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鬼蜘蛛の網の片隅から › 自然保護 › 行政に物言えぬ人々

2012年06月26日

行政に物言えぬ人々

 今に始まったことではないのだが、行政のおかしなやり方に対して何も言わない研究者が多い。というか、行政に対して抗議をする研究者は極めて限られているというのが現実だろう。内心は「おかしい」と思っても「忙しいのだからそんなことに関わりたくない」という人もいるだろう。でも、それだけではなく行政と対立したくないがために沈黙している人も多いのではなかろうか。

 たとえば生物多様性保全。これは国の方針であるし、北海道も当然のことながら生物多様性保全を謳っている。国も道も生物多様性保全のために、希少種の調査や保護活動をしている。例えばシマフクロウの保護増殖活動は環境省が主体になり、専門家などの意見を聞きながら餌場の確保や巣箱の設置などを進めている。セイヨウオオマルハナバチやウチダザリガニなどの外来種についても、環境省が駆除などの活動を行っている。

 エゾシカによる希少植物の食害問題では、北海道が調査や対策を行っている。このように行政は専門家に協力を仰いで希少動植物の保全対策を行っている。

 ところが、生物多様性保全のための調査や対策を行っている行政が、しばしばこれと矛盾することを平気でやる。たとえば生物多様性を破壊するような事業の許認可である。このブログでも取り上げている、加森観光によるサホロスキー場拡張計画などもその典型だ。ナキウサギの生息地があるので許可しないよう自然保護団体が働きかけていたのにも関わらず、北海道環境推進課は開発許可を出してしまった。

 そして生物多様性を破壊する事業に対し、環境保全を担っている行政がストップをかけようとしないというのがこの国の実態だ。大規模な自然破壊である士幌高原道路も日高横断道路も大規模林道も、自然保護団体の粘り強い反対運動があったからこそ中止に持ち込まれたのであり、環境保全を謳っている行政が頑張って止めたわけではない。

 こんな状況であるがゆえ、保護の重要性を認識している研究者こそ声を大にして異を唱えるべきだ。生物多様性保全を謳っている行政にとって、研究者の指摘は簡単に無視できないからだ。ところが、行政と何らかの協力関係を持ってしまった研究者は、このような局面で行政にはっきりと物申すことが非常に少ない。少なくとも私はそのように感じている。

 現在では大学の教員は自分の研究費を自分でとってこなければならない状況に置かれている。研究費を獲得するためには、行政の意向を汲んだ研究をする方が都合がいい。また、行政からの調査委託なども正直って有難いに違いない。こうして行政と研究者が金銭を伴う協力関係を持ってしまうと、研究者は行政に対してあまり批判や抗議をしたくないという心情になるだろう。

 たとえ研究者にそういう意識がなくても、行政は研究者との関係を利用しようとする。研究者に調査を委託したり、検討会や審議会等の委員になってもらい自分たちの側に取り込むことで、批判されることを回避しようとするのだ。自然保護団体で活躍している者なども気をつけていないと「有識者」「アドバイザー」などという名目で委員として取り込まれかねない。行政との関係はとても難しい。

 行政との関係が深くなり、自分の利益のために行政の意向を汲んだ言動をとるようになると、完全な御用学者だ。御用学者とまではいかなくても、「批判をしない研究者」は行政にとっては有難い存在だろう。こうやって行政批判をしない「物言わぬ研究者」が増えていく。

 ところで、自然保護を謳っている団体の中には企業から寄付を受けているところもある。たとえば日本野鳥の会では、企業と地方公共団体向けに一口10万円の法人特別会員を設けている。要するに寄付を目的とした会員だ。ここには建設会社や電力会社も名前を連ねている。自然破壊に加担しているような企業や原発を推進してきた企業も、こんな形で自然保護団体に寄付をしているのだ。

 自然保護団体に寄付をする行為は企業のイメージアップに貢献する。しかし、企業はそのような目的だけで法人特別会員になっているのだろうか? 企業側にとっては「特別会員の批判は控えるだろう」という思惑が働いているのではなかろうか。あるいは、批判をされたら退会するということもあるだろう。

 このような大口寄付は野鳥の会の収入源として重要な役割を担っているだろう。「お金は出すが口は出さない」ということが徹底されており、法人特別会員が自然破壊に加担した場合は批判も正々堂々とできるならいいのだが、そのあたりはどうなのだろう?

 自然保護団体が企業から寄付をもらうという行為も、場合によっては前述した研究者と行政のようになりかねない。寄付をもらうのであれば、「会員企業の環境破壊行為に対しても手加減しない」、「退会されても構わない」といった毅然とした姿勢を貫いてもらいたい。

 お金というのは本当に人をコロリと変えさせる力がある。かつては果敢に自然保護運動に関わっていたのに、今ではコンサルタント会社の職員となり自然破壊に手を貸しているような人もいる。かつての理念はどこに行ってしまったのかと思うと嘆かわしい。こういう人たちを見ていると、つくづく人はお金に弱いと思う。



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Posted by 松田まゆみ at 22:16│Comments(0)自然保護
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