広島地裁が受益者賦課金の市による肩代わりを違法と認定

松田まゆみ

2012年03月23日 17:20

 緑資源幹線林道(大規模林道)の建設では、民有林所有者などが受益に応じて事業主体の緑資源機構(すでに廃止され、独立行政法人森林総合研究所が引き継いだ)に賦課金(受益者負担)を支払ってきた。受益者が支払う賦課金は事業費の5%と金利だ。

 受益者賦課金である以上、受益者が支払うというのが当たり前だ。ところが、広島の細見谷渓畔林を通る林道では、受益者である地元の森林組合が払うべき賦課金を、市が肩代わりして全額を支払っていた。これが違法であるとして、地元住民らが賦課金の返還を求める住民訴訟を広島地裁に起こしていたのだが、その判決が21日にあった。

 裁判長は、林道事業に公益性があっても、営利団体の組合に補助金を交付する必要性はないと指摘し、市による肩代わりを違法と認定した。ただし、返還については、市長らが違法性を認識するのは困難だったとして認めなかった。

 違法性が認められたのは実質勝訴だし、非常に大きな意味がある。原告らが賠償を求めたのは2008年と2009年の支出合計約426万円なのだが、それ以前の支出も含めると、市は林新組合に2840万円も支払っていたのだ。もちろん税金だ。

 本来、受益者が支払うべき受益者負担を自治体が支払っている事例は全国にある。それらを合わせたらすごい金額になるだろう。このブログでも指摘している「国営かんがい排水事業」も同じで、受益者負担は事業費の5%とされている。ところが、実際には受益農家は負担せずに地元の市町村がそれを支払っているのが実態なのだ。

 受益者に負担をさせたなら、「うちは事業に同意しません」という農家がまず間違いなく出てくる。実は、農家はそれほど事業を望んでいないことが多いのだ。しかし、農家が同意しなければ事業は進められない。そのために受益者負担を市町村が肩代わりするということが慣例になっている。

 たとえば十勝地方の美生地区の国営かんがい排水事業では、立派なダムをつくったのにかんがい用水としてほとんど利用されていない。農家は農薬の希釈や農機具の洗浄、家畜の飲み水など、かんがい以外のことに使っているという。目的外使用であり、本来は認められないことだ。要するに、必要もないかんがい事業だったのだ。

 「美蔓地区国営かんがい排水事業」では、「かんがい事業」の受益地のおよそ半分は牧草地だ。牧草といえば乾燥地帯の植物であり、灌水など必要ない。もし農家が受益者負担を支払わなければならないという条件であれば、まず事業に同意しないだろう。タダだから同意している人が大勢いるはずだ。この事業によって、ナキウサギやシマフクロウの生息地への悪影響が懸念されている。

 「富秋地区国営かんがい排水事業」では、排水事業によって国民のための食料の増産をするのが目的だと事業者は説明をした。事業の効果によって利益を得るのは農家なのだから農家が受益者負担を支払うのが当然なのだが、これも市町村が肩代わりする。こんなおかしなことはない。農家が負担するのであれば、事業に同意しないのではないかと疑わざるを得ない。

 地元自治体による賦課金の肩代わりは、不必要な公共事業を推進するために行われているといっても過言ではない。私は「美蔓地区国営かんがい排水事業」の事業者に対しても、「富秋地区国営かんがい排水事業」の事業者に対しても(ともに帯広開発建設部)、受益者負担の自治体肩代わりは違法ではないかと指摘してきたが、彼らは知らん顔をしてきた。

 このような受益者負担の肩代わりを行っている市町村の住民は、どんどん監査請求をすべきだ。違法判決が出された以上、市町村も今後の支出に関しては見直しをしなければならないはずだ。

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