さぽろぐ

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2021年10月30日

クモの絵を描く楽しみ

 前回の記事の最後にクモの標本画のことを書いたら、何と「楽しみにしている」というコメントをいただいた。今まではクモの生殖器や背面図のペン画は描いていたものの、彩色した標本画は描いたことがなかった。今年になって手頃そうな色鉛筆でお遊び感覚でクモの絵を描いてみたら何やらとても楽しく、私の性に合っているようだ。そんなわけでクモの標本画が新たな趣味になった。

 ブログでの絵のアップはどうしようかと迷ったが、サイズを少し小さくした画像ならまあいいかと思い、リクエストにお応えして何枚かをアップしようと思う。すべてB6サイズのケント紙に色鉛筆で描いている。いずれも雌。

 昆虫だと脚を整えて展足し乾燥標本にするが、体の柔らかいクモの場合はエチルアルコールの液浸標本にする。だから標本によって脚が縮こまっていたり伸びていたり、向きもてんでんばらばら。そんな状態のクモ標本を実体顕微鏡をのぞきながら下描きし、脚を伸ばした標本画に仕上げるので、けっこう厄介だ。しかも、液浸標本は退色していることが多く、特に緑や黄、赤などの色は生時の色がほぼ残らない。そこで彩色の時には写真などを参考することになる。

 まずは描きやすそうなものからと、コガネグモ科のクモ(オニグモの仲間で、ほとんどが円網を張る)から描いているので、その中から北方系のものをいくつか選んでみた。

【キタグニオニグモ】


 北方針葉樹林に棲む地衣類に擬態した緑色の美しいクモ。北海道の他、本州の山地にも生息しているが多くはないようだ。私がこのクモを始めて見たのは南アルプスの北岳に登ったとき。中腹の標高2200mほどの針葉樹林だった。北海道でも山地の針葉樹林帯(標高ではおよそ700m~1000mほど)に行かないと見られない。腹部の緑色は個体によって変異があり、エメラルドグリーンのものもいる。

【キンカタハリオニグモ】


 このクモも北方針葉樹林に生息し、分布はキタグニオニグモとほぼ重なる。腹部の色彩には変異があるが、両側が緑色をしているものが一般的だ。「日本産クモ類成体図鑑」(東海大学出版会)には腹背が鮮やかな緑色の非常に美しい個体の写真が掲載されているが、私はそのような個体は見たことがない。

【コウモリオニグモ】


 コウモリオニグモは日本では北海道でしか記録されていない。私はハイマツ帯でしか見たことがないが、「日本のクモ」(文一総合出版)には平地から山地に生息するとなっている。腹部の斑紋には変異がある。

【キバナオニグモ】


 大型のクモで、北海道では林縁や草地など開けた環境で普通に見られるが、本州では数例の記録があるのみ。私の居住地では近年は少なくなってきたように思う。

【アカオニグモ】


 北海道では平地から山地まで草地などの開けた環境に生息するが、本州では高原に行かないと見られない。夏に成熟し、秋が深まるにつれて腹部が赤色に色づき晩秋には深い赤になる。。

【ニワオニグモ】


 北海道では主に山地に生息するが、平地でも見られることがある。ただし、平地では定着していないと思われる。本州では稀。オレンジ色のとても美しいクモ。

【マユミオニグモ】


 シックな色合いの大型のクモ。山地に生息するが、生息域は限られる。北海道産の個体を元に新種記載されたが、本州中部の高原にも生息しており、オニグモのように建物の軒先などに円網を張る。

【マツダタカネオニグモ】


 北海道の固有種。然別火山群などの岩塊地に生息し、岩の間に垂直円網を張る。岩に付着する地衣類に擬態している。雌雄ともに成体が見られるのは6月頃で、盛夏には成体は姿を消してしまう。
  

Posted by 松田まゆみ at 20:17Comments(4)クモ雑記帳

2021年10月19日

昆虫写真の楽しみ

 私はこれまで写真を撮って楽しむという趣味はなかった。若い頃は野鳥を見に日本中を旅行したり、登山もしたけれど、そんなときもカメラは持っていかなかったので、旅行とか登山の写真がほとんどない。私の父は小西六(小西六写真工業株式会社)に勤めていて写真好きだったし、母もその影響を受けてか高齢になってもよく写真を撮っていた。しかし、なぜか私は写真に興味を抱くことはなかった。記録写真を撮るために一眼レフのカメラも持ってはいたが、そう頻繁に使っていたわけではない。もちろんこれはフイルムカメラの時代の話だ。

 その後、デジカメが主流となり、コンパクトデジカメでもかつての一眼レフのマクロレンズなみの接写撮影が手軽にできるようになってからは、クモの写真なども少しは撮るようになった。それでも写真が趣味ということはなかった。

 そんな私が、クモだけではなく昆虫の写真も撮り始めたのは、それまで使っていたコンデジに不具合が生じ、オリンパスのTG-6という超接写撮影ができるコンデジを購入したことがきっかけだ。2020年の春からは、散歩にはいつもこれを持ち歩くようになった。私は子どもの頃から昆虫が好きだったが、野鳥やクモに興味を持つようになってからは昆虫からは遠のいていた。ところが、カメラを持っていると自然と小さな昆虫にも目が行く。不思議なことに、今までは散歩をしていてもほとんど目に留まらなかった数ミリの昆虫にも気づくようになった。しかも昆虫は種類も数もクモよりずっと多い。

 そんなわけで、昆虫を見つけるたびについつい写真を撮るようになった。初めて見る昆虫やとびきり色彩や斑紋の美しい種に出会うと、子どもの頃にかえったように胸が高鳴る。写真を撮ればその昆虫の種名が知りたくなり、手持ちの図鑑やネットで調べることになる。私の場合、クモや昆虫の写真を撮りたくてカメラを買ったというより、超接写のできるカメラを手にしたことで今まで以上に小さな生き物に興味がわき、写真を撮りたくなったという感じだ。

 ただし、なぜか芸術的な写真を撮りたいという気持ちが全く起きない。というかそういう欲がない。つまり、あくまでも記録写真だ。クモの場合は必要だと思う個体は採集して標本にするが、昆虫まで標本にする気は全くない。その代わり、写真を撮ることで身の回りにどんな昆虫がいるのかということに今まで以上に興味を持つようになった。

 もちろん昆虫の場合、写真だけでは同定できない種が沢山いるし、そもそもまだ記載さえされていないものもある。そういう昆虫は種名が分からなくても仕方ない。ただ、写真を撮ることによって、今まで知らなかった昆虫の世界が少しだけ垣間見えるようになった。生態をじっくりと観察するというわけではないが、カメラ一つで毎日の散歩がぐっと楽しくなった。

 たまにすれ違う人が、植物やら手すりやらに向かってカメラを構えている私を不思議そうに眺めていることがある。確かに、遠くから見たら何をしているのか分からないだろうし、虫の写真を撮っていることが分かっても、虫などに全く興味がない人にとっては変人にしか見えないのだろう。でも、趣味なんてそんなものだ。

 北海道の私の住む地は紅葉も終わり、虫たちの姿もぐっと減ってきた。もう少ししたら雪が積もり、しばらくは虫見散歩、クモ見散歩もできなくなる。冬の間はまたクモの標本画でも描こうと思う。
  

Posted by 松田まゆみ at 21:11Comments(4)昆虫雑記帳