さぽろぐ

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2018年10月16日

日本産クモ類生態図鑑の紹介

 今年8月に小野展嗣・緒方清人著「日本産クモ類生態図鑑」(東海大学出版部)が出版された。

 2009年に出版された小野展嗣編著「日本産クモ類」(東海大学出版会)は当時の日本産の既知種64科423属1496種を扱い、科・属・種の解説と生殖器の図を網羅した分類、同定のための画期的図鑑だった。一方、本書は概説にはじまり、緒方清人氏撮影による857種(未記載種および新種を含む)の生態写真からなるカラー図版と、解説(体長、分布、生息環境、生態・習性、生活史)によって構成されている。

 本書の最大の特徴は、カラー生態写真の豊富さだろう。雌雄の成体の写真のほか、色彩変異の個体、幼虫、卵のうや網、捕食の様子など、1種につき複数の写真が掲載され、写真を見ているだけでも楽しい。携帯サイズの写真図鑑ではこれだけの枚数の写真を盛り込むことは困難であり、大型図鑑の強みだと思う。

 また、じっくりと写真を見ることで、生きた状態での近縁種の違いも見えてくる。例えば液浸標本では外見、外雌器、雄触肢がとてもよく似ているハモンヒメグモとリュウキュウヒメグモも、こうして生態写真を見比べると体色や卵のうの色など違いが分かりやすい。

 解説は1種につき数行から20行程度で比較的簡素にまとめられている。紙幅の関係のほか、説明文の長さのバランスも考えてのことかと思うが、生態や生活史についてこれまで知られている知見を網羅しているというわけではない。クモの生理生態についてより詳細に知りたい場合は、池田博明氏による「クモ生理生態事典」を参照されるといいだろう。

 「日本産クモ類生態図鑑」は、「日本産クモ類」の姉妹編という位置づけであり、前者が分類・同定を目的とした専門的な書であるのに対し、後者はふんだんなカラー写真による自然状態でのクモの姿に重きが置かれている。「日本産クモ類」を使いこなすためにはある程度の知識や経験が必要だが、カラー写真をメインとした「日本産クモ類生態図鑑」と併せることで、クモの知識があまりない方も利用しやすくなったと言えよう。

 それにしても、本書の写真のすべてを緒方清人氏が撮影しているというのは驚くべきことだ。クモの写真を撮ったことがある人なら分かると思うが、植物の上や網でじっとしているクモはともかく、徘徊性のクモはすばやく走り回って植物や石の陰に入り込むことが多く、静止している状態を撮影するのはとても難しい。サラグモ類やヒメグモ類などの小型の種の野外撮影も容易ではない。北海道から沖縄まで、日本全国を歩き回って857種ものクモを撮影するというのは並大抵のことではない。

 クモの写真図鑑でこれまで最も掲載種が多かったのは新海栄一著「日本のクモ 増補改訂版」(文一総合出版)の598種だが、新海氏がすべての写真を撮影しているわけではない。現在、日本で記録されているクモは1659種(日本産クモ目録2018)だが、857種といえばその半数を超える。一人でこれだけの写真を撮るというのは驚異的だ。長年の撮影の成果がこのような形で公表されることになった意義は大きい。

 思い返せば、私がクモに興味を持って調べ始めた頃(約40年前)は、クモの図鑑といえば八木沼健夫著「原色日本蜘蛛類大図鑑」(保育社)くらいしかなかった。ところが北海道のクモはこれに載っていないものがかなり多く、図鑑で分からない種は専門の方に標本を送って同定してもらうしかなかった。1986年には保育社の図鑑が「原色日本クモ類図鑑」に改訂され掲載種も増えたが、それでもこの図鑑で同定できない種が多くあった。

 そんな中で画期的ともいえる図鑑が、1989年に出版された千国安之輔著「写真日本クモ類大図鑑」(偕成社)だった。北海道から沖縄まで540種のクモの雌雄と生殖器の写真が載ったこの図鑑は、保育社の図鑑だけでは同定が困難だった多くのクモの同定に役立った。特徴的なクモを除き、クモの同定には実体顕微鏡による生殖器の確認が欠かせないが、生殖器の写真はほんとうに有難かった。

 そして小野展嗣氏の尽力により、2009年に「日本産クモ類」が出版され、ようやく既知種すべての生殖器の図が掲載された図鑑が登場した。これによって、それまではあっちの図鑑、こっちの論文とあちこちの文献に当たらねばならなかったクモの同定が格段に簡便、容易になった。この功績は計り知れない。

 他にも「クモ基本50」(解説・新海栄一、写真・高野伸二、森林書房)、「クモ基本60」(東京蜘蛛談話会)、「クモハンドブック」(馬場友希・谷川明男著、文一総合出版)、「ハエトリグモハンドブック」(須黒達巳著、文一総合出版)などのハンドブックが次々と出版された。また2年ごとにバージョンアップされる「CD日本のクモ」(新海明・谷川明男、安藤昭久、池田博明・桑田隆生)は国内での分布が一目で分かるし、バージョンアップの度に充実してきている。この40年間に夢のような進歩があった。

 昨年出版された「ハエトリグモハンドブック」はすでに三刷だという。写真を用いて一般の人にも分かりやすいように工夫されたクモ図鑑の出版によって、クモに関心を持つ人が増えているように思うが、実に喜ばしいことだ。
  


Posted by 松田まゆみ at 09:19Comments(0)クモ

2018年10月11日

新記事のお知らせ

「さぼろぐ」では「登録できない単語が含まれています」と表示されてアップできない記事をココログにアップしました。こちらからお読みいただけたらと思います。

http://onigumo.cocolog-nifty.com/blog/2018/10/post-302c.html
  

Posted by 松田まゆみ at 18:21Comments(0)メディア

2018年10月03日

えりもの森裁判差戻し審で過剰伐採を認定

 昨日10月2日にえりもの森裁判の1審差戻し審の判決があった主文は原告らの請求をいずれも棄却するというもの。

 この差戻し審では二つの違法伐採が問われていた。ひとつは売買の対象とした立木を上回る過剰な伐採がなされたということ。もうひとつは、伐区(10伐区)を超えて伐採が行われており越境伐採があったということ。原告らはこの二点について証拠を示して違法伐採を主張してきた。

 判決文では、過剰伐採について「本件地拵えに際し、一定程度、地拵えに必要な限度を超えた過剰な伐採(本件過剰伐採)があったことは否定できない」として、過剰伐採を認定する判断をしている。裁判で公有林の過剰伐採が認められたのは初めてのこと。

 しかし、越境伐採については「越境1は10伐区に含まれるから、本件越境伐採が行われたとは認められない」として越境伐採を認定しなかった。

 また、本件は違法な伐採により北海道の財産に損害を与えたとして当時の日高支庁長らに損害賠償請求を求めたものだが、支庁長の監督責任については「指揮監督の義務を怠ったとは認められない」として認定しなかった。

 原告としては、過剰伐採は認められたものの越境伐採が認められなかったのは納得できないので控訴をする方針で検討している。

 ということで、この裁判、来年も続くことになりそうだ。

  

Posted by 松田まゆみ at 14:36Comments(0)えりもの森裁判

2018年10月01日

シラカバの幹のムレサラグモとブチエビグモ

 ムレサラグモはシラカバなどのカンバやトドマツなどの幹に生息するサラグモで、斑紋は個体変異がある。成体は夏から秋にかけて見られる。かつては私の家の近くのシラカバ林でも簡単に見つけることができたのだが、近年はなかなか見つからない。どう見ても何らかの原因で減ってしまったとしか思えない。

 昨日、家からは少しはなれた場所のシラカバ林に行き、1時間ほど探してみた。何十本ものシラカバの幹を見てまわって見つけたのは雌4頭のみ。もっとも目視で確認できるのは自分の背の高さより少し上くらいまでで、幹の上部にいる個体までは見つけることができない。今の時期は雄は見ることができないが、やはり多いとは言えない。かつてトドマツの幹に群れるように多数の個体がいるのを見たことがあるが、近年はそんな光景は見たことがない。







 ムレサラグモを探していたら、やはりシラカバの幹の色にそっくりなブチエビグモを2頭見つけた。ブチエビグモは人家の壁や塀など人工的な環境で見ることが多いのだが、自然界ではシラカバの幹ととてもよく似た色彩をしていて、なるほどと思った。このクモも色彩変異があり、ブチ模様の鮮明なものとそうではないものがいる。







 写真は撮っていないが、他に見られたクモはムナグロヒメグモとイナズマハエトリ幼体。ムナグロヒメグモはシラカバの剥がれた樹皮の裏側に網を張っていた。

 クモではないが、カンバシモフリキバガもシラカバの幹に沢山いた。このガも色彩変異がある。実は、今年の春にシラカバの葉を巻いているガの幼虫を見つけて飼育したところ、羽化したのがこのガだった。これについては後日また報告したい。







  

Posted by 松田まゆみ at 21:33Comments(0)クモ