尋常ならざる福島の甲状腺がん発症率をどう見るか

松田まゆみ

2013年04月24日 11:42

 「ぬまゆ」さんのブログ閉鎖について書いたところ、福島県民を名乗る方などから、配慮がないなどという批判が相次いだ。このような批判をする方たちにとっては、福島の汚染が危険であるということをブログで書くこと自体が悪であるようだ。ならば、たとえ嘘をついてでも「福島はそれほど危険ではない」「普通に住める」と言うべきなのか?

 そんなことは、どう考えてもおかしい。私たちは物事を判断する際に、何よりも事実を知ろうとする。事実を知らなければ適切な判断ができないからだ。福島が危険であるかないかを知るためにも、まず事実を把握しなければならない。

 山下俊一氏をはじめとした原子力ムラの人たちが本当に事実を踏まえて「福島で生活しても大丈夫」と言っているならまだ分かるが、そうではないことはここで改めて言うまでもない。

 事実が厳しい状態であれば、もちろん福島をはじめとした汚染地域の住民に大きな不安を与えるのは事実だ。しかし、不安を与えないために事実を言わないということがまかり通ってしまえばどうなるのか。福島県民は見捨てられてモルモットにされるし、加害者は責任を免れるだけだ。それが福島の人たちのためになるとはとても思えないし、むしろ逆だ。

 原発は反対だとしながらも、福島の汚染は心配するほどではないと主張する人たちもいる。反原発の人たちは、反原発運動のためにことさらに危険を訴えて不安を煽っているという人もいる。しかし、本当にそうだろうか? 長年自然保護に関わってきた私の目から見れば、反原発運動のために意図的に不安を煽っているというのはあまりに偏った見方としか思えない。

 福島の原発事故が人災である以上、加害者が存在する。人災による被害を減らすためにも、また同じような災害を二度と起こさないためにも、決して事実に目をつむっていてはならない。それがたとえ福島の人たちにとって不安を招くことであっても、「配慮」を理由に沈黙してはならないと私は思う。

 もっとも、いくら私がそんなことを言っても、福島が安全であると信じたい人は「嘘ばかり書く」「他人の痛みが分からない」と罵るだけだろう。

 福島が安全ではないことは、子どもたちの甲状腺検査ひとつとっても明らかだ。のう胞はともかく、結節はがんに移行する可能性があるし、チェルノブイリでは子どもの甲状腺がん患者のうち6人に1人が肺に転移しているという。チェルノブイリと福島ではすべて同じとは言えないだろうが、転移の可能性は無視できない。しかも、福島では2011年より2012年の検査の方が、二次検査を必要とするB判定が増えている。

「菅谷昭医師×落合恵子さんの対談」と山下俊一氏の発表(中村隆市ブログ「風の便り」)

 また、福島の甲状腺がんの発症率は3800人に1人ということになり、通常の発症率(100万人に1人か2人)の約130~260倍にもなる。以下の論考も是非読んでいただきたい。とても楽観視していられる状況ではない。

『長寿命人工放射性物質による長期低線量被曝と非がん疾患~27年目のチェルノブイリは福島の未来の鏡~Part2』 (市民のためのがん治療の会)

 また、以下もお読みいただけたらと思う。

奴は知っている 山下俊一発言>小児甲状腺癌『数mmの結節』でみつけても、すでに局所のリンパ節に転移ある(原発問題)

 「福島はそれほど危険ではない」などと言っている科学者の責任は極めて大きい。早野龍五氏らのホールボディカウンターによる検査では15歳以下の子どもでは検出限界以上の内部被ばくが確認されなかったという。

福島県内の子どもの内部被ばく検出人数はゼロ 国内から初、食事による内部被ばく影響論文(週刊ダイヤモンド)

 これを受けて、「福島は安全」と信じ込んでしまった人が多いように感じられる。しかし、本当にそうなのか? 以下のサイトが早野論文の問題点について分かりやすくまとめているが、決して安心していいような状況ではない。

早野龍五「内部被ばくはなかった」大報道について(安禅不必須山水)

 安斎育郎氏なども「自分が福島県民なら避難しない」などと新聞で発言していたが、軽率な発言と言わざるを得ない。今はそう思っても、後になって実際の放出量は当初の発表よりずっと多かったなどという知見が得られたら、認識や判断が変わることだってあるだろう。しかしその時になって発言を取り消しても遅い。科学者の発言は一般の市民に大きな影響を与えるのであり、くれぐれも慎重であってほしい。



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