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鬼蜘蛛の網の片隅から › 2018年01月27日

2018年01月27日

温暖化への警告の書、ナオミ・クライン著「これがすべてを変える」

 カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインの「これがすべてを変える 資本主義VS 気候変動」(上・下2巻 岩波書店)を読み終えた。上下巻合わせ、本文だけで600ページ(引用文献が上下巻合わせ130ページほど)を超える大作だ。

 近年は夏の異常な高温や集中豪雨、あるいは寒波などの異常気象が目に見えて増えてきているにも関わらず、日本では地球温暖化の問題が深刻に捉えられているとは思えない。アル・ゴアの「不都合な真実」が話題になった頃は温暖化議論も活発化したが、昨今では温暖化問題はさっぱり目にしなくなった。

 それどころか、「地球は寒冷化しているから化石燃料をどんどん燃やしても問題ない」「温暖化説は陰謀」などといった温暖化否定論や陰謀論が一定程度の支持を得ているようだ。とりわけ反原発を唱える人の中にこうした陰謀論が根強いように感じる。CO2温暖化説は原子力推進派による陰謀だと。

 私もブログやツイッターで温暖化説を支持する発言をした際に、否定派の人から「説得」とも受け取れる反論をされたことがある。彼らは完全に否定論や陰謀論を信じこんでいるから本書などは読む気もないのだろうけれど、本書を読めば、化石燃料採掘会社と、化石燃料の消費によって富を得ている一握りの人たちこそが温暖化否定論や陰謀論の根源であることを思い知らされる。

 今や97%の科学者がCO2による地球温暖化を認めているし、このまま二酸化炭素の放出量が増え続けると今世紀終わりまでに世界の気温は今より4度上昇するという予測まである。4度上昇した世界がどんなものになるのか。海水面が上昇し、いくつかの島嶼国家だけではなく広範囲にわたって海岸部が水没する。熱波が人の命を奪い、暑さのために主要作物の収穫量が大幅に減少。干ばつや洪水、害虫の大発生、漁業の崩壊、水供給の破壊・・・。そして何よりも恐ろしいのは、ティッピングポイントと呼ばれる臨界点を超えてしまった場合に起こる暴走。そうなったらもはや人の力で阻止することは不可能だ。

 地球温暖化をこのまま放置したなら世界中の人々に壊滅的な影響を与える。だからこそ世界の国々が温室効果ガス削減に向けて交渉を続けてきたが、二酸化炭素の放出量を減らし、再生可能エネルギーに転換する取り組みは遅々として進まない。二酸化炭素の排出量は増える一方で、最悪の事態に向かって突き進んでいる。著者はその理由を規制緩和とグローバル化を推し進めてきた市場原理主義にあると喝破する。

 大量生産と大量消費、グローバル化による物資の大量輸送が化石燃料を大量に消費することは言うまでもない。さらに、新自由主義によって富の極端な集中と格差の拡大がもたらされた。今すぐに市場原理主義から持続可能な経済へと変革していかなければ温暖化による壊滅的な被害は避けられないが、今ならかろうじて間に合うと著者は言う。

 端的に言うなら経済成長を目指す資本主義から脱するしか解決の道はない。本書のタイトルには「資本主義 VS 気候変動」とあるが、だからといって社会主義を主張しているわけではない。独裁的社会主義もまた資源をむさぼり廃棄物をばら撒いてきたからだ。すなわち、搾取主義と過度の輸出から脱し、持続可能な社会を築くしか道はない。

 具体的には、大量消費のライフスタイルを見直すとともに、リサイクル、公共交通の利用や農産物の地産地消などを進める。また国による規制強化や炭素税、富裕層への課税強化などによる収入の確保、地域コミュニティーによる再生可能エネルギーの管理、公共交通や再生エネルギーなどへの公共投資を提案する。経済成長から定常経済への移行は決して不便な時代への逆戻りではない。真の民主主義を取り戻すことで格差を解消し人々の生活を向上させることが可能だという。

 著者が最も言いたいのは、我々が直面している地球温暖化の危機は、新自由主義による暴走や格差の拡大を絶ち切って真に民主的な社会を構築するチャンスになり得るということだ。たとえば著者が「抵抗地帯」と呼ぶ化石燃料採掘やパイプラインの建設に反対する住民運動が世界で繰り広げられるようになった。こうした人たちが再生可能エネルギーの推進、転換へと動き始めている。地域に根差した草の根の運動こそが改革を可能にするというのが著者の考えだ。

 私自身、これまでもブログやツイッターで「永遠の経済成長などあり得ない」という主張をしてきた。地球の資源は有限であり、人類も地球の生態系の一員である以上、資源の浪費を止め持続可能な暮らしを維持しない限り、人類は自分で自分の首を絞めることになりいつか破綻すると。地球温暖化は人類が地下に眠っている化石燃料を使い放題にし、そこから得られる利益を一部の人たちが独占するという資本主義のシステムによってもたらされたというナオミ・クラインの指摘はその通りだと思う。

 地球上で、環境を汚染させ、富の蓄積を目指す生物など人間の他にいない。地球のシステム、自然の力は人類の知恵や技術に及ばない。生態系から大きくはみ出して環境を汚染させ続けたなら、必ず自然によるしっぺ返しがくる。その一つが地球温暖化だ。

 昨今は石油に変わって天然ガスがもてはやされている。しかし、フラッキング(水圧破砕)によるシェールガス・オイルの抽出やオイルサンドの採掘が従来の化石燃料の採掘より遥かに多くの温室効果ガスを排出することは日本ではほとんど報じられない。またこれらの採掘は自然破壊だけでなく有毒物質による環境汚染を引き起こし、パイプラインからの漏出は大規模な環境汚染を引き起こしている。私たちはこうした事実を知り、危機感を持って向き合わねばならないと痛感した。

 本書は2014年に出版され、すぐさま25カ国語に翻訳されたという。それほど注目を浴びる書だ。しかし、恐らく日本ではこの大著を手にする人は多くないだろう。なぜか日本ではあまりに地球温暖化に対して危機感が薄く、不思議なほど大きな話題にならない。福島の原発事故を体験したがゆえ、とりあえずは化石燃料の利用もやむを得ないという考えがはびこっているような気がしてならない。しかし、いつまでも化石燃料に頼っていることにはならないだろう。

 自分の利益しか考えない人たちによって地球に危機がもたらされたのだ。地球温暖化の事実を知った私たちの世代こそ、地球の未来に大きな責任を負っている。
  


Posted by 松田まゆみ at 16:39Comments(0)環境問題