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鬼蜘蛛の網の片隅から › 河川・ダム › 漁協と自然保護

2009年05月23日

漁協と自然保護

 「日本の科学者」(日本科学者会議)6月号に、川崎健氏(東北大学名誉教授)の「『霞ヶ浦導水事業』に対する漁業共同組合と科学者の闘い」という論考が掲載されていて、興味深く読みました。この事業は40年以上も前の高度経済成長期に計画されたものとのことですから大規模林道と同じパターンですが、そういう化石のような自然破壊事業が今も生きているのです。この国はなんと不思議な国でしょう。

 霞ヶ浦導水事業とは、那珂川と霞ヶ浦との間に43キロメートルにも及ぶ導水管を設置するというものです。目的は1.きれいな那珂川の水を霞ヶ浦に引き入れて汚れた霞ヶ浦の水質を浄化する、2.渇水時に霞ヶ浦の水を那珂川に供給する、3.那珂川からの水を霞ヶ浦に貯めて新都市用水とする、とのこと。具体的な理由は省略しますが、川崎氏によると、1は霞ヶ浦の富栄養化につながり、2は那珂川の水質を悪化させ漁業被害を与える可能性があり、3は水が余っている状況のために不要、とのことです。つまり、まったく必要がないばかりか様々な害を及ぼすような事業に1900億円もの税金を使うというのです。

 ここで川崎氏が評価しているのは、漁業者が地域住民とともに反対しているということです。私はかつて東京湾の埋め立ての反対運動に関わったことがあります。はじめのうちは漁業者たちが自然保護団体とともに闘っていたのですが、利害関係が絡む漁業者はやがて漁業権を放棄して保証金を受け取ることで運動から離れていきました。しかし、那珂川の漁協が保証金をもらうことより、漁業を守り、環境を守ることを選んで闘っているということに、私はこの漁協の気概と環境意識の高さを感じました。

 天塩川水系に計画されているサンルダムは、今月の12日に北るもい漁協の同意が得られたとして本体工事に着手するとの報道がありました。漁業権をもつ漁協の同意が着工のネックになっていたということでしょう。13日付けの北海道新聞によると、漁協は「ダム完成後も水をためず、魚道施設の効果を検証する」との条件をつけ「対策の効果がなければ、ダムの運用停止を求める」としています。しかしダムが造られてしまってから魚道の効果が期待できないことがわかったなら、水をためないという条件をつけても意味がないでしょう。理解できない条件です。

 サクラマスが、8キロメートルもの魚道を何の問題もなく遡上できるとは考えられません。サクラマスの減少を問題視して反対していた漁協が同意にまわった裏には、何かあると思わざるを得ません。これまでダムに反対してきながら、那珂川の漁協のような姿勢を貫けなかったことがとても残念です。

 なお、サンルダムについては「サンル川を守る会」のサイトを参照してください。


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Posted by 松田まゆみ at 16:23│Comments(4)河川・ダム
この記事へのコメント
漁協は味方につけると、地域全体が動いてくれるので大変助かります。環境保護団体には、こうした根の着いた団体の協力があれば助かります。
しかし、彼らは経済的に克服できたことについては全く無関心です。
北海道で言うならば、サケの人工ふ化事業は大変成功している例です。上流でふ化して大量に放流するこの技術は、河川が汚れてもさほど影響は受けません。
ところがキュウリウオなどの清流を好む魚はほとんどいなくなってしまいますが、それは漁協の関心がない魚種です。
サケの収入が補償されるために、漁協はだんまりを決め込むことも少なくありません。
Posted by そりゃないよ獣医さん at 2009年05月23日 17:52
留萌漁協の真意はつかめませんが、道立水産は純血種のサクラマスが開発によって滅びても、
全雌三倍体サクラマスという改良サイボーグをばら撒く事で問題ないという考えをもっています.

しかし全雌三倍体サクラマスは産卵能力をもたないことで大型に成熟させるというまったくの実験生産物
です. この後ろ向きの投資には既に大量の血税が注ぎ込まれています.
しかも結果はコスト上、失敗に終わっているのに続けようというのです。

道立水産関係者達は 産卵しなくていいサクラマスの為開発行為で河川が破壊されても海でとるから
問題ないと語っています. つまり川にダムができようが水質が落ちようが関係ないといっている訳です.

公的機関ぐるみで森林の自然破壊を行って安易に海をバイオ化する行為は道民の食と飲料水の安全を
彼らの組織安泰と引き換えにしたことになります. 彼らは血税機関であり実情にあった組織拡大
以上を望むべき資質を持っていません.  無駄は許されないのです.
ここには純血種のサクラマスがいます. 存在している物を消し去って投資するノーナシ企業は
民間に存在しません。  それを血税を投じてやるのですからふざけた無駄遣い、自然こわしです。

川は彼らの水路ではありませんよ。多くを納税している皆さんのものです。
Posted by こるとれーんtone at 2009年05月23日 22:08
獣医様

かつて東京湾の埋め立て問題で、自然保護団体が漁民と共に反対していたときに、利害関係のある漁民との共闘に反対する人達がいました。しかし、公共事業による環境破壊は、直接的な利害関係者だけの問題ではありません。できる限り共闘するべきではないかと私は思います。

確かに、漁民は経済的に保障されてしまうと簡単に寝返ってしまうことがあります。しかしその結果、取り返しのつかない環境破壊につながったことはすでに十分わかっているのです。今は、漁民もその反省に立って、子孫に良好な環境を残すことの意味を真剣に考えてほしいと思います。
Posted by 松田まゆみ at 2009年05月23日 22:23
こるとれーんtone様

三倍体のサクラマスをばら撒くとは驚きです。生物多様性の保全をまったく無視した話しですね。そんなことに税金を使っているとは、いやはや・・・。

ダム着工の裏に公的機関まで関わっているという話は十分頷けますね。ほんとうに何もかも腐っています。
Posted by 松田まゆみ at 2009年05月24日 06:13
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