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2014年11月21日

アドラー心理学をめぐる論争とヒューマン・ギルドへの疑問

 今年は、昨年末に出版された岸見一郎さんと古賀史健さんによる「嫌われる勇気」がベストセラーになり、アドラー心理学への関心が一気に高まった。かくいう私も「嫌われる勇気」でアドラー心理学のことを知った一人だ。そして、「空気を読む」という言葉に代表されるように、協調性ばかりを意識し、他者の視線を気にする人が溢れる日本で、アドラー心理学が広まっていくことは大いに歓迎すべきことと思う。

 ところで、「嫌われる勇気」に端を発したアドラーブームで、今年に入ってからアドラー心理学に関わる本が相次いで出版されている。これだけ次々にアドラー関連本が出版されると、なんだか便乗出版のような雰囲気も否めないし、興味を持っていてもどの本がアドラー心理学を学ぶのに適しているのかを見極めることも難しくなる。

 そんな中で、日本のアドラー心理学をめぐり東西での論争があることを知った。東西とはもちろん関東と関西である。学会などの内部で何らかの対立や論争があるのは珍しいことではないが、まさかアドラー心理学をめぐってもこのような論争があるとは夢にも思っていなかった。

 学術学会の内部の論争に関して、学会と関わりのない人がとやかく言うことではないだろう。しかしその論争は、アドラー心理学を広めている人たちの方針や教え方に関わることであり、これからアドラー心理学を学びたいと思っている人には非常に重要なことがらだ。つまり、決して学会内部のことにとどまらない。アドラーブームの今こそ、アドラー心理学に関心を持つ人たちはこの問題を知っておく必要があると思う。

 以下が、日本アドラー心理学会の会誌「アドレリアン」に掲載されたアドラー心理学をめぐる論争が書かれている論文である。

日本のアドラー心理学 (アドレリアン第14巻第1号、2000年2月)

日本のアドラー心理学(2) (アドレリアン第16巻第3号、2003年2月)

 これらは2000年と2003年に発表されている論文なので、すでに10年以上前の議論である。また、この論文で批判されている者も反論があるだろうから、この論文だけで物事を判断してしまうのは危険だとは思う。しかし、それでも以下のことを指摘せずにはいられない。

 つまり、アドレリアン第14号第1号の方の論文で指摘されている、東京の「ヒューマン・ギルド」に関することである。この論文の中で私が特に衝撃を受けたのは以下の部分だ。

「ヒューマン・ギルドの人々はアドラー心理学に関する多くの本を書いています。それらの本には、ただ子どもや生徒を操作する方法を書いてあるだけです。」

「日本のアドレリアンの大部分は彼らが間違っていることを知っていますが、彼らの本を読んだだけの人や彼らの講義を聞いただけの人は、彼らを信じるかもしれませんし、ほんとうのアドラー心理学を学んだと誤解するかもしれません。子どもを罰的な技法で操作するやり方をアドラー心理学の名前で教える人たちが、思いつくかぎりのあらゆるトリックを使って影響力を増やそうとしています。」

「ヒューマン・ギルドが教えることは子どもが親の期待にそって行動するよう強制したい人たち向けにデザインされていますので、ある人たちはそれを熱狂的に受け入れます。しかし、多くの人々は親子関係がしばしば悪くなってしまうので、勇気をくじかれてしまいます。彼らはアドラー心理学は効果がないのだと誤解してしまいます。われわれはヒューマン・ギルドが教えているのは、子どもを対等の仲間として尊敬し信頼するアドラー心理学ではないのだと、人々に告げていかなければなりません。」

 この論文によればヒューマン・ギルドのアドラー心理学は正統なアドラー心理学ではないということになる。アドラー心理学に関する本でありながら「ただ子どもや生徒を操作する方法を書いてあるだけ」という本があるのなら、びっくり仰天だ。またヒューマンギルドで教えているアドラー心理学が「子どもが親の期待にそって行動するよう強制したい人たち向けにデザインされて」いるのが事実であれば、それはアドラーの教えとは真逆ではないか。ヒューマン・ギルドの指導者の中に、アドラー心理学を私生活で実践しようとしない人がいるのであれば、これも驚くべきことだ。学会誌で論争になったり批判が起きるのも当然だろう。そしてこうした対立を経て、1998年にヒューマンギルドの坂本さんと岩井さんは日本アドラー心理学会を退会していたのだ。

 今から15年も前の論争ではあるが、二つの団体は今も存続しており、この論文の著者の一人である野田俊作さんは「アドラーギルド」を主宰している。一方、論文で批判の対象となっている岩井俊憲さんは、現在ヒューマン・ギルドの代表である。そして、岩井さんは、今年のアドラーブームに便乗するかのように次々とアドラー心理学の本を出している。

 実は、アドラー心理学について知りたい、あるいは学びたいと思い「アドラー心理学」で検索をすると、上記の2つの団体のうちヒューマンギルドの方がずっと上位にでてくる。一般の人は、大阪のアドラーギルドと、東京のヒューマン・ギルドが基本的なとことで違いがあるなどとは考えもしないだろう。アドラー心理学を学びたいと思う人たちが、上記の論争のことを何も知らず目立つ方に誘導されているとしたなら、由々しきことではないか。

 私はアドラーギルドの講座もヒューマン・ギルドの講座も受けたことはないので、この論文で指摘されていることについて確たることは言えないし、ヒューマン・ギルドの手法が間違っているとか不適切だと言える立場にもない。どちらの考え方や手法を支持するかは、個人個人が判断することだ。しかし、この論文の最後に書かれている「日本でなにが起こっているか知っていただき、この危機を乗り切るために助言をいただくためにこの発表をしました。」という文章からも、日本アドラー心理学会の人たちがヒューマン・ギルドのあり方に対して疑問を抱き、危機的に捉えていることは間違いないだろう。

 なお、この件に関しては熊本の本郷博央さんの以下のような意見もある。

アドラー以降のアドラー心理学 日本のアドラー心理学(勇気づけのページ)

 ここで本郷さんは以下の主張をしている、

 もしも、いくつかあるグループの内の一つが、「他のグループが学習しているアドラー心理学は正しくない。」とか「他人を操作するためにアドラー心理学を 使っている。」とか「自分たちのグループだけが、アドラー心理学を正しく伝承している。」などと主張していたら(そんなことはないと思いますが)、どうで しょう。

 ある程度アドラー心理 学を学ばれた方ならば分かると思いますが、他のグループを否定すること自体がアドラー心理学の基本原則を踏み外しているということが分かりますね。(だっ て、「不適切な行動には注目しない」で「理性的に話し合う」のがアドラー心理学のエッセンスですから。)

 しかし、私はこの主張には賛同できない。時代の流れとともにアドラー心理学も後継者に受け継がれ発展した部分もあるだろうし、いろいろなグループがあるということも事実だろう。しかし、指導者がアドラー心理学を私生活で実践していないのであれば指導者としての資質を疑うし、アドラー心理学の根幹をなす考え方(例えば他者を支配しないということ)と真逆のことを広めているグループがあるのなら、それはもはやアドラー心理学とは言い難いのではなかろうか。本郷さんのこの文章はこの「真正のアドラー心理学か、似て非なるアドラー心理学なのか」という学術論争の核心的部分を曖昧にしている。

 「アドラー心理学」と謳って、実際にはアドラー心理学の基本的な部分で矛盾することを行っているのなら、批判の対象となるのは当然のことだ。アドラー自身が学説の対立からフロイトと袂を分かっていったのと同じように、これは学術論争である。アドラー心理学が他者を批判することに否定的であるということを理由に、他のグループの批判や否定をすべきではないと主張することは、学術的な議論までをも否定することになると思う。

 また、そのような議論や批判を避けていたなら、アドラー心理学に関心を持ち真正(もしくは正統)のアドラー心理学を学びたいと思っている人が、何も知らないまま自分の意図しないグループに参加したり講座を受講してしまうことにもなりかねない。私は学術的な面からの論争や批判はもっと公にすべきではないかと思う。

 アドラーギルドもヒューマン・ギルドも共にアドラー心理学を学ぶ講座などを行っていることもあり、おそらく同じアドラー心理学を広める立場として公の場で相互の批判をすることは慎んでいるのだと思う。互いに批判をしあったらイメージの悪化にもなるし、場合によっては業務妨害にもなりかねない。だからこの問題は重要かつ深刻でありながら、なかなか表にでてこないのだろう。

 しかし、アドラーブームが巻き起こり、書店には何種類ものアドラー心理学の本が平積みされている今だからこそ、日本アドラー心理学会においてこのような論争があったこと、そしてその問題はおそらく今も変わっていないことを私たちは今こそ知る必要があると思う。「今も変わっていない」というのは、以下の平成26年9月20日に発行されたアドラーギルドのアドラーニュースからもうかがい知ることができる。

アドラー心理学基礎講座理論(アドラーギルド)

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Posted by 松田まゆみ at 14:54│Comments(0)教育雑記帳
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