福島第一原発で何が起きたのか
ドイツの「『希望的観測』のほかなにもない原子力」というテレビ番組がYoutubeで3回に分けてアップされている。それについて印象に残ったことと感想を書いてみたい。
ドイツWDR「希望的観測」のほかなにもない原子力Part1
東電は概して、独立中立の学者やジャーナリストを原発の敷地内に入れたくないと思っています。彼らはどうやら、情報が管理できなくなり漏れてしまうことを恐れているようです。
これはナレーターの発言だが、東電は事故について重要なことを隠しているに違いない。本来なら広く情報知らせて事故処理のための叡智を結集させるべきなのに、あくまでも隠し通そうとしているのだ。こんな無責任企業が事故処理を担っているのが恐ろしい。
3.11の地震のとき材料検査のサポートのため4号機の建屋にいたドイツ人の証言は、津波の凄まじさが伝わってくる。津波の前に海水が引いて港の水がなくなったというのだから、その時点で冷却水の取水もできなくなっただろう。
奇妙だったのは、海が完全にひいてしまっていたことでした。それも、数メートルなどというレベルではない。見渡す限り、海の水が後ろに消えていったのです。
港全体の底が見えていました。
信じられない量の水があっという間にものすごい圧力と共に訪れました。
8分15秒くらいで足が汚染水に浸かった作業員の映像が出てくるが、こんな酷い状態であったことは日本のメディアはまったく報じていなかった。この方はその後どうなったのだろう。
チェルノブイリの事故と福島の事故の共通点は「情報がなかなか出てこない」ということ。チェルノブイリの清掃作業についての詳細は、ソビエト連邦が崩壊してからやっと公開されたそうだ。日本でも同じ道をたどるに違いない。
最後のほうでは福一でロボットの操作をしていたSH氏のブログでの報告が紹介されている。「言いたい放題やりたい放題」というブログだ。今はこのブログは存在しないようで、ミラーブログがある。SH氏が情報を出し過ぎたため圧力でもかけられたのだろうか?
福島第一原子力発電慮におけるロボットオペレーターの手記(ミラーブログ)
番組では津波によって電源を消失したことが事故の原因であるかのような説明をしているのだが、田中三彦さんは事故の少し後から東電のデータを解析し地震で配管が破損した可能性が高いと主張していた。地震によって冷却剤喪失事故が起こったことはもはや疑う余地はないのではないか。ドイツには地震で壊れたという情報は伝わっていないのだろうか?
ドイツWDR「希望的観測」のほかなにもない原子力Part2
Part2では、瓦礫撤去や冷却水の循環システムの構築、1号機のカバーリングなどについて説明している。この作業には何と4万人の作業員が必要だったそうだ。カバーリングによって外に放出される放射性物質は抑えられるが、東電が情報を出さないのだから、中の様子はますます分からなくなるだろう。
福一の瓦礫の撤去の様子や保管の状況はこの番組で初めて見た。東電は溶融した燃料を取り出すと言っているようだが、現時点ではそのような技術は確立していない。ならばはっきりそう言うべきだろう。以下参照。
フクイチ 溶融燃料取り出し「直接適用できるテクノロジー、存在せず」世界的は廃炉ビジネス・リーダーのES社の社長が明言(机の上の空 大沼安史の個人新聞)
福島の事故の放射能汚染については、世界の80カ所にある放射能測定所のネットワークがとても役に立ったという。ノルウェーの高層気象学研究所では放射能雲の拡散の予報を行った。気象学者のアンドレアス・シュトール氏は、ある独立した国際組織が設置したウィーンの計測器のデータをもとに福島の事故を再現した。事故が起こってから3日間は放射能雲が太平洋に向かって流れたが、4日目に低気圧が発生して内陸に向かって風が吹き、ちょうどそのとき大量の放射性物質が放出された。9日目には放射能雲が首都圏にも及んだという。
チェルノブイリと福島を比較すると、福島ではチェルノブイリの約半分の量のセシウム137が放出されたことがわかったとのこと。チェルノブイリでは放出されたセシウムは陸地を汚染したが、福島では79%のセシウムが海に落ち、19%が日本の陸地を襲い、2%がアメリカ大陸など他の大陸に落ちたという。
フクイチからの放射性物質の拡散シミュレーションには以下のものもある。おおよその拡散の様子がわかるだろう。
チェルノブイリと比べると福島では陸地の汚染地域は小さいのだが、しかし人口の多さや首都圏にまでホットパーティクルが飛散したこと、今も事故が収束していないことなどを考えると放出量だけを単純に比較するのは不適切だろう。
番組では避難区域よりさらに外側の汚染された地域(赤い色で表示)では穀物をつくることが許可されないと言っているが、実際には耕作は禁止されてはいない。これは恐るべきことだ。
東電の今後予定は次のようだという。原子炉建屋にカバーをつけ、2年ほどかけて建屋の上の部分から瓦礫を撤去する。そのあと2年ほどかけ燃料プールの破損していない燃料棒を取り出す。そのあと建屋の除染を行い、圧力容器の破損箇所を密閉し、10年後に圧力容器を水で満たす。このあと遠隔操作により水中で破損した燃料を取り出す。この作業が終わるのが25年後。さらに10~15年で原発を解体撤去し放射性廃棄物を処分する。
東電は理想を語っているだけのようにしか思えない。福島では非常に困難な廃炉作業が何十年も続くのだ。同じような事故が再び起これば、この国は終わりだろう。
ドイツWDR「希望的観測」のほかなにもない原子力Part3
ナレーターは、日本人はこれから放射能による健康被害という不安を抱えて生きることを強いられるとしながら、日本人の自制心や落ちつきに関しては「奇異に映るほど」と言っている。原子力ムラの人たちとメディアによる情報操作・情報隠蔽により放射能の怖さが知らされていないこと、健康被害はすぐに生じないこと、政府が避難を補償せず簡単に避難できない人が多いことなどが「落ちついて見える」理由だろう。協調性を大事にする国民性も関係しているかもしれない。
現在、世界中で435気の原発が稼働しており、そのほとんどは米国、ヨーロッパ、ロシアにある。すでに原発のある国ではさらに新しい原発を計画中で中国では26基もの原発が建設中だとのこと。さらに17カ国が原子力エネルギーに乗り出そうとしている。チェルノブイリや福島という大事故を目の当たりにしながら、多くの国は何も学んでいないのだ。
ただし、スウェーデンとスペインは福島の事故が起こる前に新しい原発をつくらないと決めており、スイスとベルギーは福島の事故が起きてから、原発からの撤退を決めた。ドイツは福島の事故が起きたとき17期の原発が稼働していたが、4日後に8基が停止されたそうだ。
地震の頻発する事故の当事国ですら事故を受けて停止したのは浜岡原発だけ。それ以外は定期点検で停止したのだから、意識の違いがはっきりと表れている。
最後は原発のゴミ、核廃棄物についての問題提起。世界で発電される電気の14%を原子力が担っているという。かつて核廃棄物をドラム缶に入れて海に投棄していたことは知っていたが、大西洋だけで250本ものドラム缶を投機してきたそうだ。そして核廃棄物の海洋投棄がよくないと認められるまで20年かかったという。グリーンピースが海洋投棄に反対し、1993年に全面禁止になるまで20年かかったそうだ。
1993年といえばほんの20年前だ。そんな最近まで海洋投棄していたのかと思うとゾッとする。今は行き場のないまま、核廃棄物は世界各国の中間貯蔵施設に溜まり続けている。最後のナレーターの言葉を私たちは重く受け止めなければならない。
原子力エネルギーは、その当初からもともと希望、という原則で進められてきたのである。原子力エネルギーの利用が始まって60年。世界に430基もの原発が稼働しているが、それらが出す放射性廃棄物の最終処分所は、まだ世界のどこにもないのだ。
私には「希望という原則」というより「お金という欲」に支配されて進められてきたように思える。人間がこういう欲を捨てなければ地球に未来はないのではないか。
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