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鬼蜘蛛の網の片隅から › 生物学 › 環境が鍵を握るエピジェネティクス

2013年03月17日

環境が鍵を握るエピジェネティクス

 「遺伝子決定論を論破する本『天才を考察する』」という記事で、エピジェネティクスについて「今までの生物学では遺伝をつかさどるのはDNAだとされていたが、遺伝子の働きを活性化させる仕組みがあることが分かってきた。つまり遺伝子にスイッチがあるというのだ。こういったメカニズムを解く遺伝学がエピジェネティクスである」と書いた。これは、ごくかいつまんだ説明だ。

 福岡伸一氏の説明が分かりやすいかもしれない。

エピジェネティクスとは何か?多額の研究費をかけた実験の失敗が教えてくれた生命の謎(ダイアモンドオンライン)

 もう少し具体的に説明しているのが以下。

エピジェネティック変異の遺伝メカニズムがちょっとだけ?明らかに(前編)(サイエンスあれこれ)

エピジェネティック変異の遺伝メカニズムがちょっとだけ?明らかに(後編)(サイエンスあれこれ)

 少し前までは、私たちは遺伝子によって形態上の違いが決められていると教わってきた。ところが、近年の研究で遺伝子を発現させるスイッチがあることが分かってきたのだ。DNAは確かに重要なのだが、それを発現させる装置を解き明かさなければ遺伝の本質に迫れない。そして、そのスイッチのオン、オフには環境が関わっているという。

 さらに興味深いのは、後天的なエピジェネティック変異が遺伝することがあるということだ。あれほど馬鹿にされたラマルクの「獲得形質の遺伝」もあながち間違いではなかったことになる。科学の常識はどこでひっくり返るか分からない。

 遺伝というのはかつて私たちが学校で習ったような遺伝子だけで説明できる単純なものではなく、遺伝子をとりまく実に複雑なメカニズムが隠されていたのである。しかし、環境を変えることで遺伝子のスイッチを切り替えることができるというのは実に興味深い。

 もっとも、カブトムシやクワガタを飼育している人にとっては、温度や餌、飼育容器の大きさなど環境を変えることで形態をコントロールできることは経験から分かっていたそうだ。以下のブログのカテゴリー「クワカブ飼育」の記事の数々がそれを物語っている。

クワカブ飼育(ハルのクワカブ飼育日記)

 環境によって形態も変わりうるし、後天的に獲得した形質が遺伝することもある・・・。となると、あの動物の擬態というのもエピジェネティックな変異が関係しているのだろうか、とふと思う。昆虫などの擬態には本当に驚かされるが、私はあの巧妙な擬態を見るにつけ、こんな芸当は突然変異と自然選択の積み重ねだけでは説明できないだろうとずっと思っていた。中でも私が一番驚いた擬態は、「サルオガセギス」という昆虫だ。以下の写真参照。

世界の珍中~サルオガセギス(知識の泉 Haru’s トリビア)

サルオガセギス(海野和男のデジタル昆虫記)

 このすごい擬態が完成される過程に、エピジェネティクスというメカニズムが関わっているなら納得がいく。今西錦司氏は「進化は変わるべくして変わる」と言ったが、エピジェネティクスはまさにそれを言い当てているのではなかろうか。

 ところで、今やエピジェネティクスは医学にも進出している。

生物学を変えるエピジェネティックス(Newsweek)

 上記の記事に書かれているように、癌の発症に関してもエピジェネティックス的遺伝子変異が関わっているという。もちろんすべての癌というわけではないだろう。

 この記事ではエピジェネティック薬に言及しているが、環境を変えることで腫瘍を発症させる、あるいは腫瘍を抑制する遺伝子のスイッチを切り替えることができるのであれば、薬に頼るより環境要因を解き明かしたほうがよいのではなかろうか。もっとも、それでは医者や製薬会社は儲からないから、そういう研究はあまり進まないかもしれない。いずれにしても、エピジェネティクスの研究によって遺伝子が関わっている病気の治療に道が開ける可能性はある。個人的にはiPS細胞の研究より、こちらの方が自然の摂理にかなっていると思う。

 ごく稀な例であると思うが、進行した癌が消えたという事例をたまに聞くことがある。このような事例の中には、食生活など環境を変えることで癌の発症に関係する遺伝子のスイッチをオフに切り替えることができた例があるのかもしれない。

 現代人の多くは脂肪や糖分たっぷりの高カロリーの食事、不規則な睡眠、さまざまな添加物や農薬などが入った食品の摂取、過度のストレスなど、不健康な生活を送っている。これでは病気の遺伝子にスイッチが入るのも当然なのかもしれない。できるだけ自然の摂理に従った生活こそ免疫力を高め、病気の遺伝子の活性化を抑えるのではなかろうか。つまり、その土地で採れる食物を中心とし添加物などを極力避けた食生活、暴飲暴食を控えた節度ある食事、暗くなったら早めに寝るという生活リズム・・・。長寿遺伝子を活性化させるにはカロリー制限をするのが効果的という話しがあるが、「腹八分目に医者いらず」という格言こそ、昔の人の経験から生まれた言葉なのだろう。

 もっとも昨今のあまりに酷い政治や原発からの放射能の放出など、ストレスや健康被害の種は絶えず、今やよほど能天気な人でなければ健康的な生活は送れないのかもしれない。



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Posted by 松田まゆみ at 11:03│Comments(0)生物学
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