美談にしてはいけない、えりも岬の緑化事業

松田まゆみ

2008年09月01日 11:38

 昨日はえりも岬の北にある百人浜にイソコモリグモの調査に行ってきました。えりもは風が強いことで有名ですが、百人浜は強風が吹きすさび、飛んできた砂が顔にバチバチと当って歩くのも大変。イソコモリグモの調査であちこちの海岸に行きましたが、こんな風が強いところも初めてでした。

 えりも岬といえば、国有林の緑化事業があちこちで紹介されています。この話を聞くたびに、「いいとこだけを紹介して美談にしているなあ・・・」とついつい思ってしまいます。下の写真が、緑化を行っている現場です。



 百人浜にはこの緑化事業のための管理棟がありますが、そこには以下のように説明されていました。

 えりもの海岸にはかつてカシワ、ミズナラ、ハルニレなどの広葉樹の原生林が広がっていたが、明治以降人口が増加し、燃料として森林を伐採した。これによって海岸一帯は砂漠化し、飛砂は沖合い10キロメートルにまで及ぶようになり海は黄色く濁って魚が減少。昆布も採れなくなり、強風によって家の中にまで砂が入り込むようになった。

 そこで、浦河営林署(当時)や地元の人々が昭和28年から緑化を手がけてきた。はじめのうちは草本緑化を行い、その後クロマツの植栽と防風柵の設置により森林が蘇った。魚が戻り、昆布も採れるようになった。平成12年までに192ヘクタールを緑化し、13億8千万円を投じた。


 この緑化事業により、百人浜からえりも岬につづく道道34号の沿線は、クロマツの森林に覆われています。しかし、えりもにはもともとクロマツは生育していなかったのです。外来種であるクロマツが延々と続く光景は、不自然そのものといえます。そして、今でもクロマツによる植林を広げているようです。

 本州ではクロマツは海岸での砂防林に広く用いられてきました。海岸砂防林に適しているとの理由で、えりもの緑化にそのまま取り入れられたのですが、今から見るとそれは決して適切ではありませんでした。森林の復元を図るのであれば、外来種を用いるのではなくそこにもともと生育していた樹種を用いるべきだったのです。

 生物多様性の観点からも単一の外来種による森づくりは不適切です。当時は自然復元とか生物多様性などといった考え方がありませんでしたから、クロマツを導入したのは仕方ない側面もありますが、安易なやり方だったといえるでしょう。

 最近では本来の森林に近づけるべく、混みあったクロマツの一部を伐採してカシワを植えているところもありますが、なにもお金をかけてクロマツ林をつくってからカシワ林に転換していく必要などありません。はじめからそこに生育していた樹種による緑化を行えば二度手間をかける必要はありません。

 また、えりもに限らず、厳しい環境条件のところで伐採をしたら、元の森林に戻すためには大変な時間と労力、お金がかかるのです。このようなところは安易に手をつけてはいけないということです。

 ところが、えりもの緑化事業についての解説では、このような反省が欠落しているのです。こうした反省なしにえりもの緑化事業を語ったのなら、単なる美談にすぎません。どんな問題点があり、今後はどうすべきかをしっかり見つめなければ、同じことを繰り返すだけではないでしょうか。そして林野庁は同じような過ち、すなわち「手をつけてはいけない森の伐採」を今でもやっているのです。

 あっ、イソコモリですか? いましたいました。えりもでは初記録です。

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