鬼蜘蛛の網の片隅から › 地学 › 沈みゆく野付半島
2008年04月29日
沈みゆく野付半島
前回は野付半島でイソコモリグモの生息を確認したことについて書きましたが、私が野付半島を訪れたのは二度目です。最初に訪れたのは30年以上も前の学生時代の夏です。その時の記憶はさほど鮮明ではありませんが、30年ぶりの野付半島は脳裏の片隅に残っていた光景とは異なった印象を受けました。
確かあの時はトドワラを抜けてアカアシシギを観察しながら歩き、野鳥の観察に夢中になっていたら放牧されていた牛に取り囲まれてしまった記憶がありますが、今は牛が放牧されている気配もありません。
半島の中ほどにあるトドワラまで足を伸ばして、かつての記憶と印象が違った理由がわかりました。トドワラはかつて砂嘴に茂っていたトドマツの森が枯れてしまい、その枯れ木が独特の荒涼とした景観を作り出しているのです。なぜ森が枯れてしまったのかというと、海水面の上昇や砂嘴の沈降によって森林が海水の影響を受けるようになったからなのです。
先日は満潮時と重なっていたからかもしれませんが、トドワラの端にある「トド橋」は海中に取り残されていました。かつては一面に立枯れ木が見られたたトドワラも、今では立っている枯れ木はごく一部になってしまいました(写真)。やがてはこの枯れ木も倒れてしまうのでしょう。
野付半島は砂嘴(さし)といって砂礫の堆積によって形成されました。知床半島沿岸から海流によって砂礫が運ばれて砂嘴となり、それが少しずつ延びてきたのです。このために、知床側の海岸には砂だけではなく礫がたくさんあります。
野付半島の過去と現在の写真を比べると、砂嘴の幅が驚くほど狭くなっているのがよくわかります。「道東の自然を歩く」(道東の自然史研究会編、北海道大学図書刊行会)によると、最近は海岸浸食が目立つようになり、1952年から1990年の間に最大60メートルもの汀線の後退が生じたそうです。
川の流れが砂礫を海に運び、その砂礫を海流がさらに遠方に運んで砂嘴を形成する。その一方で沈降によって砂嘴が海中に没しつつあるのです。このような自然の力によって、野付半島はほんの数十年の間に大きく形を変え、景観まで変わってしまいました。
今後、野付半島がどのように変わっていくのかわかりませんが、このまま沈降が続けば砂嘴はますますやせ細り、やがてイソコモリグモの生息地もアカアシシギの繁殖地も水没してしまうのかもしれません。
野付半島がなくなってしまったら内湾の漁業などに大きな影響が出るとして浸食への対策が講じられているようですが、自然の摂理に対してどこまで人が手を加えるべきなのか、正直なところ疑問に思います。
確かあの時はトドワラを抜けてアカアシシギを観察しながら歩き、野鳥の観察に夢中になっていたら放牧されていた牛に取り囲まれてしまった記憶がありますが、今は牛が放牧されている気配もありません。
半島の中ほどにあるトドワラまで足を伸ばして、かつての記憶と印象が違った理由がわかりました。トドワラはかつて砂嘴に茂っていたトドマツの森が枯れてしまい、その枯れ木が独特の荒涼とした景観を作り出しているのです。なぜ森が枯れてしまったのかというと、海水面の上昇や砂嘴の沈降によって森林が海水の影響を受けるようになったからなのです。
先日は満潮時と重なっていたからかもしれませんが、トドワラの端にある「トド橋」は海中に取り残されていました。かつては一面に立枯れ木が見られたたトドワラも、今では立っている枯れ木はごく一部になってしまいました(写真)。やがてはこの枯れ木も倒れてしまうのでしょう。
野付半島は砂嘴(さし)といって砂礫の堆積によって形成されました。知床半島沿岸から海流によって砂礫が運ばれて砂嘴となり、それが少しずつ延びてきたのです。このために、知床側の海岸には砂だけではなく礫がたくさんあります。
野付半島の過去と現在の写真を比べると、砂嘴の幅が驚くほど狭くなっているのがよくわかります。「道東の自然を歩く」(道東の自然史研究会編、北海道大学図書刊行会)によると、最近は海岸浸食が目立つようになり、1952年から1990年の間に最大60メートルもの汀線の後退が生じたそうです。
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Posted by 松田まゆみ at 14:53│Comments(0)
│地学
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