水棺(冠水)というパフォーマンス

松田まゆみ

2011年05月13日 22:58


 4日ほど調査で出かけていたのだが、帰りの車のNHKラジオのニュースで1号機のメルトダウンのことを知った。すでに燃料は全露出していて全部溶け落ちているというのだ。これはメルトダウンなのに、アナウンサーはなぜかメルトダウンとは言わない。ついでに、圧力容器の温度がそれほど高くないから、燃料はある程度冷却できている、という安心に結び付くコメントを必ず入れる。少し前には、1号機の燃料は70パーセントが溶融としていたのを55パーセントへと変更したが、これらの推測は何だったのだろう。こういう恐るべきニュースを、アナウンサーが大したニュースではないかのようにさりげなく語ることの方が怖い。

 東電は恐らく、圧力容器に水がほとんど溜まっていないなどということは以前から分かっていたのだろう。建屋の中に入って水位計を調整したことで水が溜まっていないことが分かったというが、ならば2号機や3号機の水位計だって全く当てにならない。これまでずっと、水位計が壊れている可能性の高いことを察知しながら、あたかも健全であるがごとくとぼけて意味のない水位を知らせ続けていたのだ。

 こうなると、温度計や圧力計の値も本当なのかと疑いたくなる。いずれにしても、東電の発表などとことん信用できないということが明らかになった。いつまでこういった隠蔽や情報操作を続けるつもりだろうか。

 東電は、溶融した燃料はまだ圧力容器の底にある可能性が高いと言っているようだが、小出裕章さんの見方は違う。

5月12日メルトダウンだが最悪シナリオ回避 小出裕章(小出裕章(京大助教)非公式まとめ)

 小出さんは、すでに圧力容器から格納容器の底に流れ落ちているだろうと推測している。そして、燃料が格納容器に落ちているなら、爆発しなかったので最悪の事態は避けられていると語っている。ただし、今後の冷却状況によっては格納容器の底が抜ける可能性もあるようだ。メルトダウンして格納容器の底が抜ける可能性については、以前、後藤政志さんも指摘していた。

 1号機は2号機や3号機よりも状態がマシだと言われていたのだ。その1号機ですら水がほとんど溜まっていないようだから、2号機や3号機とて状況はあまり変わらないのではないだろうか。すでにメルトダウンしている可能性も高いだろう。とにかく、格納容器の中が見られないし、計器類は壊れている可能性も高いのだから、実際にはどうなっていて今後どうなるのかまったくわからない。たとえ爆発的なことが起こらなくても、格納容器の底に穴が開いたなら、大量の放射性物質が漏れ出すことになる。

 さらに、3号機と4号機の燃料プールの問題もある。3号機はかなり損傷が激しいらしいのだが、東電はその実態を明らかにしない。

政府が非公開にした福島第一原発3号機の惨状写真極秘入手(NEWSポストセブン)

 3号機も4号機も燃料プールが破損していると思われるのだが、建屋が大破してむき出しになっている燃料プールで燃料棒が露出するようなことになれば、大変なことになるのは目に見えている。まだまだ安心していられる状況ではない。

 私は1号機の水棺などはじめから無理だろうと思っていたが、今回の発表でそれは確実となった。水棺などというのは結局「努力している」という姿勢を見せ、安心させるためのパフォーマンスに過ぎなかったということだろう。

 冷却水の循環システム設置は諦めていないようだが、圧力容器と格納容器に水がほとんど溜まらないのなら、いったいどうやって水を循環させるというのだろう? 建屋の地下に漏れて溜まった汚染水を格納容器に戻すなら、漏れ出す汚染水の濃度はどんどん上がっていって建屋には近寄れなくなるだろうし、汚染水を浄化して格納容器に戻すというシステムをつくるのは、容易なことではないだろう。現に、原子炉建屋の地下は放射線濃度が高くて入れないのだ。

 東電と政府の嘘が明るみになる度に、収束への道筋は遠のいていくようだ。大気中にも地下にも海にも放射性物質が垂れ流され続けているが、それがいつ収まるのか全くわからない。事実をきちんと語らない東電の説明は、国民が自ら状況を判断するための参考になるどころか、その逆だ。

 WSPEEDIの情報の一部がようやく公開されたそうだ。拡散予測と実際の汚染は同じではないが、爆発によって関東地方もかなり汚染された可能性がある。事前に公表していれば、多くの人が外出を控えたりマスクをするなどして被ばくを軽減できたのではなかろうか。スーパーコンピューターに高額な税金を投じておきながら、パニックを理由に予測を公表しないこの国は、完全に国民をないがしろにしている。

文科省ようやくWSPEEDI予測値(広域汚染状況)の一部を公表:東京もチェルノブイリ第三区分入りが濃厚に(中鬼と大鬼のふたりごと)

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