福田孝行君の死刑に思う

松田まゆみ

2012年02月20日 23:26

 今日、光市母子殺人事件の被告人に死刑が言い渡され、マスコミが一斉に実名報道に切り替えた。

 私は、はじめは安田弁護士らを全面的に支持していたが、「福田君を殺して何になる」(増田美智子著、インシデンツ刊)を読んでからは弁護団に対する考えが変わった。だからといって福田君の死刑を支持するつもりは毛頭ない。更生可能な若者を死刑に追いやる今日の判決は非常に残念であり、また複雑な思いだ。

 なお、この事件についてはブログで何回も取り上げてきた。

光市事件

 一連の記事の中でも、とりわけ増田美智子さんと寺澤有さんへのインタビュー記事は、是非読んでいただきたい。

増田美智子さんへのインタビュー

寺澤有さんへのインタビュー

 以下に死刑判決についての今日のツイッターでのつぶやきを転載しておきたい。

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光市母子殺害事件の被告人である福田孝行君に死刑が言い渡された。予想はできたもののやはりこの判決になってしまったことが残念でならない。ニュースは一斉に実名を出して死刑判決について取り上げた。死刑が確定したために少年事件でも実名報道に切り替えたのだ。

そのニュースでは福田君は大月孝行になっている。寺澤有さんのツイッターによると、支援者である大月純子さんと養子縁組をしたらしい。http://twitter.com/#!/Yu_TERASAWA/status/171482151987052544親族になったので大月さんは福田君に面会できるのだ。

福田君の裁判に関しては関連する本などをいくつか読み、ブログでも取り上げてきたので非常に複雑な思いがある。私は死刑には反対だし、福田君の死刑はあまりに重すぎると思っている。そして、何よりも言いたいのは、多くの人が福田君のことを誤解しているということだ。

例えば、福田君と友人との間で交わされた手紙を取り上げて「まったく反省していない」と言われるが、あの手紙のやりとりは検察が関与したヤラセといえるものだ。人を殺してしまったことは事実であっても、恐らく検察の誘導ともいえる取り調べで事実と異なる調書もとられただろう。

彼の成育歴も一般の人に伝わっているとは思えない。増田美智子さんのルポ「福田君を殺して何になる」を読めば、福田君の人物像が浮かび上がってくる。彼は決して凶暴な少年ではなく、虐待を受けて精神的な発達が遅れた普通の少年だ。彼に必要なのは暖かい愛情と更生だ。

安田好弘弁護士をはじめとする弁護団は福田君の死刑回避のために尽力はした。そのことは評価するが、一方で安田弁護士の強引さも露呈してしまった。嫌がる福田君を説得して意見が異なる今枝仁弁護士を解任した。こういうことを知ると、はっきり言ってげんなりする。

弁護団は「福田君を殺して何になる」を書いた増田美智子さんと版元の寺澤有さんを、虚偽の理由を持ち出して訴えた。この本には弁護団の批判も書かれている。どう考えても弁護団を守るために福田君を利用した恫喝訴訟だ。こうなるととても安田弁護士の行動は支持できない。

今になって思うと、ほんとうに福田君の死刑を回避するためには今枝弁護士の主張に耳を傾けるべきだったのではなかろうかと思う。今枝弁護士の意見は、裁判所が求める点に重点を置いて、福田君の反省と遺族への謝罪を通じ、更生可能性があることを訴える、というものだ。

安田弁護士は事実関係にこだわった。もちろんそれは非常に重要なことだ。しかしこの裁判では一審が無期懲役で、二審も無期懲役だった。それらを何とか維持させるような弁護方針をとれば死刑は回避されたかもしれない。今枝弁護士はそれを主張していた。

あのような状況のなかで被告人のためにほんとうに必要なことは死刑を回避させることだ。もちろん、何としてでも死刑にしたい検察と立ち向かうことは容易ではなく、今枝弁護士の主張に従って情状酌量に重点を置けば無期懲役を勝ち得たと断言はできないが。

しかし、増田さんと寺澤さんを訴えたことは、恐らく福田君や弁護団にとってさらにマイナスに働いただろう。「福田君を殺して何になる」を証拠として情状酌量に利用するほうがよほど賢明だったと思う。それも今回の死刑判決に関わっているのではないかと私は思う。

それにしてもマスコミの報道はどうだろう。死刑が確定したとたんに実名報道をはじめた。「福田君を殺して何になる」で実名を出したときには、寺澤さんや増田さんを少年法違反だと批判した(増田さんは福田君に実名報道の許可を得ていた)のに、なんともご都合主義だ。

家庭環境に恵まれず発達が遅れた少年が犯した罪に日本は死刑をつきつける。更生の余地が十分にある少年に更生の機会を与えようとしない。被害者遺族の立場ももちろん尊重しなければならないが、死刑で誰が報われるのか? 復讐や厳罰化は人の心を荒廃させるだけだろう。

【2月21日追記】
 このような記事を書くと必ずといっていいほど被害者の処罰感情を持ち出して「自分が被害者の立場になっても死刑に反対といえるのか」といった意見が寄せられる。これについては以下の記事で言及しているので参照していただきたい。

死刑について考える(その1) 
死刑について考える(その2) 
死刑について考える(その3) 


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