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2011年09月13日

悪質出版商法のトラブル解決と告発に関する私見


 共同出版・自費出版の批判記事を書いている私のところには、ときどき自費出版を考えている方、あるいはトラブルになった方から相談のメールがある。いちばん多いのは、契約前の方からの相談だ。このような方の大半は説明を聞いて適切な判断をされるようだ。

 問題なのは、契約をしてから何だかおかしいと気づいた方たちだ。契約して間もない時期で編集作業などに入っていない場合は、全額返金での解約もそれほど難しいことではない。しかし、本づくりに取り掛かってしまった人や、すでに出版してしまった場合は、そう簡単にはいかない。解約はできても返金となると難しい。

 10年も前のことになるが、私は文芸社とトラブルになり協議の末、全額返金での解約に成功した経験があり、そのことはこのブログでも報じてきた。このために、出版社とトラブルになったら私と同じように全額返金で解約できると思いこんでしまう方もいるようだ。しかし、本づくりに取り掛かってからの全額返金での解約はそんなに簡単なことではない。

 私の場合は、契約時に見積もりの内訳をファックスで送ってもらっていた。そして「おかしい」と気づいたのは、組版に入る直前だった。見積もりでは約76万もの編集費を計上しているのに、編集者からは「完成度が高い」という理由で、ほとんど手直ししないという説明があった。それでびっくり仰天したのだ。さすがに「これはおかしい」と気づき、文芸社とのやりとりを電子メールに切り替えた。ファックスによる費用の内訳と電子メールでのやりとりという証拠がしっかりあったため、文芸社は全額返金による解約を提案せざるを得なかったのだと思っている。

 しかし、契約後にトラブルになる方の多くは、このような証拠がないと思われる。たとえば、面談などで作品を持ちあげて舞い上がらせ、さも売れるかのように期待させたとしても、その営業トークを録音している著者はほとんどいない。「巧みな営業トークによって錯誤した」「騙された」と主張したところで、証拠がなければ、争いになっても勝つのは難しい。

 また、本の制作に入ってしまった場合はそれに応じた経費がかかってしまっている。編集費、校正費、デザイン費、印刷・製本費・・・。だから制作が進んでしまったら、よほど出版社に非があることを証明できない限り、全額返金での解約は難しいのではないかと私は思う。

 私が以前から主張している水増し請求についても、著者は実際にかかった出版費用を知ることができないのだから、証明が極めて困難ということになる。しかし、交渉において突っ込んでみる価値はある。相手が答えられなくなれば、著者にとっては有利だ。

 また、本が売れるかどうかは、実際に売ってみないと誰にも分からない。褒められて高く評価されたから、「自分の本は絶対に売れる」「売れないのは出版社のせいだ」などと思いこんでしまうのは大間違いだ。確実に売れるという保障などどこにもない。冷静に考えれば誰にでも分かることだろう。ところが、人というのは褒めて持ちあげられると、冷静に物事を考えられなくなってしまうものなのだ。言葉巧みな勧誘でマインドコントロールされないよう気をつけなければならない。売れるかどうか賭けてみるのは自由だが、その結果は最終的には著者の責任だろう。

 アマチュアの自費出版本の大半は増刷されることもないまま終わる。著者は、売れなかった場合のリスクをしっかり考えて契約するかどうか判断しなければならない。販売せずに私家本として出版するという選択肢もあるのだ。あとで「売れなかった」「話しが違う」と出版社だけに責任をなすりつけることにはならないだろう。

 出版社を相手に裁判を起こして著者が勝てるかというと、そう簡単にはいかないだろうというのが現時点での私の考えだ。よほどの証拠を揃えていない限り、裁判で闘って全面的に勝利を収めるのは難しいし、出版社だってその点はよく分かっているからこそ、いつまでも悪質な商法を止めようとしないのだ。たとえ、出版社側に一方的に有利になっている契約書であっても、それ自体が違法ということにはならない。

 しかし、著者に泣き寝入りをしろというつもりも毛頭ない。「おかしい」と思った時点で電子メールなど証拠が残る形できっちりと交渉することで、全額返金は無理だとしても一部返金で解約できることもあるだろう。特に、まだ印刷に入っていないような場合は、それができる可能性は高い。消費者センターなどが交渉の仲介をしてくれる場合もある。メリットばかり強調され不利益なことについて一切説明がなかった、お金がないので断ったらクレジットを勧められて断れなかった、などという場合は、きっちりと交渉するほうがいい。交渉によって解約できることもあるし、クレジットの場合は支払い停止抗弁が効く場合もある。

 ただし、その場合は出版社からトラブルの経緯や解約の条件について口止めされると思ったほうがいい。こういうやり方は個人的には合点がいかないが、それが現実だ。

 もちろん、著者は調停や裁判に訴える権利がある。しかし、法的手段に訴える場合は気力も時間もお金も必要だ。出版社側はまず弁護士を代理人に立てるから、アマチュアの著者が本人訴訟で闘うのも難しい。だから、よほどしっかりした証拠がない限り、裁判は慎重になったほうがいいと思う。そのあたりは十分に検討して後悔のない方法を選んで欲しい。

 もう一つ、インターネットでの告発についても触れておきたい。

 悪質な出版社とトラブルになると、その事実をブログなどで告発したいと思うのは当然の心情だ。しかし、悪質な商法をやっている会社ほど、自社のインターネット上の評判には敏感になっているものだ。時として、ブログ記事を削除しろと著者に要求してさらなるトラブルに発展することもあり得る。

 どうしても告発したいという方は、まず「削除要請がくるかもしれない」という覚悟をもったうえで書いて欲しいと思う。そして、証拠に基づいて事実を書くということが肝要だ。もちろん、罵詈雑言は避けなければならないし、社員の実名なども出すべきではない。告発は、出版を考えている人に注意喚起したり悪質会社に警鐘を鳴らすためにもとても意味のあることだが、書かれた側も黙っていないというのが常だ。そのことを十分に認識してほしい。

 また、たとえ公共の利益を目的に事実を書いたとしても、書かれた側は「事実ではなく名誉毀損だ」と主張して削除要請してくることもありうる。だからこそ、証拠を示せることが大事なのだ。また、証拠があるからといって削除要請を受けないとは限らない。証拠があっても「法的手段をとる」などと言ってくることもありうるので、脅しと判断される場合は開き直るくらいの覚悟がほしい。

 ブログ運営会社に削除要請がなされた場合は、会社の対応も様々だ。勝手に削除してしまう会社もあれば、基本的に当事者同士に解決を委ねる方針の会社もある。告発者はそういうことも頭に入れ、圧力に強そうなブログ運営会社を選ぶということも考えておいたほうがよさそうだ。

 また、告発をすると、同じ出版社から本を出した著者などから非難されることもありうる。自分の本の版元の悪評など聞きたくないという気持ちもわからなくはない。自分も半ば騙されたなどとは誰も思いたくはないものだ。しかし私は、事実は事実として受け止める必要もあると思っている。知りたくないと耳を塞いでしまうことは、悪事をはびこらせ被害者を増やすことにも繋がる。告発者を非難するのはお門違いだろう。これは原発事故にも言えることだ。放射能汚染について情報収集をして実態を知ったうえで、自分で判断し行動するしか自分や家族を守る術はない。それなのに情報発信して注意喚起している人に食って掛かる人もいる。恥ずかしいことだ。

 トラブルを極力避けたい場合は、出版社名を伏せて匿名やペンネームで告発するという方法もあるだろう。出版社名がはっきり分からなくても、注意喚起にはなる。消費者庁などに報告するということも是非やってほしい。「塵も積もれば山となる」で、苦情が多ければ公の機関が何らかの対策に乗り出すこともあり得るからだ。

 ちなみに、文芸社の元社員である「クンちゃん」のブログもgooから削除要請を受けた。どうやら文芸社がgooに対して削除要請をしたらしい。以下参照。

gooさまに公開しつも~ん(と、素早い愚答)!

 gooの説明はまったく意味不明で支離滅裂だ。こんな回答しか出せないところをみると、gooは圧力をかけられているのではないかと思えてならない。

 なお、名誉毀損については「クンちゃん」の以下の記事がとても参考になる。

非緊急速報・文芸社、クンちゃんブログ削除をgooに要求!クンちゃん屈服の気配!?②


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Posted by 松田まゆみ at 12:01│Comments(10)共同出版・自費出版
この記事へのコメント
古い。
Posted by 私見 at 2011年09月16日 23:23
古い! 確かに。

ところが、版元・著者いずれを見ても、人は変われど実情は変わらず。
それが問題。
Posted by クンちゃん at 2011年09月21日 10:22
クン様

私の事例に関しては確かに古いですし、あのあと文芸社もいろいろ変わりました。契約書の文言も、クレームへの対応の仕方も。

でも、おっしゃる通り、実情はほとんど変わっていません。基本的な契約形態も変わっていないし、書店販売を謳ったあたかも騙すような勧誘も。そして、販売に期待する著者も。細かいところは変わっても、基本は何も変わっていないので今でもトラブルが絶えないのです。

だから、この問題自体はちっとも古いとは思っていません。
Posted by 松田まゆみ at 2011年09月21日 11:18
松田様は契約に満足している利用者を無視しておりませんか?過去の体験からお気持ちは察しますが、不満を抱く利用者が大半ならばどんなビジネスも成り立たないでしょう。不特定多数の方が閲覧できる場ですから私見にも責任が発生すると思います。契約を不満に思い相談にいらっしゃる方はどのくらいいるのでしょうか?
Posted by 私見 at 2011年09月28日 23:00
あなたは業界関係者の方とお見受けしますが、何を言いたいのですか?

以下の記事の「Posted by トーハン at 2011年08月31日 17:20」のコメントにあるように、勘違いしている著者が大半だと私は思っています。契約形態をよく理解できていないからこそ被害者意識がなく満足している著者もいるわけで、そのこと自体が問題なわけです。

http://onigumo.kitaguni.tv/e391395.html

作品を褒めておだてて著者を舞い上がらせ、著者のリスクもきちんと説明せずに契約させるのならほとんど騙しではありませんか。しかも業者は請求費用の正当性も説明できない。満足している著者が多いとか少ないという問題ではありません。
Posted by 松田まゆみ at 2011年09月28日 23:52
 満足している顧客が大半だからといって、その業態がまともで、事業者が正心誠意だか誠心誠意だか、でやっているとはにわかに判断出来ないよねえ。
 なんたって、例の豊田商事のときは破たんするまでは百パーセントの満足度だったっぺよ!

 問題は契約に満足している著者が、契約の内容と世間相場というものを比較してちゃんと認識していたかどうかという点だと思いますよ。
 それをきちんと認識して(認識するにはそれに見合った契約担当者の説明というものが必要になるわけですが)、その結果、
 えらく費用が高いなあ、と思ったが、それで良いと思った、こんな程度のつくりだろうなあと思っていたので大満足、売れないけど本屋に並んだ大大満足、
 というならそれはそれで結構ですよね。しっかし、実態はそれとは程遠いから問題があるというわけです。

 それにしても、「私見」さんはなんで、満足している著者が多いという見かけの実態(これは実相ですが)を知ってるんや? 業界関係のお方なんだろうけど、やはり実際の姿というものを見る必要があるんじゃないかねえ。
Posted by クンちゃん at 2011年09月29日 01:19
人の買物に高い安いと言えますか?利用者によって価値観は違います。どんな商品でも買物は自己責任です。今の日本人は自分の失敗を受け入れられない人や責任から逃げて他人のせいにする人ばかりだと私は感じています。
Posted by 私見 at 2011年10月28日 23:45
私見様

あなたは私の主張をまったく理解していません。私が批判している印税タイプの出版形態は、あなたの言うような出版サービスの契約ではありません。それをあたかもサービスの契約であるように装い、錯誤させるような甘い勧誘をすることを批判しているのです。

サービスの契約ではなく出版社の出版事業に著者が全面的に出資協力する契約であることをしっかり理解し、本が売れない可能性が高いことも十分認識し、請求費用が原価以上であるという矛盾を矛盾とも思わず契約されるのはご自由です。しかし、出版社がそのように理解できるような説明を著者にせず、錯誤させるところが問題なのです。

あなたの主張は騙すものを許し、騙されるものを批判するというものです。悪質出版社の関係者としか思えません。
Posted by 松田まゆみ at 2011年10月29日 09:58
私見様

文芸社の印税タイプの出版形態では、著者の本は、出版社(文芸社)の資産なのですよ。著者の本は、煮て食おうが焼いて食おうが、捨てようが文芸社の自由なのですよ。

全ての商売の基本はギブ&テークです。

100円払ってバナナ一本買う。

25万円払ってパソコン一台買う。

100万円払って車一台買う。

これが商取引の基本です。

どこの世界に200万円払って、自分の書いた本、という資産を出版社(文芸社)に差し上げるバカがいますか。文芸社は金を払って資産を差し上げることを、製作請負の商売のように装っているのですよ。これを詐欺と言わずして何を詐欺というのですか。
Posted by α=ピーマン頭 at 2011年11月02日 00:00
私見様。

「人の買物に高い安いと言えますか?利用者によって価値観は違います。どんな商品でも買物は自己責任です。」(あなたの発言)

全然わかってないな。「買い物」じゃないんだよ。「買い物」じゃなくて「契約」なんだよ。「200万円などという大金を出版社に差し上げて、その上、どうぞ文芸社の好きなように扱って下さい。と苦労して書いた本を差し上げるという世にも狂った契約」なんだよ。それを出版事情に詳しくない素人に、あたかも「買い物」のような感覚のように宣伝しているんだよ。もちろん出版社は、そのことをわかっている。だから意図的なだまし、なんだよ。それが証拠に、あなただって「買い物」と認識しているじゃないの。見事にだまされているじゃないの。
Posted by α=ピーマン頭 at 2011年11月02日 03:40
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