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鬼蜘蛛の網の片隅から › 共同出版・自費出版 › 本を売るということ

2008年02月28日

本を売るということ

 私は自分自身の経験からも、書店流通を謳った共同出版社に多くの人が引き寄せられる心境がよくわかります。できることなら誰だって費用負担なしに商業出版として本を出版したいでしょう。でも、多くの商業出版社はアマチュアの原稿は相手にしません。そこで、著者が費用を負担しても流通を約束してくれる出版社に惹かれるのです。

 ところが、書店流通を謳っていた碧天舎や新風舎の場合、大半の本がほとんど売れていなかったわけです。これは碧天舎や新風舎に限ったことではないでしょう。

 では、アマチュアの本は絶対に売れないのでしょうか? 売るべきではないのでしょうか? 

 私は文芸社とトラブルになったあと、「自費出版Q&A」(渡辺勝利監修、東京経済)という本に出会いました。その本で知ったのは、自費出版であっても商業出版と同じように取次を通した委託配本を扱っている出版サービス会社があるということです。

 では、委託配本している出版社と契約すれば売れるのでしょうか? 答えは否です。

 取次に委託配本してもらうためには、その本が商品として完成されていることが必要なのです。「[考察]日本の自費出版」(渡辺勝利著、東京経済)にはこう書かれています。

 「自費出版本をこの正常ルートに乗せるとき、自費出版のにおいが少しでもあれば、搬入部数を極端にしぼられるか、受け付けてさえもらえない。本が売れる商品として認められなければ書店へ流通することはない」

 出版社は新刊を出版すると、取次に見本を届けて流通させたい部数を伝えるのですが、最終的に何部を流通させるかは取次の判断になります。つまり、取次では本のタイトル、体裁、編集や定価、著者の知名度などなど、さまざまな角度から判断して流通部数を決めるのです。

 このために、自費出版の本を流通させるためには買ってもらえるような魅力的な内容であることが必要です。アマチュアの方の原稿は、玉石混交というのが実態でしょう。出版社が書店流通を売りにするのであれば、そのような作品の中から光るものを選び、プロの編集者が徹底した編集を行ってクオリティを高めることが不可欠なのです。カバーデザインも重要な要素になります。こうして「自費出版のにおいがしない」レベルまで高めなければ取次は相手にしないということです。

 売れる商品としての本づくりをするためには、商業出版と同じ本づくりが求められるのです。こうした自費出版の精神、あり方を知って感銘をうけたものです。もちろん、そのような本づくりにはそれに見合った費用がかかることになります。費用の安さを謳う出版社にはできないでしょう。
 
 共同出版社ではごく一部の本を除いて取次を通じた委託配本をしていないようですが、それはとりもなおさず委託配本できるような質の高い本づくりをしていないからともいえるでしょう。

 取次の委託配本の関門を通るためには「売れる本」を目指さなければならないのです。著者が「売りたい本」をつくっただけでは取次は相手にしませんし、まず売れません。著者は委託配本のための経費を負担したものの、配本部数が少なく、ほとんど売れないということにもなりかねません。

 アマチュアの方が商業出版と同じように書店に本を置いてもらいたいのであれば、商業出版社に原稿を持ち込むか、あるいは商業出版と遜色のない本づくりをしている自費出版社を探すべきだということです。書店流通を謳った自費出版社が多数あるなかで、売れるための本づくりをしている出版社を探すのはなかなか大変なことですが、出版社選びこそ悔いのない出版の決め手になると思います。

 また、販売に向かないジャンルというものもあります。たとえば自分史とか詩集、歌集、句集などといったものです。たとえ内容がよくても、売れないジャンルなのです。

 著者がお金を払って出版をするのであれば、何のために出版をするのかよく考えて、目的にあった出版社をじっくりと探すのが一番ではないでしょうか。


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Posted by 松田まゆみ at 14:50│Comments(9)共同出版・自費出版
この記事へのコメント
はじめまして

 いわゆる共同出版についての問題点、ネット上ではじめて正鵠を得た見解を目にしました。
 それとともに、外部から眺めていて新風舎問題を扱う団体などの不可解な行動の疑問も解けました。
Posted by 柴田晴廣 at 2008年02月28日 19:48
柴田晴廣様

はじめまして。コメントありがとうございました。

柴田さんのブログは時々拝見させていただいていました。私は法律のことはあまり分かりませんが、柴田さんは法的な側面から非常に詳細な検討をされていて、感心していました。

新風舎や文芸社の契約がサービスの契約であり、著者が消費者だと捉えている方が多い中で、さすがに柴田さんはきちんと理解していらっしゃいますね。

マスコミがこの問題を契約の側面からきちんと捉えて報道しないので、とても問題がわかりずらくなっているように思います。
Posted by 松田まゆみ at 2008年02月28日 20:46
松田まゆみ様

 過分な評価に恐縮しています。
 さて私は新風舎及び文芸社の見積もりしか実物は見ていないのですが、見積もりにざっと目を通しただけでも請負契約(民法三編二章九節)と考える余地はありません。
 松田さんも指摘されているように印税が支払われているという点もありますが、見積もりに販売予定価格が示されているということからもこれがいえると思いますし、このことにより本の所有権は出版社側にあることになります。
 私が見積もりを見た段階でびっくりしたのが、この販売予定価格に発行部数を掛けた金額が著者負担額より安いということでした。つまり原価が定価を割っているということです。
 単純に考えても売れれば売れるだけ損するわけですから、こんな商売は聞いたことがありませんし、成り立つわけがありません。
 これが成り立つのは、本の売り上げではなく、著者を顧客としている場合、つまり、自費出版及び販売委託を事業の柱としている場合です。
 実体としては著者を顧客としているにもかかわらず、その著者との契約で出版権設定契約(著三章)を結んでいる、裁判等で争う場合、この点をつくことに尽きるでしょう。
 時系列で整理しても見積もりが出て、その後に契約ということになりますから、この流れに沿って問題を整理すれば問題点はわかりやすくなると思います。
Posted by 柴田晴廣 at 2008年02月29日 07:59
柴田晴廣様

そうですね。契約と実態が異なっているということが最大の問題点です。契約では出版社の商品をつくるのですから、その費用は原価計算であるべきですが、利益を上乗せしているわけです。しかも、著者負担は制作費のみと説明しながら(このことは契約書には書いていない)、それ以外の費用も負担させています。

ところが、著者には実際の原価がいくらなのかを証明できないので、裁判などで争うのも困難ということになります。サービスの契約だと錯誤して、利益が入っていてもおかしくないと思っている著者も多いのです。

自社の商品をつくる際に、著者にすべての費用どころか利益まで出させているのですから、普通の感覚ではあり得ない商売です。出版契約のことがよくわからない著者を利用して不公正な取引をしているといえます。

なお、私が契約したときには、見積には販売予定価格は書かれてはいませんでした。
Posted by 松田まゆみ at 2008年02月29日 09:07
追伸

 「共同出版・自費出版の被害をなくす会」のblogもざっと目を通させていただきました。
 「出版社選びの注意点」、これについても定価が原価を割っていないか、及び仮に原価を割っている場合に納得のできる説明がされているか、この点を付け加えた方がわかりやすいように思いました。
Posted by 柴田晴廣 at 2008年02月29日 09:14
松田まゆみ様

 応答があったのを確認せずに「追伸」を投稿してしまいました。申し訳ありません。
 さて民事で争う場合、何を根拠に争うかで困難の度合いも異なります。
 不法行為による損賠(民法七〇九条)で争えば、確かに立証責任から困難がともないます。
 しかし契約責任による損賠(同四一五条)による場合は、「債務者の責めに帰すべき事由」があったか否かの挙証責任は、債務者が負うことになります。立証責任が債務者に転換されるわけです。ここでいう債務者は出版社です。
 また不当利得返還請求(同七〇三条)においても立証責任は軽減されます。
 具体的にシュミレーションを考えたことがありませんが、実体と契約の乖離という点を裁判官に訴え、この矛盾の心証を形成させ、債務不履行あるいは不当利得であることを訴えていけば勝算はあるように思います。
 
Posted by 柴田晴廣 at 2008年02月29日 09:42
柴田晴廣様

アドバイスありがとうございます。確かに負担費用と定価の関係は、適切な見積かどうかを見分けるためのひとつの目安になりますね。

私の場合は全額返金での解約ということで解決してしまいましたから提訴ということにはなりませんが、裁判まで視野に入れている方がいるならとても参考になるご指摘だと思います。

大手が二社も倒産したのですから、原稿募集の広告を掲載してきたマスコミこそ、こうした問題点をきちんと伝えるべきでしょう。
Posted by 松田まゆみ at 2008年02月29日 13:27
松田まゆみ様

 私事になりますが、私は特許から法律の世界に足を踏み込みました。
 著作権も特許権も知的財産権という点では共通します。
 しかし、たとえば素人(製造業者でないという意味です)が発明をした場合、出願がされてなくて冒認出願されて問題になったというケースは知っていますが、契約等でトラブルになったというケースを知りません。
 発明品を企業に売り込んだ場合も素人が書籍を出版する場合も基本的には変らないはずです。
 しかし、発明品をはじめとする一般商品では考えられないような問題がいわゆる共同出版では起きました。
 では発明品と書籍では何が異なるか?
 問題の淵源はここにあると私は考えます。
 発明品であれば需要と供給に応じて、価格を変動させることができます。この点、書籍については、再販価格維持制度がある点で異なります。
 見積もりの時点で予定販売価格を提示するというのも実はここにあるわけです。
 この再販価格維持制度で潤っているのが取次と量販書店、そして一部の大手出版社です。
 いわゆる共同出版の問題は、いわば再販制度のアダバナともいえる問題なのです。
 新聞社にしても自社が発行元になって書籍を出版しています。当然取次と取引をしているわけですから、ここに期待するのは無理だと思います。
 最終的には、独占禁止法を視野に入れた取次の寡占の問題を論じなければなりませんが、碧天舎、新風舎が倒産した現時点では、原価を割るような販売価格を是正することが、逆に自費出版へのハードルを下げることになると思います。
 もちろん親記事に書いてあるように、自費出版本といえども当然商品としての書籍の要件を満たすことが前提ですが
Posted by 柴田晴廣 at 2008年02月29日 15:01
柴田晴廣様

ご意見ありがとうございます。

確かに書籍というのは他の商品と異なりますし、再販制度や取次を通した流通というのは一般の方にはわかりにくいシステムですね。

共同出版の場合は、出版点数は多いものの取次を通して流通している絶対数は多くありませんから、取次はそれほど利益を得ていないようにも思います。新聞が問題を報道しないのは、それ以上に広告主との関係ではないでしょうか。いずれにしても、マスコミはこの問題ではまったくといっていいほど頼りになりません。
Posted by 松田まゆみ at 2008年02月29日 16:53
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