札内川「礫河原」再生事業を受け売りで正当化する報道への疑問
昨日、12月20日の北海道新聞社会面に「札内川『礫河原』再生中」という記事が掲載されていた。要約すると、以下のような内容である。
礫河原をもつ札内川は、近年の治水事業(堤防を保護するコンクリート構造物の設置)や降雪量の減少で川の流量が減り、土砂が堆積して河畔林が繁茂したことでケショウヤナギの生育できる礫河原が減少している。礫河原は1987年と2011年を比較すると、上流で約3分の1、下流で4分の1ほど減少した。このため北海道開発局帯広開発建設部は土砂が堆積した場所や樹林帯に水路を掘削し、土砂やヤナギの種が流れるような工事をしたほか、札内川ダムの放流量を一時的に増やすなどの対策を行った。これによって、上流の礫河原の面積は3年前と比べて約20ヘクタール増え、樹林面積は20ヘクタール減少した。15年度の事業費は6100万円で、16年度も同程度。
この記事を読んで、私はかなり唖然とした。まるで帯広開発建設部の受け売りであり、事業の正当化だ。
この記事の最大の問題点は、礫河原が減少した本質的原因にまったく触れていないことだ。礫河原の減少は、言うまでもなく札内川ダムを造ったことによって洪水が抑制され河川敷が撹乱されなくなったからである。ところが新聞ではダムについて一切触れず、原因を治水事業と降雪量の減少へと誘導している。
また、礫河原再生事業のメリットばかりを強調している。礫河原を増やすために土木工事で手を加えたなら、もちろんそのときはある程度の成果は出るだろう。しかし、それはあくまでも対処療法に過ぎない。ダムによって撹乱がなくなってしまった以上、礫河原を維持するためには永遠に税金を投入して「礫河原再生事業」を続けなければならないし、上流からの砂礫の供給が絶たれてしまったので、今河川敷に堆積している礫は次第に流され河床低下が懸念される。そして河床低下はさまざまな悪影響を及ぼすのだ。
開発局がやっていることは、札内川ダムという根本原因を棚に上げ、地域住民などの意見も取り入れる形式をとりながら「礫河原再生」という対処療法事業の正当化をしているだけだ。過去の事業への反省がないところには責任意識もないし、将来を見据えた問題解決もない。
なぜ私がこのようなことを書くのかといえば、開発建設部の発想が常に「はじめに事業ありき」であることを身を持って知っているからだ。これまでの開発建設部との話し合いにおいても、彼らは過去の事業の過ちを決して認めない。そして、過去の誤った治水事業に対してただただ対処療法的な事業を重ねていくだけなのだ。
しかも、以下の記事に書いたように、開発建設部は「やらせ」の疑いも拭えない不自然な公聴会を開いて事業の正当化をしてきた。
ダムで砂礫を止められた札内川で砂礫川原再生はできるのか?
続・ダムで砂礫を止められた札内川で砂礫川原再生はできるのか?
業界関係者も公述した十勝川水系河川整備計画公聴会
十勝川水系河川整備計画に寄せられた不自然な意見書
もちろん、礫河原減少の原因はダムだからすぐにダムを撤去せよとまでは言わない。しかし、過去の治水事業の過ちや悪影響を検証し反省することなく自然の摂理を無視した対処療法事業を続ければ、負の連鎖を起こす可能性があるし税金の無駄遣いになりかねない。
マスメディアが開発建設部の事業の本質を見抜こうとせず、安直な受け売りで事業を正当化する報道をすることに大きな疑問を抱かずにはいられない。
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