カムイミンタラの秋

松田まゆみ

2010年10月02日 22:02

 昨日は、黒岳から北鎮岳の分岐まで歩いてきました。アイヌの人たちがカムイミンタラと名付けた大雪山の高山帯です。カムイミンタラとは「神々の遊ぶ庭」という意味なのですが、俗世間からかけ離れた雄大で厳しい自然の聖域にはなんとふさわしい呼称なのでしょう。とはいっても、今では夏になると大勢の登山者が詰めかけるのですから、カムイミンタラと名付けたアイヌの人たちが登山者で賑わっている光景を見たらなんと思うでしょうか。

 下の写真は、黒岳山頂から旭岳方面を見たものです。残念ながらウラシマツツジの紅葉は終わっていましたが、先月下旬に降った雪がまだら模様を描き、寂しげな秋の光景が広がっていました。




 こんな高山にもキタキツネがのんびりと歩きまわり、登山道の脇で寝そべっていました。クロマメノキがおいしそうな実をいっぱいつけていましたので、秋が深まった山にもまだ食糧はあるのでしょう。道端にはチングルマの実が風に揺れ、鈴をころがすようなカヤクグリの声が聞こえてきます。ハイマツの実はあまり多くはないのですが、ギンザンマシコも姿を見せてくれました。




 さらに進むと、爆裂火口の縁に出ます。このあたりの岩塊地でナキウサギの声が響いてきました。こんな厳しい高山に暮らす動物がいるのですから、まさに神様(カムイ)の遊ぶ庭なんですね。これは黒岳方面を見た光景です。このあたりの地形をよく見ると、溶岩の流れくだった跡などがよくわかります。




 北鎮岳の分岐までくるとさすがに風邪が冷たく、岩には見事なエビの尻尾(写真)ができていました。前の晩に黒岳の石室に泊ったという登山者によると、昨晩は山の上は暴風だったとのこと。今日はよく晴れて歩いていると汗ばむ陽気でしたが、エビの尻尾が厳しい山の気候を物語っています。




 秋の高山にもコヒオドシ(蝶)が活発に舞っているのには驚きました。種名は分かりませんが赤トンボも深い赤色になっています。そして、眼下にはお鉢(爆裂火口)が広がっています(写真)。ここが大噴火して溶岩や火砕流が流れ下り、層雲峡の柱状節理をつくったのですから、すごい噴火だったはずです。当時は荒涼とした岩の世界が広がっていたのでしょう。自然のもつエネルギーの前では、人間はなんとちっぽけな存在なのでしょうか。




 こんないい天気なのに、高嶺の散歩道にまで脚を延ばすことなく黒岳登山で帰ってしまう人が多く、この季節の大雪山は静かで最高です。人にほとんど合わない山はほんとうに気持ちがよく、至福のひとときです。

 黒岳の石室も9月で営業終了のようで、管理している方が後片付けに来ていました。山は静かで厳しい冬を迎えます。

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