寺澤有さんへのインタビューの感想

松田まゆみ

2010年03月05日 23:01

 このブログでは「福田君を殺して何になる」の著者である増田美智子さんと、版元のインシデンツの寺澤有さんへのインタビューを掲載してきましたが、今回は寺澤さんへのインタビューの感想を書きたいと思います。

寺澤有さんへのインタビュー(その1)
寺澤有さんへのインタビュー(その2)

 ジャーナリストでもなく、ただの市民である私が、面識もない増田美智子さんやジャーナリストとして活躍されている寺澤有さんにインタビューを申し入れ、それをニュースサイトでもない自分のブログに掲載することについては、正直いって戸惑いというか気遅れを感じました。しかし、増田さんも寺澤さんもそんなことはちっとも気にすることなく、裁判などでお忙しい中を気さくに応じてくださいました。まずは、お二人に感謝したいと思います。

 私がなぜインタビューを申し入れたのかといえば、あまりにも裁判の経緯やお二人の意見がマスコミなどで報じられず、多くの人が誤解をしていると思えたからです。マスコミが伝えないのなら、たとえ個人のブログであっても伝えていくことはできるのではないか、という思いがありました。また、これまで何回か光市事件に関する記事を書いてきた自分自身の責任や反省の意味もありました。

 さて、寺澤さんの単刀直入に書かれた回答を読み、改めて考えさせられたのが弁護団のことであり、とりわけ弁護団の中心的存在である安田好弘弁護士についてです。

 私が安田弁護士を意識するようになったのは、安田弁護士の人となりを紹介した雑誌の記事でした。そこから受けた安田弁護士のイメージは、誰もがやりたがらない刑事被告人の弁護を引き受け、被告人の言葉に耳を傾けて真実を追求し、壁のように立ちはだかる検察とまっこうから対峙する強い精神力をもった弁護士の姿でした。ご自身の冤罪事件でも、大変な精神力で無実を勝ち取られました。誰よりも検察の恐ろしさを熟知し、また権力の広報係のようになっているマスコミを嫌う、孤高の弁護士という印象を持っていました。

 しかし、安田弁護士に対する印象がやや変わったのが後に弁護団を解任された今枝仁弁護士の著書「なぜ僕は『悪魔』と呼ばれた少年を助けようとしたのか」(扶桑社)でした。この本では、光市事件の弁護団の弁護方針をめぐる安田弁護士らと今枝弁護士の激しい対立が解任につながったことなどが赤裸々に語られ、また安田弁護士が弁護団会議や法廷などで時として激高することにも触れられています。もっとも、本を読んだ当初は、弁護団の内部の論争まで書籍で公にするということに対し「そこまで書くのはどうなのだろうか?」という疑問を持ったのも事実です。組織の内部的な問題は公表しないのが普通だからです。しかし、どうやら安田弁護士らが嫌がる福田君を説得し、意見の合わない今枝弁護士を解任させたという経緯には、さすがに疑問を抱きました。

 その後、「福田君を殺して何になる」を読んで、また弁護団による出版差し止めの仮処分や提訴を目の当たりにし、私の鈍い頭も、今枝弁護士が自著であえて弁護団の内紛にまで言及した意味をはっきりと悟ることができました。出版差し止めの仮処分や提訴は、今枝弁護士が抱いた安田弁護士への疑念がまさに形となって現れたということでしょう。

 21人もの大弁護団ともなれば、弁護方針や意見で対立が生じるのは当然でしょう。問題は、いろいろな意見や対立がある中で紛争をどうやって解決していくべきなのか、ということです。弁護団をまとめるリーダーは、紛争解決の手腕が問われることにもなります。結局、安田弁護士らは、嫌がる福田君を説得して今枝弁護士の解任届けを出させて解決を図ったということのようですが、そういう強引なやり方に疑問を感じるのは私だけではないと思います。また、「福田君を殺して何になる」に掲載された今枝弁護士の解説によると、安田弁護士は控訴審判決後の記者会見で、今枝弁護士の解任について「彼(今枝)は被告人の信頼を失った」と説明したそうです。「嘘も方便」とはいいますが、その嘘が自己正当化を目的としているのであれば見苦しいものでしかありません。もっとも、この一件だけならば安田弁護士への不信感はそれほど大きなものではありませんでした。

 ところが、「福田君を殺して何になる」の出版をきっかけに、同じようなことが再び繰り返され、それが不信感を増幅させることになってしまいました。弁護士が寺澤さんに「少年法違反で仮処分をかける」と脅しのようなことを言ったという経緯から考えても、仮処分や提訴には福田君の意志というより弁護団の意志が強く働いたとしか思えません。これは嫌がる福田君に今枝弁護士を解任させたことと通じます。また、増田さんや寺澤さんの「ゲラを見せる約束はしていない」という主張が正しければ、安田弁護士らは嘘の主張に基づいて法的手段を行使したことになります。これは安田弁護士の記者会見での嘘に通じます。こうなってくると、さすがに安田弁護士らのやり方に対する疑問が大きくならざるを得ないのです。

 こうした強引ともいえるやり方の根底には、安田弁護士らによる弁護団の内紛への対応のまずさと、メディアへの対応のまずさがあったと思えてなりません。私も若い時から自然保護運動に関わってきましたので、組織内での意見の対立やみっともない争いなども目の当たりにしてきましたが、紛争解決で肝要なのは発言力の強い者が自分の意見を強引に通そうとしてはいけないということ、そして組織内外での信頼関係を保つためにも嘘をいってはならないことだと考えています。議論を尽くさずに対立する意見を締め出せば民主的な運営はできませんし、信頼関係が崩れたなら共に闘うことはできません。

 寺澤さんは、インタビューの中で「安田弁護士たちが目的のためにはウソの主張をすることも辞さない人間だというのは、出版差し止め騒動で身をもって体験しています。加えて、非常に傲慢な人間であることも。いわゆる安田支持派は、そういう安田弁護士の裏面を知らないで、『人権派だから』『死刑廃止派だから』と盲目的に支持しているとしか思えません」と、安田弁護士や支持者を非常にストレートに批判しています。増田さんや寺澤さんの主張が事実であるなら、そのような意見を持たれるのも理解できます。

 安田弁護士の支持者は、安田弁護士らのとった行動を客観的に捉えたうえで、自分自身で評価を下してほしいと思います。私は今回のことを理由に、安田弁護士らが福田君の裁判でこれまで行ってきた立証も信用できなくなったとは思っていませんし、安田弁護士が類まれな優れた弁護士であり、その主張に共感できる部分が多いことも否定しません。しかし、今枝弁護士や増田さん、寺澤さんへの対応の中に嘘や傲慢さがあったというのも事実であり、それが残念ながら支持者の信頼を裏切ることに繋がったのも事実だと思います。また、そのことが福田君にとってプラスに働いたとは到底思えません。

 この問題に関しては、是非、「福田君を殺して何になる」を読み、自分の頭で考えていただきたいと思います。

 出版差し止めについては裁判になっている以上、司法の判断を待つしかありませんが、公正な判断が下されること、そしてこの裁判が福田君に対して不利にならないことを願うしかありません。

 また、増田さんや寺澤さんへのインタビュー記事への感想やご意見を、コメントあるいはメールで寄せていただけると嬉しく思います。

 なお、以下の動画サイトでジャーナリストの山岡俊介さんと寺澤有さんがこの問題について語っています。ちょっと長いのですが、とても興味深いことも語られていますので、是非ご覧いただけたらと思います。

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