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鬼蜘蛛の網の片隅から › 自然・文化 › 小さな街の書店のゆくえ

2010年07月13日

小さな街の書店のゆくえ

 私の住む町から書店が姿を消して何年になるでしょうか。人口数千人ほどの小さな町で書店を見かけると、頑張っているなあと声援を送りたくなります。

 昨年のことですが、とある町で夕刻に2時間ほど時間をつぶさなければならなくなりました。時間つぶしなら本屋に限るということで小雨の降る中を本屋に向かうと、店じまいの支度をしているようです。聞くと、そろそろ閉店の時間とか。地方の町では遅くまで店を開けていてもお客さんは入らないのでしょう。でも、「どうそ、いいですよ」との言葉に甘えて中に入りました。

 もちろん大きな書店ではありませんが、驚いたのは社会系の本が充実していたこと。ふつうこの規模の書店では、雑誌とか実用本、話題になっている本やベストセラーの本などが主流です。どうみても、売れる本を売ろうというのではなく、売りたい本を売るという、店主の主張が伝わってくる選本です。

 社会系の本の棚をひととおり眺めてから、辺見庸さんの「私とマリオ・ジャコメッリ」を選んでレジに持っていき、閉店時間を過ぎてしまったことを詫びると、「自分の好きな本を買ってもらえると、嬉しいですね」とおっしゃってくださいました。やっぱり、店主の好きな本を売っているんですね。明らかに地元の人ではない見知らぬ客が偶然やってきて、自分の好みで品ぞろえした本の棚を眺めまわし、好きな本を選んだということも嬉しかったのかもしれません。

 しかし、こんな本屋さんは大型店に押されてどんどん姿を消しているのでしょう。大型店だけではありません。今はコンビニでも、インターネットでも本が注文できる時代。単に本を買いたいというだけなら、書店などなくてもいいのです。

 クレジットカートを持たない主義の私は、アマゾンは利用していません。コンビニも近くにはありません。ですから欲しい本は大型書店のある街に行ったときに買うか、札幌在住の娘に頼むか、版元に直接注文するかです。自然がいっぱいの田舎暮らしはいいのですが、本の購入だけは不便。

 ところがつい最近、新聞の販売店が本の注文と無料宅配をはじめるというチラシが入ってきました。本の入手は便利になりますが、こういうサービスがあちこちで普及したなら街の小さな本屋さんはさらに打撃を受けるのでしょう。利便性の陰で、「売りたい本を売る」という心意気のある街の本屋さんが消えてしまうのは何とも寂しいものです。書店の存在は、その街の文化レベルの象徴でもあると思うのですが。


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Posted by 松田まゆみ at 16:27│Comments(8)自然・文化
この記事へのコメント
 うれしいお話ですね。自分の好きな本を売って暮らしていけるならすてきです。私の町にある本屋さんもそういう本屋の一軒だったのですが、駅ビルに大手の書店ができてしまい、棚ががらがらになってしまいました(この話はいつかしましたね)。
 いつもこの本屋さんに注文していたのですが、歩けなくなってしまって以来、アマゾン専門になってしまいました。確かに便利です。本屋さんに注文するというのは、その本屋さんと知り合いだったり、自分の考えがないと続かないでしょう。私は本屋さんと世間話をするのも楽しみでした。先日、車いすで連れて行ってもらって(本は生活必需品とみなされず、介護保険では買い物に行けず、ヘルパーさんに連れて行ってもらうと自費になってしまいます)、最近来ない事情を話したら、「治ってまた来てください」と言われました。ずっとつぶれないで続いてほしいです。佐藤慶や松本清張も来ていたんですよ。
 取次の三分の一はアマゾンが占めるようになり、東販や日販のつぶれるのも時間の問題みたいです。編集者が出版社がつぶれる前に取次がつぶれるだろうと言っていました。時代は変わっていきます。さびしいことです。
Posted by 渡辺容子 at 2010年07月13日 19:16
渡辺容子様

小さいけれど細々と頑張っている本屋さんが消えていくのは、本当に残念です。

取次の三分の一がアマゾンですか。取次にとっても書店にとっても大変な状況ですね。この先どうなるんでしょうか。
Posted by 松田まゆみ at 2010年07月14日 08:13
おばんです.  確かに趣のある店というのがなくなりました.
昔は本屋さんでもレコード店でも 店主の嗜好が感じられて
それが温かみに 感じられるときもありました. そういう店舗が
町の 雰囲気にもなっていましたよね.
変わらないで良いことって あるのになぁって思いました. 
Posted by こるとれーんtone at 2010年07月14日 21:46
こるとれーんtone様

一週間ほど東京に行っていたために、お返事が遅くなり失礼しました。

やはり、店主の個性や人柄が感じられるのは小さなお店に限りますね。そういうお店がどんどん姿を消してしまうのは寂しいことです。私たち消費者も、できるだけ身近なお店を利用することが大事なのでしょうね。
Posted by 松田まゆみ at 2010年07月21日 22:26
札幌でもかなり小さな本屋から中堅の書店までなくなってしまいましたよ。現在は超巨大な書店が数カ所にスーパーに入っている書店くらいなものです。
文化レベルは確実に低くなりますよね。

それにしてもアマゾンの取次ってそこまで来ているんですか。
驚かされますね。
Posted by BEM at 2010年07月29日 00:43
BEM様

札幌は本当に大型店が優勢になって、小さな書店はなくなってしまいましたね。残念なことです。

アマゾンに関しては私も驚きました。
Posted by 松田まゆみ at 2010年07月29日 15:07
松田 様

先日は私のつたない質問にご返答いただき、恐縮しております。
仕事の要があって十勝地方の情報を収集しているときにこのブログにたどり着きました。

私の家の近所の小さな書店も5年前に廃業しました。いまは更地です。長期にわたって定期購読の雑誌を取り次いでもらっていたので、閉店の時には店主みずから私の自宅まで挨拶に来られたのには驚きました。涙を流しておりましたのを、今でも覚えております。

しかし、その後はもっぱらアマゾンです。たまに札幌に出たときに大型書店に寄って本棚にずらりと並んだ本を見て、これはという本をピックアップし、家に帰ってアマゾンに注文です。

定期購読の雑誌は出版社に直接注文です(以前は、送料が別途かかっておりましたが、いまは年契約ですと送料は出版社持ちです)。

最初は近所に本屋がなくなって不便だなと思いましたが、こうしてみると不便はありません。
個人的な感情ではいろいろありますが、書店も商売という意味では維持できないと言うことだと思っております。

イワン雲帝
(本名を記したいとことですが、現在の検索システム、恐ろしいものがあり、試しに本名で検索してみると勤務先やら電話番号やら加盟団体など全部出ております。ということで、ご勘弁下さい)
Posted by イワン雲帝 at 2010年08月01日 12:11
イワン雲帝様

こんにちは。

私は、近くに書店がなくなってからは、送料を出版社が負担してくれる場合は、できる限り出版社に直接注文するようにしていました。そのほうが取次や書店の手数料がかからないので、出版社を応援することになると思うからです。

とにかく今の時代、小さな出版社は大変です。そして、社会問題などへの意識が高く頑張ってもらいたい出版社というのは、多くが小あるいは零細出版社です。書店にしても出版社にしても、底辺で頑張っている小さな会社を応援したいという思いがあります。

仕事などとの絡みで実名でコメントできない方は、数多くいると思います。インターネットが発達した昨今は個人情報が簡単に出てしまいますから、それも止むを得ないと思っています。
Posted by 松田まゆみ at 2010年08月01日 14:04
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