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2008年11月05日

議論を呼んだチビクロ問題

 チビクロ問題といっても、絵本の「ちびくろサンボ」の話題ではありません。チビクロハエトリというクモの話題です。

 先日の「チビクロハエトリの謎」という記事が「クモ蟲画像掲示版」で話題になってしまったようです。ありゃりゃ・・・。(http://xbbs.knacks.biz/kjrshoji/a2924参照)もちろん議論を起こすつもりで書いたのではありませんので、きっかけをつくってしまった当事者としてはちょっとびっくり。

 問題となっているクモの画像はこちらでどうぞ。論争の最中にこのクモの画像を投稿された方がいますので。
http://xbbs.knacks.biz/kjrshoji/a2954

 確かにハエトリグモの研究をされている池田博明さんは、ご自身の「クモ生理生態事典」ではチビクロハエトリHeliophanus aeneusだけを取り上げています。

 日本のクモの目録を発表されている谷川明男さんは、チビクロハエトリとウスリーハエトリHeliophanus ussuricusの両方を目録に掲載しています。

 新海栄一さんは、「日本のクモ」(文一総合出版)でも「写真日本クモ類大図鑑」改訂版(千国安之輔著、偕成社)でも、チビクロではなくウスリーハエトリとしています。

 私は先の記事に書いたように、北海道(千国図鑑の写真)で私が確認しているものはウスリーであり、日本にはチビクロが分布している可能性は低いという見解です。その理由はいうまでもなく、生殖器の形態がチビクロではなくウスリーの記載と一致するからです。

 Spinnentiere Europasという写真図鑑にチビクロハエトリが掲載されています。ネットでもチビクロの画像を見ることができます。外見はウスリーによく似ていますが、雌の脚はウスリーのような黄色ではありません。私はチビクロの写真を見たとき、日本のものはチビクロとは違うと直感しました。ロシアのクモのリストを見ても、チビクロの分布の中心はヨーロッパです。私がチビクロは日本に分布していない可能性が高いと考えるのは、こうした理由からです。

 研究者によって見解が異なることはよくあることですし、それぞれの見解はもちろん尊重します。科学というのは、さまざまな研究者が自分の見解を公表し、議論を重ねることで真実を追究していくものではないでしょうか。議論があるのは多いに結構です。

 ところで、池田さんも谷川さんもチビクロとしている個体の生殖器の図を示していないので、私にはどのような理由でチビクロと判断しているのかわからないのです。それぞれの研究者の判断基準が分からない以上、同定者自身が生殖器を観察し、文献などに当たって判断するしかありません。チビクロの生殖器の図はネット上にも掲載されています。標本所有者が今一度、チビクロとしていた標本を確認することで解決できる問題でしょう。

 クモの研究者はおそらく誰でも誤同定の経験があるはずです。もちろん私もそうです。誤同定をしながら経験を重ねていくことで、同定のコツが身についてくるものなのです。そして、誤っていたことがわかれば訂正するしかありません。

 日本人の特質かもしれませんが、大先生あるいはその道の専門の方と見解が異なる場合、指摘しにくいがために時として黙認してしまうこともあるようです。しかし、そのような遠慮こそ混乱を招き研究を遅らせてしまうことになりかねないのではないでしょうか。研究においては気兼ねや遠慮を持ち込まず、個々の研究者が率直に自分の見解を明らかにしていくことが求められると私は考えています。

 なにやら私の記事がきっかけで、クモ蟲画像掲示板の存続問題に関わるようなコメントまで登場してしまったようで、ちょっと当惑してしまいました。私の見解などにこだわらず、楽しく続けてもらえたらと思っています。


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Posted by 松田まゆみ at 12:15│Comments(2)クモ
この記事へのコメント
松田様、はじめまして。
私は某掲示板の管理者をしている東京都在住のクモ好き人間です。「チビクロ問題」では松田様の見解に問題があるようなニュアンスの発言をしてしまい、大変申し訳なく思っています。結論から申し上げますと、松田様の見解は正鵠を得たものであることに疑いを持つものではありません。Cybaeusさんの的を得た鋭い突込みを何とかはぐらかそうとして泥沼に嵌ってしまいました。

「なぜチビクロハエトリにこだわるのか」については文章では微妙なニュアンスを伝えられないので説明を避けさせて頂きますが、私の『企み』を要約すると「日本にはHeliophanus aeneusはまったく生息していないのではないか」「であるならばチビクロハエトリという和名自体は活かせる(生かせる)のではないか」「ウスリーハエトリという和名が定着するのを何とか阻止したい」ということです。馬鹿げた行為であることは明白ですし、私自身それを貫くことには自信が持てません。「非力な馬鹿者が訳の解らないことをやっている」ということで大目に見て頂ければ幸いです。

最後にもう一度。松田様の見解は「正鵠を得たもの」と認識しています。
Posted by 荘司 康治郎 at 2008年11月08日 13:42
荘司康治郎様

はじめまして。コメントありがとうございます。
謝るようなことではありませんので、どうぞ気になさらないでください。

荘司さんのおっしゃることはよく分かります。チビクロハエトリという名前は、広く使われて親しまれていましたから、aeneusが日本に分布していないということがはっきりしたなら、ussuricusの和名をチビクロハエトリに変えたほうが分かりやすいと私も思います。ウスリー地方だけに分布しているわけではないのですから、ウスリーという名前より特徴が表されているチビクロの方がいいですね。

チビクロとしている標本を持っている人に確認していただき、日本にaeneuがいないということがはっきりしたなら、ウスリーをチビクロに改称されればいいのです。荘司さんがチビクロに改称したっていいのですよ。ただ、きちんと確認ができるまでは、やはり別扱いにしておかねばなりませんけど。

鋭いCybaeusさんをはぐらかすのはちょっと無茶だったかもしれませんね。でも、絶妙なやりとりを楽しませていただきましたし、読者の皆さんもそれなりに理解できたのではないでしょうか。
Posted by 松田まゆみ at 2008年11月08日 15:19
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