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鬼蜘蛛の網の片隅から › 原子力発電 › 矢ヶ崎克馬・守田敏也著「内部被曝」を読んで

2012年04月12日

矢ヶ崎克馬・守田敏也著「内部被曝」を読んで

 先日3日ほど東京に行ってきた。最近は本を買うこともあまりなくなったのだが、都心を通ったついでに気になっていた本を2冊購入した。一冊は矢ヶ崎克馬・守田敏也著「内部被曝」(岩波ブックレット)だ。今日はこの本について紹介したい。

 本書では守田敏也さんの質問に矢ヶ崎克馬さんが答える形で内部被ばくについての解説がなされている。5つの章からなり、各章のタイトルは以下。

第1章 被曝直後の福島を訪れて
第2章 内部被曝のメカニズム
第3章 誰が放射線のリスクを決めてきたのか
第4章 なぜ内部被曝は小さく見積もられてきたのか
第5章 放射線被曝に、どのように立ち向かうのか

 これらの解説の中から、重要と思われる点についていくつか紹介しておきたい。

急性症状と晩発性障害
 放射線被ばくによる症状には急性症状と晩発性障害がある。

 たくさんの放射線が身体に吸収されて、多量な分子切断が生じるとそれぞれの生命機能がうまく働かなくなることで脱毛、下痢、出血、紫斑などの急性症状が出る。分子切断が多量の場合は死にいたる。

 もう一つの晩発性障害は、分子切断が密集して起こり、それを修復する際に間違ったつなぎ直しをすることで遺伝子が組み換えられてしまうことによって生じる。これは内部被曝で増大し、がんや様々な病気、体調不良を起こす。

内部被曝の恐ろしさ
 原発事故で発生する放射線はアルファ線、ベータ線、ガンマ線で、それぞれ性質が違う。アルファ線は重い粒子で最もエネルギーが多く、大気中では45ミリメートル程度、体内では40マイクロメートル程度しか飛ばない。ベータ線は高速電子で、空気中では1メートル程度、体内では1センチメートル程しか飛ばない。ガンマ線は電磁波で、空気中では70メートルほど飛び、人体の体を突き抜けるが、分子切断は少ない。

 外部被曝はほぼガンマ線のみであるが、内部被曝の場合は体の中で発射される全放射線に被曝するため、外部被曝よりはるかに多くの被曝をすることになる。これが内部被曝の恐ろしさである。

 アルファ線は細胞の中で100分の4ミリメートル飛ぶ間に10万回の分子切断をし、ベータ線では10ミリメートルの間に2万5千回の分子切断をする。アルファ線の方が高密度に分子切断をするのだが、放射性原子の半減期を考えると必ずしもベータ線よりアルファ線の方が危険とは言えない。また内部被曝では生物的半減期も考えなくてはならないので、放射性原子の種類によって被曝の具体性が違ってくる。被曝を考える際には内部被曝について理解しなければならない。

ICRPの問題点
 内部被曝の影響を過小評価してきたのがICRP(国際放射線防御委員会)である。ICRPは「経済的・社会的要因」を考慮しているが、それは即ち核戦争や原子力産業の都合のことを意味している。つまり人の命を守ることを考えているのではなく、政治的な判断をしているということ。

 ICRPの評価を批判しているのがECRR(ヨーロッパ放射線リスク委員会)である。矢ヶ崎氏は「外部被曝と内部被曝を比較するならば、数百倍の危険性を見積もるべきだ」としてECRRの見解を支持している。

 ICRPの評価の元となっているデータは広島・長崎で集められたものとされているが、そこでは内部被曝による犠牲者を徹底的に隠してしまった。核戦略を進めるためには核兵器による放射線の長期の被害を隠さなければならなかったということである。また、核兵器以外で濃縮ウランを使う道が原発であった。原発と核兵器は表裏一体のものということだ。

放射能とどのように向き合うか
 矢ヶ崎氏の提言は、「悲観して恐怖のうちに汚染を待つのではなく、怒りを胸にしっかり収めて、開き直って、楽天的に、知恵を出し、最大防護を尽くしつつ、やるべきことはすべてやる」ということだ。避難、内部被曝を避ける努力、リスクの総量を減らし免疫力を上げる努力などだ。カルシウムをたっぷり摂ることでストロンチウムの骨への吸収を減らすなどという例もあげている。

 薄い本ですぐに読めるので、詳しく知りたい方はぜひ本書をお読みいただきたい。

 なお、福島から遠く離れている関東地方などでは被曝によって鼻血や下痢といった症状が出ることはないと主張している方がいる。たとえば、大阪大学の菊池誠氏だ。以下参照。

野呂美加さんと放射能対策

野呂美加さんと「チェルノブイリへのかけはし」についてもう少しだけ

 菊池氏は日本保健物理学会の見解を根拠に、関東地方などで鼻血や下痢の症状が出ることはないと断言している。以下がその日本保健物理学会の見解。

0.07μSvという空間線量率が継続したとして、これを年間の被ばく線量に換算しますと0.6mSv/yとなります。この値は直ちに健康に影響を与えるものではありません。また自然放射線による年間被ばく量の世界平均は2.4mSv/yです。日本平均では1.5mSv/y、またブラジル等では10mSv/yを超える地域もあります。
また、飛行機に乗るなど高度が上昇すると、宇宙線と呼ばれる宇宙から降り注ぐ放射線によって被ばくしますが、例えば東京-NY間を飛行機で往復する間に0.1mSv被ばくすると言われています(参考:放医研HP 放射線影響早見図 http://www.nirs.go.jp/data/pdf/hayamizu/j/0407-hi.pdf )。このような自然放射線が鼻血などの原因とは考えられていません。
放射線被ばくによる紅斑(毛細血管拡張)が発症するのは、1回に受ける放射線量が3~6Gy(GyはSvと同じと考えてください。)のときと言われています。また、放射線影響研究所のHPに記載があるように、原爆被爆者の皮下出血といった急性放射線症についても同程度の線量で、被ばく後数日から数週間におけて起こったということです。これらのことから、0.6mSv/yという僅かな被ばく量の増加で、子どもの鼻血が増加するということはないと思います。
http://radi-info.com/q-1243/より引用)


 これに関して矢ヶ崎氏は以下のように説明している。

 体内にとりこまれた放射性微粒子が鼻の粘膜にくっついてしまえば、鼻の粘膜が集中して被曝します。この場合、外的に見て傷はないのに多量の出血をもたらす。目では認められにくい小さな傷がいっぱい作られているのです。同様に下痢や血便なども、ベータ線などの局所的に集中した被曝を想定すると、放射線を原因と考えうる根拠が明らかに存在します。
 もし外部被曝だけで同じ症状を出させるには、そうとう大量のガンマ線照射をしなければなりません。なぜならば、外部からまばらにしか分子切断をしないガンマ線の照射では、鼻の粘膜や小腸の壁に分子切断をする確率が非常に少ないので、多量のガンマ線を照射することが必要になります。
 これに対して内部被曝では、局所的に実効線量が高くなる被曝がおこなわれるのです。
 医師の方には、内部被曝による影響のいろいろなあらわれ方を、頭ごなしに否定することを、命を守る医師の使命にかけて、ぜひおこなわないでいただきたいのです。


 日本保健物理学会は外部被曝しか問題にしていないことがよく分かる。原発を推進してきた団体の調査結果を引用するなど、御用学会といってもいいだろう。菊池誠さんをはじめとする「ニセ科学批判」の方たちは、矢ヶ崎氏の見解をどう思っているのだろうか。



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Posted by 松田まゆみ at 11:58│Comments(0)原子力発電
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