売れない自費出版本

松田まゆみ

2009年07月28日 14:06

 昨年、二人の知人から自費出版の本をいただきました。お一人は元大学教授で、地球温暖化についての問題点を一冊の本としてまとめたものです。地球温暖化についてはデータなどが年々新しくなりますし、はじめから売れないことを前提にして流通は考えず、原稿や図をパソコン入力して印刷・製本したとのことです。資料集としていろいろ参考になる本です。

 もうひとりは現役の大学の先生で、新聞のコラムに書いたエッセイを一冊の本としてまとめたものです。500部作製し、ISBNコードも取得して見かけは商業出版の本なのか自費出版なのかまったくわかりません。一部の書店に置かれているそうですが、ほとんど売れないとのことでした。内容はとても興味深く楽しく読めるものなのですが、500部を捌くのも大変なことなのです。

 また別の元大学教授で、画文集を何冊も自費出版されている方がいます。はじめから売るつもりはなく、パソコンで版下をつくって印刷所で印刷・製本してもらうのです。商業出版の本も書かれていますが、画文集はあくまでも自費出版です。

 大学の先生といえば一般の方よりはるかに知名度は高いでしょうし専門家です。それでも、著書は簡単には売れないのです。商業出版社から出版の依頼がなければ自費出版を選択することになります。でも、多くは売れません。

 本が売れるというのは、なんらかの形で話題になり広まることが必要です。たとえば、書店員が興味をそそるポップを書いたことがきっかけでその書店で話題になるとか、新聞や雑誌の書評で取り上げられるとか、ネットなどで話題になるとか・・・。次から次へ本が出版されている中で、何らかのきっかけがない限り、いくら内容がよくても簡単に売れるものではありません。

 商業出版の場合は単価を安くするために少なくとも3000部程度は刷るというのが普通でした。でも最近では初版が2000部程度の本もあるようです。沢山刷って在庫の山を築いたあげく断裁するより、はじめから少なめに刷ることを選択するのでしょう。それほど出版業界は厳しくなってきているといえます。専門書などでは500部程度しか刷らないという場合もあります。もちろん本の単価は高くなりますが、高くてもその本が必要な人は買いますから、刷り過ぎで在庫を抱えるよりもいいのです。

 そんな状況であるにも関わらず、新聞や雑誌で原稿を募集し、あちこちで出版説明会を開催し、アマチュアの著者に多額の費用負担を提示して書店販売・流通を前提とした出版を勧める出版社がいまだにありますし、相変わらず怪しげな共同出版を謳っている出版社もあります。ネット書店等での流通を謳う自費出版社もあります。でも、多くの本が売れずに断裁されているのが実態ではないでしょうか。過剰に作るというのは、資源の無駄そのもの。

 出版社側から一方的に販売前提の出版を勧められ、高額な費用を請求されたら要注意です。アマチュアの本が売れないことはこれまでも何度も書きましたが、本を出版したいと考えている方はこのことをしっかりと肝に銘じ、出版社の甘い言葉に惑わされないことが大切です。

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