内部被曝・低線量被曝のもたらす健康被害

松田まゆみ

2012年09月24日 22:11

 昨日は西尾正道さん(北海道がんセンター院長)の講演会「放射線健康被害の真実と今後の対応」(泊原発の廃炉をめざす会十勝連絡会主催)に行った。2時間にわたる非常に内容の濃い話しだった。

 放射線についての基礎知識から、がんの発生のメカニズム、放射線の人体への影響、チェルノブイリの原発事故・原爆・劣化ウラン弾による被害、安全神話を生みだした原子力政策の構造まで、実に幅広い内容が要領よくまとめられていた。内部被曝に関しては、基本的には矢ヶ崎克馬氏の主張を支持した内容だった。インターネットなどの情報で知っていたことが多かったが、こうして問題点が羅列されると原子力を推進する人たちがいかに不都合な真実を隠してきたのかが一目瞭然で、今さらながら恐ろしさを感じる。

 西尾氏は長年にわたって放射線によるがん治療を手掛けてきた方だが、それだけに放射線の人体への影響についての話しは説得力がある。

 盛りだくさんの話しから、印象に残ったことの一部をひろってみたい。

・広島の原爆に関するABCC(放影研)の疫学研究では、爆心地から2キロメートル以内(このラインが100ミリシーベルト)の人たちだけの調査を行い、2キロメートルより外側の人たちを調査対象としなかった。このために、100ミリシーベルト以下の地域での調査がなされていない。しかし2キロメートル以内の約8000人は被曝者の4パーセントにすぎない。100ミリシーベルトでは発癌のリスクがないといわれているが、これはそもそもデータをとっていなかっただけ。

・原子力を推進するために内部被ばくを研究させない体制がつくられ、内部被曝が徹底的に隠されてきた。

・医療機関にある放射線管理区域は毎時0.6マイクロシーベルトで18歳未満の作業を禁止し、飲食も禁止されている。しかし福島の20ミリシーベルト/年は毎時に換算すると2.28マイクロシーベルトになり、放射線管理区の3.8倍もある。こういうところに子どもたちが生活し、飲食もしているという恐るべき状況にある。

・国際法では原発からの排水基準は90ベクレル/キログラムである。しかし原発事故後に定められた食品の暫定基準値では飲料水は200ベクレルとなっており、これは原発からの排水より高い。

・1993年にソ連の原子力潜水艦が日本海に放射性廃棄物を日本海に投棄したことで、日本海の海底土は7ベクレル/キログラム汚染された。しかし、福島原発事故では30キロメートル圏外の海底土で8000ベクレル/キログラムの汚染。

・日本の避難基準はチェルノブイリの4倍高い。年20ミリシーベルトは、チェルノブイリでは強制避難ゾーン。

 原爆を体験した国でありながら低線量被曝の実態は徹底的に隠されてきた。そして福島第一原発の事故で日本政府は福島の人たちに対して旧ソ連より酷い対応をしているのだ。

 この日の夜はNHKのETV特集で、ウクライナの健康被害に関する番組があった。内容については以下を参照していただきたい。

【注目番組】『シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第2回 ウクライナは訴える」』 (暗黒夜考~崩壊しつつある日本を考える~)

20120923♯ETV特集 シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第2回 ウクライナは訴える」 (togetter)

 チェルノブイリ事故から26年が経った今になって、低線量の被ばくをしたウクライナの人たちにさまざまな健康被害が生じている。子どもたちの健康状態も深刻で、体育の授業もできないという。原発事故のあとに生まれた子どもたちが、今になっても健康被害に苦しんでいるのだ。また大人にも健康被害が生じ、人々は不安な生活を強いられている。事故当時の被ばく量が低かった人ほど、影響があとになってから出てきているようだ。

 もちろん、現時点で福島がチェルノブイリと同じようになるとは言えない。しかし、低線量被曝の影響が事故から26年経った今でもじわじわと続いていることは見逃せない事実だろう。内部被曝の恐ろしさを実感させる番組だった。

 高濃度汚染地域を除染して住民を戻そうなどという日本政府は、チェルノブイリ事故の教訓を活かすどころか旧ソ連以下の対応だ。ほんとうに恥ずべき国だとつくづく思う。

【9月26日追記】
西尾正道氏の講演がYouTubeにアップされた。時間のある方はご覧いただきたい。
http://youtu.be/iEZcFcddcyo

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