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鬼蜘蛛の網の片隅から › 外来種 › セイヨウオオマルハナバチの脅威

2010年12月23日

セイヨウオオマルハナバチの脅威

 21日付の北海道新聞夕刊コラム「魚眼図」に、帯広畜産大学の岩佐光啓教授が特定外来生物であるセイヨウオオマルハナバチのことについて書いていました。私が「ついに十勝三股に侵入したセイヨウオオマルハナバチ」で書いたように、今年の夏に雪山国立公園の十勝三股に侵入してしまったのですがが、大変気になったのが、すでに生態系への影響が出てきているとの指摘でした。具体的に二つの事例をあげています。

 一つは、セイヨウオオマルハナバチが多い地域では、エゾエンゴサクが種子をつくる割合が低いことが明らかになっているという指摘です。

 エゾエンゴサクの花には「距(きょ)」という細長い袋状の部分があり、蜜はこの距の奥にあります。下のエゾエンゴサクの花の写真を参照してください。スミレやオダマキなども距を持つ植物です。

セイヨウオオマルハナバチの脅威


 在来のマルハナバチの多くは花の開口部から蜜を吸うために、体に花粉がつき、他のエゾエンゴサクに花粉を運ぶようになっています。ところが、セイヨウオオマルハナバチは口吻が短いために花の開口部から蜜を吸わず、距に穴をあけて蜜を吸うのです。これを盗蜜といいます。ただし、盗蜜をするのはセイヨウオオマルハナバチだけではありません。下の写真はエゾエンゴサクの花の距に穴を開けて盗蜜をしているエゾオオマルハナバチです。エゾエンゴサクのように距が長い花の場合、このように在来のエゾオオマルハナバチも盗蜜をすることがあります。盗蜜をされると花粉を運んでもらえないので、植物にとっては迷惑でしかありません。

セイヨウオオマルハナバチの脅威


 マルハナバチの口吻の長さや形は種によって異なっており、それぞれ好みの花も違います。マルハナバチと花は、長い年月をかけて共に進化してきており、両者はお互いになくてならない共生関係にあるのです。花粉媒介に役立たないセイヨウオオマルハナバチが増えたなら、エゾエンゴサクは結実率が低下してしまいます。エゾエンゴサクが減れば、在来のマルハナバチの吸蜜植物も減ってしまうことになります。このように、セイヨウオオマルハナバチは、植物とマルハナバチの共生関係を崩壊させてしまうのです。今は比較的普通に見られるエゾエンゴサクが、将来は珍しい植物になってしまうかも知れません。

 もう一つは、セイヨウオオマルハナバチが在来のマルハナバチと交尾することで在来種の繁殖阻害をしているという指摘です。DNA鑑定によって、在来のエゾオオマルハナバチ女王の30パーセントが、セイヨウオオマルハナバチの雄によって交尾されていることが分かっているそうです。交雑した場合、卵はふ化しないので在来種の減少につながります。

 すでにセイヨウオオマルハナバチは大雪山の高山帯にも侵入してしまいましたが、今後高山のお花畑でどんどん増えていったなら、高山帯の植生も様変わりしてしまうかも知れません。

 今からセイヨウオオマルハナバチを退治しようとしても、これだけ広がってしまったなら撲滅は不可能でしょう。アライグマのような大きな動物でさえ、いちど野生化してしまえば、駆除は非常に困難です。まして翅を持つ小さな昆虫の駆除は限界があり、ひとたび野生化して分布を広げてしまったら取り返しのつかないことになってしまうのです。

 ハウスでのセイヨウオオマルハナバチの利用に際しては、かねてから生態系への重大な影響が指摘されていました。しかし、速やかに手を打つことをしないままセイヨウオオマルハナバチの分布はどんどん拡大し、かつての懸念は現実のものとなってきました。このままセイヨウオオマルハナバチが増えると在来のマルハナバチが減少し、在来種に花粉媒介を頼っている植物も減っていく可能性が高いでしょう。

 利便性ばかりを重視し、警告を無視して対策を怠った結果です。予防原則がいかに大事かを教えてくれる事例です。


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Posted by 松田まゆみ at 14:33│Comments(0)外来種
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