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鬼蜘蛛の網の片隅から › 政治・社会 › 過剰医療はなくせるのか

2010年09月24日

過剰医療はなくせるのか

 9月12日の北海道新聞の「現代読書灯」というコラムで、前沢政次さんが「病院選びの前に知るべきこと」という本を紹介していました。著者は田島知郎さん。私自身はこの本を読んではいないのですが、過剰医療について前沢さんの説明を一部引用すると以下のようなことです。

 「過剰医療とは、医師が純粋に患者のための医学的判断に基づいて診断・治療をしているわけではなく、病院や診療所の収支を考えて、検査を増やしたり、高価な薬を使ったりすることを意味している。また研究目的で対象症例を増やすために新しい検査や薬を必要のない患者に強制することも少なくない。病院の収入増や研究成果を生むために高齢者が犠牲になる例もある」

 病院が検査や薬で儲けようとしているということは、多くの人がそれとなく感じていることではないでしょうか。ところが、多くの患者は医学の知識がなく、医師の決めた検査を断ることができません。医師の言うなりに検査漬けにされ、必要性の乏しい検査まで受けさせられることになります。検査をしておけばそれに越したことはないと・・・。それに、少しでも長く生きたいという想いから、必要のない治療を受けたり副作用の強い薬を使うことになりかねないのです。田島さんは、日本の医療界のシステムの問題点を告発し、解決策として日本の医療界の大改革を提案されています。

 さて、この本の著者である田島知郎さんがどのような考えを持たれているのか気になって調べたところ、以下のようなインタビュー記事が掲載されていました。

医療の第一歩は患者さんから話を聞くことから始まる

 アメリカの医療システムについて知らなかったので、驚くことがいろいろ書かれています。たとえば、医師は独立した存在で、病院から給料をもらっているわけではないから、堂々と自分の意見を主張するとか、治療方針で病院の経営者と意見が合わなければ、自分の患者さんを別の病院で治療するとか、日本では考えられないシステムになっているようです。

 驚いたのは日本の病院に設置してあるCT機器は、世界中の4分の1を占めているとのこと。また、日本では治療で患者さんが受ける放射線の被ばく量は、欧米の2倍以上にもなっているそうです。日本の検査や治療は、世界的に見るといかに過剰かを伺い知ることができます。

 皆保険制度のないアメリカの現状は、マイケル・ムーアが「シッコ」という映画で鋭く描き出しました。この映画をみて、寒々とした気持ちになったものです。しかし、どうやらアメリカの医療は評価すべきところもあるようです。とりわけ徹底的に患者さんの利益を優先するという姿勢は日本が学ばなければならないことでしょう。一方で日本では皆保険制度自体は評価されるものの、さまざまな問題を抱えて大きな歪みが生じているのです。

 田島さんの指摘されるように医療界の大改革は確かに必要なのでしょうけれど、上から変えようといっても業界と国が癒着している現状ではそう簡単に実現できるとは思えません。「言うは易く行うは難し」です。となると、患者は自分で自分の病気のことを知って、過剰な検査や治療を断り自己防衛するしかありません。患者が医師の勧める検査や治療を拒否するのは勇気と行動力が必要ですが、この国の医療界の実態を知って賢く行動することは底辺から医療界を変える第一歩になるのではないでしょうか。

 田島さんと同じくアメリカに留学され、日本のがん検診やがん治療について疑問を呈し、多数の著書のある、慶応義塾大学医学部放射線科の近藤誠さんへのインタビュー記事を紹介しておきましょう。近藤さんは適正な医療費配分システムを作ることを提唱されています。

あの人に聴く 慶応義塾大学医学部講師 近藤 誠先生(前編)

あの人に聴く 慶応義塾大学医学部講師 近藤 誠先生(後編)


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Posted by 松田まゆみ at 16:20│Comments(6)政治・社会
この記事へのコメント
経済破綻をしたアイスランドのことです。
医療制度の詳細は知りませんが、保険で抗生物質の投与を認めなくしたそうです。抗生物質に関して患者はは、全く自腹を切るわけです。
そこで、数年経つと耐性菌がほとんどなくなったとのことです。
耐性菌は、短い歴史しかなく本来異常か奇形といわれるものです。
抗生物質の使用量が極端に少なくなる故tで、本来の菌の姿の戻ったのでしょう。
これと似たことを家畜で経験しています。

でも診療は難しい。目の前に死にそうな牛がいてある抗生物質を投与すると助けられるとします。
耐性菌が心配だから、この牛には死んでおらいます。とは、獣医師として言えません。
個別の問題に矮小化するべきでない事は、十分承知の上ですが・・・
Posted by そりゃないよ獣医さん at 2010年09月24日 22:43
獣医様

アイスランドの事例は知りませんでした。抗生物質の耐性菌についても、忠告している医師がいたのに無視されてきたという話を聞いたことがあります。

仕事を持っているある母親が、子どもがちょっと風邪気味になっただけですぐに抗生物質を与えると言っていて驚いたことがあります。親の仕事の都合を優先し、保育所を休ませないために薬を使うという感覚なのです。

耐性菌は、ちょっとした風邪などでもすぐに医者にかかり、安易に抗生物質を投与するという習慣が招いたものだと思います。薬は、どうしても必要なときだけに使うというけじめが大切なのではないでしょうか。
Posted by 松田まゆみ at 2010年09月25日 13:59
 近藤先生のインタビュー記事の紹介、ありがとうございます。近藤先生には半生記を記した本があるのですが(『ぼくはなぜがん治療医になったのか』)、これを読めばかなりわかります。おもしろかったです。
Posted by 渡辺容子 at 2010年10月07日 16:43
渡辺容子様

近藤先生の本をご紹介くださりありがとうございます。今はちょっと忙しいのですが、時間ができたら読んでみたいと思います。
Posted by 松田まゆみ at 2010年10月14日 15:35
 私の書き方が明瞭でなく、誤解させてしまったようです。近藤先生のこのインタビュー記事を読むと、『ぼくはなぜがん治療医になったのか』を読まずとも彼の半生がかなりわかる、という意味でした。
 近藤先生がなぜ医学界の改革者になったのか、を知るにはこの本はおもしろいと思います。現在では『大学病院が患者を殺すとき』というタイトルで文庫本がでています。
Posted by 渡辺容子 at 2010年10月16日 09:47
渡辺容子様

ああ、そういう意味だったのですか! 私の早とちりでした。でも渡辺さんのブログを読むようになってから近藤先生の本は読まなきゃいけないなあ、と思っていたのは事実です。買っておきながらまだ読んでいない本があったりで、実際に買うまでに至っていないのですが(笑)。文庫本は気軽に読めそうですね。
Posted by 松田まゆみ at 2010年10月17日 12:00
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