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鬼蜘蛛の網の片隅から › 政治・社会 › 自殺の賠償金を認めない自衛隊「たちかぜ裁判」の判決

2011年01月27日

自殺の賠償金を認めない自衛隊「たちかぜ裁判」の判決

 「自衛隊のいじめ自殺事件を追求する『たちかぜ裁判』」でお知らせしたように、昨日、「たちかぜ裁判」の判決が横浜地裁であった。私は傍聴していないが、今朝の新聞記事の「海自隊員自殺国に責任 横浜地裁『先輩のいじめ原因』」というタイトルを見て一瞬勝訴かと思った。しかし、被害者遺族が求めていた1億3千万円の賠償金に対し、国と加害者に命じた賠償額はたったの440万円だ。水野邦夫裁判長は「先輩の暴行、恐喝が自殺原因」と認めたが、「上官らが自殺を予見できたとまでは認められない」として、死亡に対する賠償は認めなかったという。なんとも理解不能の判決だが、三宅勝久さんの解説によって、その意味が呑み込めた。

「自殺に追いつめた自衛隊の責任は認めるけどカネは払わなくていいよ」という横浜地裁の不可思議判決

 女性自衛官の人権裁判でも感じたことだが、日本では人権に関する意識がとても低く、損害賠償額が信じがたいほど低い。強姦に近いようなセクハラを受け、それを告発したら嫌がらせをされ、退職に追い込まれる・・・。裁判で闘えば大変な時間と労力、お金が必要だし、精神的な負担ははかりしれない。それなのに、この裁判で認められた損害賠償金額はたった580万円だ。勝訴とはいえ、金額の低さには愕然とした。

 今回の「たちかぜ裁判」は、上司のいじめを苦にした自殺だ。三宅さんも指摘しているが、交通事故による死亡でもこんな低額はありえない。遺失利益といって、その人が生きて働いていたなら得られた収入が損害賠償の対象になるのだ。ところが、今回の判決では自殺したことに対する賠償をまったく認めていない。440万円の慰謝料はいじめによる精神的苦痛と弁護士費用だという。どうしてこんな自衛隊を擁護する判決を出すのだろうと思うが、お上の顔色をうかがった判断なのだろう。

 暴行や恐喝が自殺の原因になったことを認めておきながら、自殺すると予測できなかったという判断はどう考えても矛盾している。こうした暴行や恐喝の被害者はほかにも複数いるし、暴行が行われていたことは多くの隊員が目撃していたのだ。予測できないわけがない。

 「たちかぜ」の加害者はさまざまな暴行を行っているのだが、その中でも特異的なのがガスガン・エアガンによる暴行だ。三宅さんの著書「自衛隊員が死んでいく」によると、ガスガンというのは充填したガスの圧力で樹脂製のBB弾を発射するもので、数メートルの距離からジュースのアルミ缶のアルミ板を貫通するほどの威力を持つそうだ。加害者は至近距離から隊員に連続発砲するという暴行を繰り返していたという。発砲を受けたある被害者は「苦しそうでとても物が言える状況ではなかった」そうだ。とんでもない暴行だ。加害者は数丁のガスガンや電動ガンを持ちこんでおり、「サバイバルゲーム」などと称した撃ち合いゲームもしていたというから、かなりの隊員に知れていたはずだ。船の中でこんな暴行を受けつづけていたなら、それを苦にした自殺が起きるのはまったく不思議ではない。

 いじめによって子どもが自殺するという事件が後を絶たないが、このようなときに学校側がきまって主張するのは、似たような屁理屈だ。まずは「いじめを把握できなかった」といい、次に「予測できなかった」という。しかし、しっかりと調査をすれば、いじめがあったことはすぐにわかるはずだ。いじめと自殺には深い因果関係があるのに、それを認めようとしないでみっともない自己保身をしようとする。そして、時には訴えた遺族が「金欲しさ・・・」などと誹謗されることすらある。

 しかし、いじめそのものやいじめを放置したことの責任をしっかりととり、職場環境が改善されない限り被害者は報われない。真実と責任を明らかにするためには被害者や被害者遺族が損害賠償を求めて訴えるしかない。こういう人権訴訟は被害者や被害者遺族だけのものではない。私たちすべての国民に関わることだ。

 国や大企業などを相手に裁判で闘うということの大変さは、おそらく経験した人でなければ分からないだろう。そうまでしても闘うというのは決してお金欲しさからでのことではない。不都合なことを隠し、責任のがれをする者に対する毅然とした抗いであり、人としての当然の権利の主張だ。

 われわれはこんな人権軽視の国に住んでいるのかと思うと背筋が寒くなる。控訴するというのは当然の判断だろう。


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Posted by 松田まゆみ at 16:47│Comments(0)政治・社会
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