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2015年08月11日

言いがかりとしか思えないIWJへの削除要請

 日向製錬所とサンアイが黒木睦子さんを名誉毀損および業務妨害で提訴した件で、木星通信(主宰 上田まみ氏)と市民メディア宮崎CMM(主宰 大谷憲史氏)が、IWJの記事に関して削除を求めている。これについて私の意見を以下に述べたい。

 削除を求められているIWJの記事は以下。
宮崎県日向市在住の主婦をめぐる裁判はSLAPPなのか?! ~黒木無ル湖さんと日向製錬所を直接取材(前編)

宮崎県日向市在住の主婦をめぐる裁判はSLAPPなのか?! ~黒木無ル湖さんと日向製錬所を直接取材(後編)

【木星通信の申入書の事実誤認】
 以下は木星通信の申入書。

日向製錬所が提訴した黒木睦子さんへの記事について。IWJへの申入書

 木星通信はIWJの記事では二つの事実無根の主張がなされていると指摘している。その二つとは以下である(申入書より引用)。

①被告はIWJの取材に対して「原告企業が工事に使ったグリーンサンド」によって家族に健康被害が出たと企業や行政に訴え続けてきた。」として被告の家族の健康被害、および水質汚染被害を示し、IWJも記事化しました。

②また被告は工事現場から粉塵被害以外にも重大な環境汚染が発生してると主張してその汚染値を示し、IWJもそれを掲載しました。

 上田氏はこれらについて以下のように主張している。

①は被告の子供の診断書が出されましたが、咳の原因は「マイコプラズマ肺炎」でした。微生物(ばい菌)による感染症で人工由来の被害ではなかったのです。

②は裁判所に『宮崎環境科学協会』が計量した汚染値の計量証明書が出されましたが、それは当該被告が主張する工事現場から採取したものだとする証明はなされませんでした。

 しかし、上田氏のこれらの主張こそ事実誤認だ。その理由を以下に述べたい。

①について。
 黒木さんが子どものマイコプラズマ肺炎の診断書を提出したのは事実だ。しかし、それをもって、スラグ粉じんによる咳がなかったという証拠にはならない。この場合1スラグ粉じんによる咳とマイコプラズマ肺炎による咳の両方があった。2スラグ粉じんによる咳だけであり、マイコプラズマ肺炎は誤診であった。3スラグ粉じんによる咳はなく、マイコプラズマ肺炎で咳が出た。という三つの可能性が考えられる。しかし、上田氏はそのうちの一つをのみ取り上げて、健康被害はなかったからIWJの記事は事実誤認だと主張しているのだ。論理性のない主張である。

 黒木さんはIWJの取材に対し「私も含めて咳が止まらない。子どもは今でも具合が悪い。病院へ言っても『風邪』と診断されるだけです」と答えており、子どもだけが咳を出していたわけではないようだ。また、「風が強い時などは、ぱーっと降ってきて、白いものが舞い上がっているのが目で見て分かる。そういう時は咳が出て止まらなくなるので、日向製錬所に、住民説明会を求めました」と答えている。咳の原因が粉じんであると考えるのは自然だ。

 以下の記事にもあるように、鉄鋼スラグにおいては住民に粉塵・臭気による健康被害が生じたという事例があり、粉じんが咳などの健康被害を生じさせる可能性は十分にある。

鉄鋼スラグ問題とは何か

②について
 黒木さんは第一工区の沈殿池から水を採取して宮崎県環境科学協会に検査を依頼しており、計量証明書が裁判に提出されている。それに対して原告は、その水が第一工区の沈殿池から採取されたという証明がなされなかったと主張をしている。つまり、別の場所から採取した可能性があると言っているのだ。しかし、あのような汚染された水が採取できる場所を具体的に示しているわけではない。

 原告の言うように、黒木さんが第一工区の沈殿池から採取したということを証明する客観的な証拠はない。しかし、証明できないことをもって第一工区の沈殿池で採取した水ではないと結論づけることができないのは自明である。そして、黒木さんが検査機関に持ち込んだ水から環境基準を超える汚染が確認されたのは事実である。

 上田氏は「行政や支援者が当該地の汚染値を計っても汚染値は検出されませんでした。被告は今も重金属に汚染された水が垂れ流しだとTwitterで訴えていますが、日向JA 延岡JAに確認してみても公害被害は一切確認できませんでした」と主張している。

 黒木さんがツイッターで「今も重金属に汚染された水が垂れ流しになっている」と書いているのは事実だ。しかし、黒木さんはそれによって現在公害が発生しているなどとは言っていない。将来、発生するかもしれないので責任をとってほしいと主張しているのだ。

 黒木さんのツイッターでの「今も重金属に汚染された水が垂れ流しになっている」という主張が嘘であり風評被害を生むというのなら、それは黒木さんに伝えるべきことであり、IWJに対して言うことではないだろう。

 上田氏による削除の申入れは、上田氏の一方的な解釈に基づいたものであり、単に自分の意見を押しつけているだけだ。事実誤認はIWJの記事ではなく、上田氏の申入書の方だろう。

 なお黒木さんは水質検査の件に関しIWJの取材で「私たちがもらったというのは有害という報告だった。県はその報告書のコピーをもっていると思いますが、それでも何もしない。自分たちが無害だからといって、何で結果が違うのだろうかと考えてくれない」と言っている。黒木さんから検査結果を渡されたなら、県や市はすぐにでも現場に行って水を採取して検査すべきだし、有害となった原因について究明する努力をすべきだ。ところが、市が沈殿池の水を採取したのは2カ月以上も経ってからだ。これだけの間隔が開いてしまえば、汚染を隠すために対策を講じることも可能である。

 記者ならこのような点について追及してもらいたいものだ。

【市民メディアみやざきCMMの削除要請の不当性】
 大谷憲史氏の削除要請キャンペーンの方も言語道断である。大谷氏の削除要請の理由が釈然としないのだが、ひとつは「記事の一断片だけで記事を掲載することをやめてほしい」ということであり、もうひとつは名誉毀損および営業妨害にかかる損害賠償請求裁判なので「SLAPPなのか?!」という記事のタイトルが誤解を生むという主張のようである。

 つまり事実誤認を指摘しているわけでも権利侵害を指摘しているわけでもない。またIWJはスラップだと断定しているわけではなく、単に疑問を呈しているだけだ。裁判の当事者でもない者が、そんなことを理由に削除を求めるキャンペーンを行うというのは言いがかりとしか思えず、言論の自由の侵害である。

 なお、私は、この裁判がスラップである可能性が高いと思っている。もし埋立に用いたスラグが産廃であるなら、日向製錬所は嘘を言って黒木さんの記事を削除させようとしたということになり、紛れもなくスラップだろう。宮崎県は産廃であるか否かを判断した理由を黒塗りにしていることからも、産廃ではないかという疑惑を持たれても仕方ない状況である。

 上田氏にしても、大谷氏にしてもおよそジャーナリズムに関わる者の言動とは思えない。お二人には以下のフランスの哲学者ヴォルテールの名言を贈りたい。

私はあなたの意見には反対だ、たがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る



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Posted by 松田まゆみ at 16:35│Comments(0)環境問題メディア
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