立したほんの小さな砂浜で生き続けている。この逞しさによって、絶滅と分布拡大を繰り返しながら何万年も生きてきたのだろう。しかし、海岸線がどんどん護岸され、あるいは浸食によって削られていく昨今、イソコモリの将来は決して安泰ではない。

 もし、ふたたび氷期が訪れて海水面が低下し、隔離されていた生息地が砂浜で繋がったなら、絶滅してしまった生息地にもイソコモリが復活するかもしれない。しかし、次の氷期が訪れる以前に護岸や海岸浸食などによりイソコモリが絶滅してしまう可能性の方が高いのではなかろうか。あるいは原発事故や核兵器による放射能汚染によって、人類を含む地球の生物は絶滅の危機に瀕するかもしれない。

 人類の近代文明は何万年も生き続けた種を簡単に絶滅に追いやってしまう。人類の罪ははかり知れない。

  


Posted by 松田まゆみ at 22:18Comments(2)クモ

2012年08月29日

マツダタカネオニグモ調査で望岳台へ

 晴天に恵まれた昨日は、十勝岳の登山口である望岳台にマツダタカネオニグモの調査に行った。下の写真は望岳台からの十勝岳。写真では分かりにくいが、火口からはもくもくと噴煙が上がっている。





 望岳台(標高930m)周辺には岩塊地があり、散策路も整備されている。岩塊地の周辺には植物も豊富で緑岳のように風は強くなく、マツダタカネオニグモの生息適地のように思える。

 ただし、気になるのは活火山で岩塊が新しいということだ。近年も小規模な噴火が起きている。1988年末の噴火では私の住んでいるところでも降灰があって雪がうっすらと黒くなった。新しい火山の場合、かつては生息していたが大規模な噴火で絶滅したということも考えられる。

 岩塊地に向かうべく散策路の入口を覗いてドッキリ。橋が落ちていて通れそうにない。しかしよく見ると、落ちた橋の横に通路がついている。やれやれ・・・。





 散策路を歩いていて気づいたのだが、道の脇に並べられている石が、何者かによって動かされている。





 こんな重い石を人がいたずらで動かすとは考えにくい。しかも、何カ所もある。とすると・・・これはヒグマの仕業だろう。アリでも探して石を動かしたのではなかろうか。人間にとってはとてつもなく重い石でも、ヒグマにとっては片手でちょいと動かせるに違いない。くわばらくわばら・・・。

 ちょっと歩くと、ナキウサギの声が聞こえる。ここはとてもナキウサギが多いところだ。貯め糞や貯食もある。ナキウサギの糞は大きさといい形といい正露丸にそっくりだ。





 目的の岩塊地にはほどなく着いた。こんな場所だ。





 露岩帯を登りはじめるとすぐに岩の間に張られた円網を見つけた。「おお、ついに生息確認か!」と小躍りしたのもつかの間、隠れ家からするすると網に出てきた蜘蛛はオレンジ色をしていてマツダタカネオニグモとは違う。ニワオニグモの子グモだ。残念!





 しばらく岩塊地を這いつくばって網を探したのだが、円網を張っているクモはニワオニグモの子グモばかりだった。それと、サンロウドヨウグモ。サンロウさんは岩穴の入口に水平に近い円網を張っている。

 こちらはヒメグモの仲間。たぶんオオツリガネヒメグモだろう。円網ではなく不規則網を張る。





 というわけで、今回も残念ながらマツダタカネオニグモを見つけることはできなかった。私はタカネコモリグモやナキウサギの調査などで北海道各地の岩塊地を見ているが、今のところ然別火山群とユニ石狩岳の大崩れでしか確認していない。このクモは環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類になっているが、北海道中央高地のごく一部の地域の露岩帯にしか生息していないとしたなら希少性はかなり高いといえるだろう。

  


Posted by 松田まゆみ at 16:13Comments(0)クモ

2012年08月16日

緑岳でのマツダタカネオニグモ調査

 14日は大雪山の緑岳中腹の岩塊地に出かけた。前回の桂月岳に続き、高山の岩塊地でのマツダタカネオニグモの調査だ。

 高原温泉から急坂を登ると、まだ雪渓の残る第一花畑に出る。もう花の盛りは過ぎていて、チングルマは大半が実になっている。ピンクのエゾノツガザクラの花は終わってしまったようだが、アオノツガザクラ(写真上)やエゾコザクラ(写真下)はまだ十分楽しめた。









 第一花畑から第二花畑を経て、ハイマツの緩斜面をたどると緑岳への大斜面に出る。岩塊の斜面なのだが、ハイマツも結構多い。斜面の中ほどより少し上、標高1850メートル前後のところにハイマツの少ない露岩帯があり、そこが目的地だ(緑岳に向かって右側に崩壊斜面があるが、左側の岩塊斜面に登山道がついている)。





 前日は雨天だったが、この日は晴れて登山日和になった。岩の間に網を張るマツダタカネオニグモは、晴天になると一斉に網を張り始めることが多い。だから、ここに生息していたならこんな日は網が見られる可能性が高い。

 緑岳の大斜面を登り始めると、風がどんどん強くなってきた。ときどき吹き飛ばされそうな強風に襲われひどく寒い。さっきまでTシャツ一枚で汗をかいていたのだが、長袖シャツを着て、さらに合羽の上着も着込んだ。それでも寒い。

 目的地の岩塊斜面でひとしきり網を探したのだが、結局見つけることはできなかった。やはり大雪山の高山帯には生息していないのだろうか。





 この岩塊地にはもちろんナキウサギが生息していて、ときおり鳴き声が聞かれる。岩穴には貯食もあった。ハイマツばかりでナキウサギの餌になる植物が豊富とは思えないのだが、どこからかちゃんと植物を集めてきている。こんな厳しい環境で生きているナキウサギの生命力に驚かされる。





 日本の山は、冬には世界一の強い風が吹くという。これは、ヒマラヤの北と南を迂回してくるジェット気流が日本の上空で収斂するためだそうだ。(小泉武栄:美しく世界的にも得意な日本の山 参照)

 夏でも日によってはかなりの強風にさらされる高山の露岩帯は、円網を張るクモにとっては条件のよい環境ではないのかもしれない。雲海におおわれることが多ければ餌となる昆虫もそれほど捕獲できないだろう。これまでこのクモが確認されているのは森林帯にある露岩帯なのだが、高山帯より森林帯の方がはるかに条件は良いように思える。

 もちろんこれだけの調査では結論づけられないが、大雪山の高山の露岩帯には生息していない可能性の方が高いような気がしてきた。

 高原温泉には、世界でここでしか知られていないダイセツヒナオトギリの群落がある。かつてはもっと広く分布していたもののここだけに取り残されてしまったのだろうか。なんとも不思議な植物だ。





    
  


Posted by 松田まゆみ at 10:44Comments(0)クモ

2012年08月05日

マツダタカネオニグモは大雪山の高山帯に生息しているか?

 3日は大雪山の桂月岳に登ってきた。黒岳の石室からすぐの山だが、これまで登ったことはなかった。

 今回の登山の主たる目的は、マツダタカネオニグモ(Aculepeira matsudae)の生息調査だ。このクモは岩の積み重なった岩塊地に生息するのだが、今のところ北海道中央高地の然別火山群一帯と、ユニ石狩岳(ユニ石狩川コース)の登山コースの途中にあるガレ場でしか確認されていない。然別火山群の生息地は標高がおよそ1000~1200メートル前後であり、ユニ石狩岳の生息地は標高約1300メートルだ。どちらも山地ではあるが森林限界より上の高山帯というわけではない。





 岩塊地はもちろん大雪山の高山帯にもある。私はこれまでにニペソツ山の前天狗岳の岩塊地や白雲岳の山頂近くの岩塊地でこのクモがいないかと探したことがあるのだが、見つけることができなかった。

 桂月岳も山頂付近には岩塊地がある。そこで、調査に行ったのだ。山頂付近の岩塊地はこんな感じ。









 面積的にはそれほど広大ではないものの、大きな岩の積み重なりがあり生息が可能と思われるのだが、残念ながら見つけることはできなかった。

 このクモに大変よく似た近縁種のAculepeira carbonarioidesは、北米大陸ではアラスカ、カナダのほかロッキー山脈の岩塊地に生息しており、コロラドでは標高11.000フィート(メートルに換算すると3,353メートル)のところにも生息しているという。ロッキー山脈では高山帯の岩塊地にも生息しているクモなのだ。

(ここに Aculepeira carbonarioidesのことが書かれている海外のサイトをリンクさせたら、「本文に登録できない単語が含まれています」という警告が出てしまいアップできない。別に問題のあるサイトではないのに、「さぽろぐ」はどんな設定になっているのだろう)

 北米大陸での分布から考えるならば、北海道の高山帯に生息していても何らおかしくはない。ところが、不思議なことに今のところ北海道では高山帯からは見つかっていないのである。

 然別火山群での観察では、このクモは天気のよい日には岩塊の間に円網を張って中央に止まっているのだが、天気が悪い日は網もほとんど見られない。桂月岳に登った日も霧がかかっていてほとんど日が差さなかった。この天気では生息していたとしても網を張っていない可能性が高い。

 大雪山の高山帯で見つからないのはそもそも生息していないのか、それとも見つけられないだけなのか・・・。この疑問を解くためには晴天の日に岩塊地のある高山帯を調べなければならないのだが、年齢とともに体力の方は自信がなくなる一方だ。
  


Posted by 松田まゆみ at 17:12Comments(0)クモ

2012年06月22日

逞しく生きるイソコモリグモ

 17日から19日にかけて、道北にイソコモリグモの調査に出かけた。道北は一通り見ているのだが、気にかかっていた場所があり補足調査をしたのだ。

 その結果、前回は見つけられなかった場所で確認できたところが何カ所かあった。その中のひとつは稚内市の「こうほね沼」。

 「こうほね沼」のあるあたりは浸食によって海岸線が後退して沼に迫ってきており、沼への海水の流入が懸念されている。このために沼の周辺は護岸されており、前回ここに来たときには一目見て生息不可と判断した。ところが、今回また護岸部分を歩いてみると、何とこの護岸の脇のわずかな砂地にイソコモリグモの巣穴があったのだ。これには驚いた。

 下の写真の中央の棒を立てたところに巣穴がある。右側が護岸で、沼は左側。





 穴からはイソちゃんの顔が見えた。





 上の写真からも分かるように、護岸を超えて流木が流れついている。波の高いときはここまで海水がくるのだ。

 下の写真も護岸の脇だ。中央に横たわる物体は遠くから見ると流木のようにしか見えないのだが、実は流木ではない。





 実は、これはクジラの骨なのである。沼の南の砂浜でも、同じ個体と思われるクジラの骨があった。でも、多くの人はこれが何なのか気づかないのかもしれない。









 もう一カ所、驚くべきところに巣穴を見つけたのが、遠別川河口の「みなくるビーチ」という海水浴場だ。

 このあたりは海流の関係なのか、海岸にものすごい量の流木とゴミが流れ着くらしい。流木とゴミの山ではとても海水浴場にならない。このために重機でゴミ処理をし、砂浜をならしているのだが、なんとそこにもイソコモリの穴があった。棒が立っているところに巣穴がある。





 こんな風に、イソちゃんはけっこう逞しい。この逞しさゆえに氷河期も、縄文海進のときも生き延びてきたのだろう。しかし、昨今の人間による開発と護岸工事には勝てず、生息地の分断化と縮小が続いている。
  


Posted by 松田まゆみ at 23:42Comments(0)クモ

2012年01月07日

イソコモリグモの分布と大津波

 イソコモリグモは海岸の砂浜に巣穴を掘って生活している大型のコモリグモだ。日本では、北海道と本州に生息している。北海道では広く分布しているのだが、興味深いのは本州の分布だ。

 本州の場合、日本海側と太平洋側ではかなり分布の様相が異なっている。日本海側では富山県と兵庫県を除き、青森県から島根県まで生息が確認されている(とはいっても、自然海岸の消失によってかなりとぎれとぎれになっているのが実態だが)。それに対し、太平洋側では青森県から岩手県の北部に生息するほか、宮城県、福島県をとびこして茨城県に隔離分布しているのだ。

 砂浜のほとんどない三陸海岸に分布していないのはわかるが、なぜ砂浜のある宮城県や福島県には分布していないのか? 日本海側ではかなり西まで分布を広げているのに、なぜ太平洋側は茨城県が南限なのか?

 私は、その理由は津波にあるのではないかと考えている。東北地方がしばしば大津波に襲われたことはよく知られている。日本海側に比べ、太平洋側は圧倒的に大きな地震が多く、海岸はしばしば大津波に洗われてきたのだ。

 仙台の七北田川の河口に広がる蒲生干潟は渡り鳥の渡来地として知られ、かつて東京に住んでいた頃、何回か野鳥の観察にでかけたことがある。ここには「日和山」と呼ばれている標高数メートルほどの小高い丘があり、野鳥の観察にうってつけの場所だった。しかし、あの3.11の大津波でこの日和山は跡形もなく消失してしまったのだ。

蒲生干潟の現状~干潟生態系、徐々に復元~(JAWAN REPORT)

 日和山や松林を飲み込んでしまうほどの大津波が押し寄せたなら、イソコモリグモの生息地などひとたまりもないだろう。茨城県の生息地は、そうした津波被害からなんとか逃れて存続してきたものではなかろうか。

 岩手県北部の生息地も、先日グーグルアースで見たところ、かなり津波の被害を受けているようだった。ここのイソコモリグモは果たして生き延びることができただろうか?

 ここ3、4年ほど北海道の海岸を回ってイソコモリグモの生息調査を行ってきたが、北海道の海岸でもイソコモリグモが「いそうでいない」というところがある。たとえば道東の根室半島の太平洋側だ。生息していてもおかしくないとても雰囲気のいい砂浜がいくつかあるのだが、ここでは生息の確認ができなかった。

 それでふと思ったのが、津波の影響だ。北海道の沖にもプレートの境界がありしばしば大きな地震が起こっている。道東の海岸は過去に何回も大きな津波に襲われたはずだ。その津波によって生息地の砂浜がさらわれてしまったのではなかろうか? その後、また砂が堆積してイソコモリグモの生息適地が復活しても、移動能力の小さいイソコモリグモは簡単に分布を広げられないのだ。

 海浜特有の生物にとって、生息地をそっくりさらってしまう大津波は脅威に違いない。茨城県に隔離分布するイソコモリグモは度重なる大津波から逃れ、ひっそりと生き延びてきたと思えてならない。

 かつては大津波で生息地が消失することがあっても、長い時間をかけて近隣の生息地から移動してきた個体によって分布を広げることもあったのだろう。しかし、人間が自然の砂浜を破壊し、コンクリート護岸だらけにしてしまった今、イソコモリグモの生息地は大きく分断されてしまった。こうなってしまうと移動能力の小さい生きものは滅びていくしかないのだろう。クモにとって自然の脅威以上に恐ろしいのは人間なのだ。

  


Posted by 松田まゆみ at 11:05Comments(0)クモ