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鬼蜘蛛の網の片隅から › 自然保護 › 希少種の移植は環境保全策ではない

2010年01月28日

希少種の移植は環境保全策ではない

 ダムや道路工事などの環境アセスメントでは、多くの場合、絶滅危惧種とか希少種が確認され、事業者にとってはそれが事業を進める上で大きな妨げとなります。日本のアセスメントでは基本的に事業を行うことが前提となっているので、レッドリストに掲載されているような種が確認されたなら、なんらかの対策を講じなければならなくなります。希少な猛禽類などが生息していれば、繁殖期を避けて工事をするとか、騒音や振動を小さくするなどといった対策をとります。希少生物の生息地そのものを保全するとなると工事ができなくなりますので、こうした対処療法でその場しのぎをするわけです。

 ところが、植物はそうはいきません。工事予定地にある植物は、どうしても生息地が破壊されてしまうのです。そこでどうするのかというと、「移植」という方法がしばしばとられます。たとえば、道道鹿追糠平線のシェルター工事の際にも帯広土木現業所は希少植物を移植したと説明しました。富村ダムの堆砂処理のためのトンネル工事に関しても、北海道電力は希少植物を移植するとしています。つい先日訴訟が始まった北見道路でも、希少植物を移植したそうです。

 しかし、植物というのは生育地の環境がその種に適しているからこそそこに生存しているのです。移植によって微気象などさまざまな環境条件がそれまでと違ってしまえば、うまく適応できるかどうかわかりません。しばらくは生存していても、やがて消えてしまうこともあるでしょう。多年草の多くは種子から芽生えても成熟して花をつけるようになるまでは何年もかかります。移植された個体が繁殖集団として持続的に生存できないのであれば、やがて滅びてしまいます。

 事業者はすぐに「移植」で済ませようとしますが、これまで移植した植物はその後どうなっているのでしょうか? 継続的な調査はなされているのでしょうか。

 改めて言うまでもなく、「自然を保全する」ことは「個体を保全する」ということではありません。長い目でみて持続的な生存が保障されなければ、保全とは言えないのです。生態系やそれを構成する生物多様性そのものをまるごと保全しなければ、環境保全にはなりません。その場しのぎの工事対策や、安易な植物の移植は到底まっとうな保全策とは言えないのです。移植することで、「環境に配慮した」などというのは誤魔化しでしかないでしょう。

 こうしたまやかしの環境対策のもとに環境アセスがクリアされ、自然が破壊されて希少種がどんどん絶滅の危機に追い込まれているのです。


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Posted by 松田まゆみ at 22:20│Comments(2)自然保護
この記事へのコメント
釧路でキタサンショウウオの保護に取り組まれている、橋本さんの講演を聞いたことがあります。
環境が悪くなった所からの移設の技術というか方法を考えて成功した方です。環境が悪化したのでキタサンショウウオの移設は正解だったと思います。個体は保護されたのだと思います。
が、開発する側はいくら道路を作っても、そこにキタサンショウウオがいれば、どっかに持ってけばいいのだという方向で解釈します。
これでは、開発された技術の目的があべこべです。
学者先生はそうしたことにどうやら無頓着なようです。
Posted by そりゃないよ獣医さん at 2010年01月29日 10:28
獣医様

シマフクロウなども、給餌や巣箱掛けなど、人間による手助けがなければ繁殖が困難な状況になっています。人間の自然破壊によって絶滅の危機に陥ってしまった種を維持させるためには、このような保護策も必要です。

しかし、おっしゃる通り、開発行為を前提として「移植」を提案するのはあべこべですね。専門家の先生方がこのような「移植」にゴーサインを出しているのなら、大いに問題でしょう。
Posted by 松田まゆみ at 2010年01月29日 16:26
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