さぽろぐ

日記・一般  |その他北海道

ログインヘルプ


鬼蜘蛛の網の片隅から › 原子力発電

2024年01月04日

大地震に警戒を

 今年の新年は能登半島の大地震で始まった。まずは、亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された方たちに一日も早く平穏な生活が戻ることを祈りたい。

 ところで、この地震についてロシアの研究者Alexey Lyubushin博士が大きな地震の前兆ではないかと不穏な推測をしている。

20240103報告(生かせいのち自身と防災 ameba版)

 Xのアカウントをお持ちの方は、ここからリンクされている「Sputnik 日本」のツイートをお読みいただきたい。

 要約すると、「日本列島は2023年3月からいつ大地震が起きてもおかしくない段階に入っており、それはマグニチュード7.5を超える。今日本で起きている地震はより大きな地震の前兆である可能性がある。3.11のときも、マグニチュード7.5の前震がありその3日後に大災害が起きた。新たな大地震は太平洋側の東京近郊で起こる可能性がある。」との推測をしている。

 Lyubushin氏は2023年3月から5月の間に日本の南部で極めて大きな地震が起きる恐れがあるとの予測をしていたが、これは当たらなかった。今回の予測も当たらないといいのだけれど、やはり警戒することに越したことはない。

 今回の地震では志賀町で震度7、志賀原発は震度5を記録したと発表されたが、配管が壊れて絶縁や冷却のための油が漏れだしたことが分かっている。この程度の地震で配管が壊れるのであれば、耐震性に問題があると言わざるを得ないし、日本にある全ての原発は大地震に耐えられないと思う。志賀原発が停止していたのは不幸中の幸いだが、核燃料プールがある限り、いつ過酷事故が起きてもおかしくない。原発があるというだけで、日本はかなり危機的状況に立たされている。

 しかも、能登の地震の震源域を見れば、志賀原発は断層の上ないしは直近に建てられたと言っても過言ではない。日本は原発によって滅びるのではないかと、福島第一原発の事故当時の恐怖が蘇ってくる。とにかく一刻も早く全ての原発を廃炉にし、更なる地震対策をするしかないと思う。

  

Posted by 松田まゆみ at 16:13Comments(0)原子力発電雑記帳

2023年08月24日

二つの大罪

 政府はとうとう福島第一原発の汚染処理水を海に放出するようだ。海に汚染水を流すなどというのは決してやってはいけないことだが、漁業者や国民の反対を押し切って進めるらしい。

 先の記事でも触れたが、福島第一原発の港湾内外では今でも高濃度汚染された魚が採れている。その情報源が思い出せないでいたのだが、おしどりマコさんのサイトに詳しく書かれていた。

「ALPS処理水」海洋投棄に関係なく、現在進行形の福島県沖の魚のセシウム汚染を東電も国も解決できず

 最後のまとめの部分を引用しておきたい。

港湾内の魚のセシウム汚染、港湾外の魚のセシウム汚染は、ここ数年になぜか増加している。
しかし、その原因は解明されておらず、対策も不十分である。
「ALPS処理水」海洋投棄の前に、ここ数年続いている魚のセシウム汚染を解明し、
対策を取るべきではないだろうか?
それも出来ずして、「ALPS処理水」をコントロールしながら海洋投棄することは、
国や東京電力の能力的に可能なのだろうか?
また何か問題があってもなかなか公表されなかったり、うっかり失敗してしまったり、
という「いつもの」東京電力の対応が予想されるばかりである。


 恐らく今も福島第一原発からは汚染水が海に垂れ流しになっているのだ。そのコントロールすらできない状態で、さらに汚染水を海に流すという。そして、東京電力は、具体的な放出計画が策定できていないと認めている。つまり、どれくらいの量をいつまで流し続けるのかも分からない。とんでもない話だ。

 原子力資料情報室も、抗議の生命を公表した。

政府の汚染水放出決定に断固として抗議する

 福島第一原発の事故では大量の放射性物質が大気中に放出された。福島第一原発は太平洋側にあるので、その放射性物質の大半は偏西風に運ばれ海側に流れたのだ。このために内陸の汚染はチェルノブイリほどにはならなかったが(とはいえ、内陸も汚染された)、海を大量の放射性物質で汚染してしまった。その後、溶けた核燃料を冷却するために汚染水問題が発生した。ALPSで処理した水をタンクに溜め込んでいると言うものの、原発から発生する汚染水の一部は恐らく今も港湾内外に流れ出ている。そしてさらに汚染水を放出するという。

 生命の源である海を放射性物質で汚染するというのは、取り返しのつかない愚行だし、それがどれだけ罪深いのか、政府も東電もまるで分っていないようだ。こんなことは絶対に容認できない。

 さて、タイトルに二つの大罪と書いたが、もう一つの愚行は9月20日から始まるというXBB対応型のコロナワクチンだ。これについて村上康文氏が動画で警告を発している。

村上康文(東京理科大名誉教授)XBB対応型ワクチンは打ってはいけない

 このワクチンは人での臨床試験が行われていない。そして、既接種者が打つと抗原原罪で武漢蛾型抗体が誘導され、XBB変異型に対する中和抗体は誤差範囲で全く効果は期待できない。さらに既存抗体が中和できないためにフルに毒性を発揮するスパイクタンパクが全身にばらまかれるという。何度も打っている人にとっては、コロナに罹るだけで命が危うくなりかねない。

 コロナワクチンですでに史上最悪の薬害が発生しているが、XBB型を打てばさらに薬害が増え死者も増えるだろう。決して打ってはいけない。こんなものを打たせようとしている政府は、製薬会社の言いなりになり国民を実験台にしている。

 汚染水の海洋放出も、コロナワクチンも国民のことなど何一つ考えていない。というより国民を犠牲にしようとしている。平気でこんなことをする政府には、怒りしかない。そしてワクチン問題は野党も消極的だ。この国はすっかりおかしくなってしまった。

  

2023年08月14日

汚染水を海に流すという犯罪

 コロナ騒動が始まる前までは、原発問題も含めいろいろな話題を取り上げてきた。しかし、コロナ騒動が始まってからというもの、ことの重大性に気づいて肝が冷える思いをしている。このブログで何回か書いてきたけれど、私はいわゆる陰謀論者だ(笑)。つまり、コロナウイルスは人工ウイルスであり、ワクチンを打たせるためにパンデミックが意図的につくられた。そしてその目的は人口削減にある、という説を支持している。人口を減らそうとしている人達は地球上の8~9割もの人口を削減しようと画策しているのではないかと推測している。人々を様々な病気にし、出生数も減らすというやり方で。

 しかも、mRNAワクチンは人の遺伝子まで改変する可能性があると指摘されている。これは言うまでもなく人類の危機になりかねない。そして日本人は多い人で6回も接種しており、秋には7回目まで始まるという。今は自己増殖型mRNAワクチンなどというものまで開発中で、これが打たれるようになるとシェディングによって非接種の人まで接種したと同然になると言われている。やがてすべてのワクチンがmRNAになるかもしれない。これはもう日本人絶滅の危機ではないか?

 考えただけで気が滅入ってくる。しかし、そんなことを一日中考えているわけにもいかない。そこで気晴らしに昆虫やクモの写真を撮ってそれをブログで紹介しながら、ワクチンやグレートリセットに関する話題もちょこちょこ書くようなスタイルになっていた。そんなところに、izukunさんから汚染水の海洋放出に関する記事のリクエストがあった。

 前置きが長くなってしまったが、今回は少しだけこの問題に触れておきたい。

 日本政府は、福島第一原発から出る処理水(処理水といってもトリチウムの他に多数の放射性核種が含まれている汚染水)を海に流そうとしている。汚染水の海洋放出は以前から言われていたが、「とうとう・・・」という感が否めない。もちろん、福島第一原発ではすでに地下水を通じて汚染水がダダ洩れになっている。2021年2月に新知町沖で漁獲したクロソイからは500ベクレルのセシウムが、同4月1日に南相馬沖で漁獲されたクロソイから270ベクレルのセシウムが検出されており、放射性物質が漏出している疑いもある。これだけでも大問題だが、汚染処理水の海洋放出は国民の過半数が反対し、漁業者も反対している。国民も漁業者も利害関係者なのに、それを無視する対応だ。これ以上汚染水を保管する場所がないから海に流すというのは、結局安上がりに済ませたいということなのだろう。「原発推進派による茶番劇」という指摘もある。(こちら参照)。

 汚染水の海洋放出についてはお隣の韓国や中国でも問題視している。例えば韓国のメディアではトリチウムの危険性を報じている。

トリチウムは致命的物質・・・日本政府は「問題ない」と真実歪曲 (中央日報)

 また中国のメディアも「日本が原発処理水を海洋放出へ もっといい方法はないのか」という記事でこれから30~50年間ほど貯蔵して放射能を減らすほうが良いという提言をしている(リンクを貼ると何故か「登録できない単語が含まれていますと」表示され投稿できないので、リンクが貼れない)。私も安全な処理法がないのなら、まずは保管を考えるのがベストだと思う。以前、小出裕章さんが言っていたタンカーなどを利用した保管はできないのだろうか? まずは保管をし、より安全な処理法を探っていくしかない。

 もう一つ、週刊金曜日の記事を紹介しておきたい。

福島第一原発の処理汚染水海洋放出に市民団体が反対 「東電の垂れ流しは犯罪行為だ」

 東京大学名誉教授の鈴木譲氏は、こう述べたという。「生物に悪影響を及ぼす汚染物質を垂れ流す東京電力の行為は、水産資源保護法違反です。犯罪行為です。東電や政府幹部、(海洋)放出の責任者は刑事訴追されるべきです。東電や(政府の)責任者を刑務所にぶち込んでやろうじゃないですか」

 私も、海洋放出など到底認めるべきではないし、犯罪行為ではないかと思う。

 最後に「風評被害」について一言書いておきたい。福島の原発事故以来、「風評被害」という言葉がずいぶん使われるようになった。風評被害というのは「根拠のない噂のために受ける被害の事」を指す。しかし、汚染水を海に流せば生物がそれらの核種を取り込み食物連鎖によって濃縮される。それを私たちは食べることになるのだから、体内に放射性物質が取り込まれる。食べ物を汚染するのは明らかなのだから、風評被害などではなく実害だ。こんないい加減な言葉で誤魔化すのは止めてほしい。

 izukunさんの言う通り、薄めて流せば問題ない、などというのは詭弁にほかならない。

【2023年8月16日追記】
記事の一部に不正解な部分があったため修正した。「もちろん、福島第一原発ではすでに地下水を通じて汚染水がダダ洩れになっている。」→「2021年2月に新知町沖で漁獲したクロソイからは500ベクレルのセシウムが、同4月1日に南相馬沖で漁獲されたクロソイから270ベクレルのセシウムが検出されており、放射性物質が漏出している疑いもある。」出典はこちら


  


Posted by 松田まゆみ at 10:21Comments(2)原子力発電

2021年03月11日

原発事故から10年

 今日で東日本大震災から10年になる。10年前のあの異様な揺れは今も忘れられない。北海道はそれほど大きな揺れではなかったが異様な長さの地震で、震源地は近くなくても大きな地震に違いないと直感した。プレート境界に位置する日本は太古から大地震や大津波に襲われてきた。しかしマグニチュード9という大地震はそうそう起きるものではなく、観測史上最大級の地震だ。海辺の街に襲い掛かる大津波の映像を見て、その自然の猛威に人々は逃げることしか術がないと実感した。

 それでも地震や津波の被害だけなら日本人は何度も立ち直り復興を果たしてきた。自然災害は無くすことはできない。過去の自然災害の教訓を生かし、被害を減らす努力をするしかない。

 しかし、忘れてはならないのは人災だ。東北地方太平洋沖地震とそれによる巨大津波は4基もの原発の爆発を引き起こし、世界中に大量の放射性物質をまき散らした。その事故は今も継続中で、廃炉の目途さえ立っていない。これは地震大国に原発を作ったことによる人災だ。頻繁に大地震や大津波に襲われてきた国に原発を建てたなら、いつかはこういうことになるのは誰にでも想像できる。だからこそ全国で原発に反対して裁判が起こされた。しかし、政権におもねる裁判官はことごとく原告の主張を退けてきた(一部原告勝訴の判決が出ても、上訴で覆された)。

 では、福島の原発事故を経験してこの国は何か変わったのだろうか? 私にはほとんど変わっていないように見える。福島県では小児甲状腺がんが多発した。転移している事例も多く、医師が手術が必要だと判断した進行がんだ。ところが、これに対しては「過剰診断によって良性のがんを見つけているだけ」という主張がなされ、国連までもが同じような評価をしている。チェルノブイリの事故で認められた小児甲状腺がんは、福島ではその因果関係すら否定されようとしている。その前提に被ばく量の過小評価がある。これについては「study2007」さんが「見捨てられた初期被曝」で指摘しているが、studyさんの指摘もスルーされている。

 被曝の過小評価といえば、宮崎・早野論文がある。東大名誉教授によるスキャンダルとも言える事件だが、マスコミは大きく取り上げることはなかった。これについてはこのブログでも過去に取り上げてきたが、早野氏は黒川氏の指摘に対して回答をしていない。以下、参考記事。

早野龍五氏は物理学者らの指摘に答える責任がある
早野龍五氏の本音は原発推進
宮崎・早野論文の驚くべき不正と隠蔽(訂正と追記あり)
早野龍五氏「見解」の嘘で濃厚になった捏造疑惑

 爆発によって放出された放射性物質は、福島県だけではなく首都圏にまで降り注いだ。原発事故による内部被ばくによってがんその他の病気になったとしても、因果関係の証明はまずできないだろう。事故後の病気の発症率に有意差が出たとしても、個々の病気が被曝由来だという判断はほぼ不可能だ。それを良いことに原子力ムラとその利権関係にある人達によって、原発事故の過小評価が繰り広げられているというのがこの国の実態だ。

 復興を目指して放射性物質で汚染された土壌が大量に発生した。環境省は何とこれらの汚染土の再利用を進めようとしている。タンクに貯まり続ける汚染水も海洋放出が検討されている。汚染されたものは拡散させないという原則すら無視だ。

 チェルノブイリの原発事故は石棺によって一応の収束を見た。しかし同じレベル7である福島の原発事故は10年たった今も継続していている。使用済み燃料プールの燃料の取り出しも2基で終わっただけで、1号機と2号機は手が付けられていない。溶け落ちた核燃料などいつ取り出せるのかも分からない。汚染水も貯まる一方だ。被曝による健康被害がチェルノブイリより少なかったのは、単に放出された放射性物質の大半が風によって太平洋側に流れたという幸運があったからに過ぎない。事故としては福島の方がはるかに深刻だ。

 原発事故という人災については原因究明もその被害も責任もことごとく曖昧にされ、人々が忘れ去るのを待っているかのように見える。しかし、福島第一原発の現場では今も、そしてこれから何十年も事故は継続中だ。避難した人々にとっても以前の日常は戻らない。

 福島の原発事故を受け、脱原発を決めた国がある。その一方で、当事国の日本は未だに原発を稼働している。あの事故のあと、原発に対する国民の意識は大きく変化し、多くの国民が「将来的に、或いはすぐに原発ゼロにすべき」と考えるようになった。しかし、自民党政権や経済界は今も国民の声を無視して原発にしがみついている。この違いは何なのだろう?

 あの大事故を経験しそれがまだ継続中だというのに、10年経ってもこの国の原子力をめぐる利権構造も無責任体質も何も変わっていない。それは政権や原子力ムラだけの問題ではない。原発事故はもうこりごり、原発ゼロに向かうべき、と思っている国民が多いにも関わらず、選挙になれば自公政権が圧勝を続け、脱原発を掲げる政党は支持が伸びない。あの事故を経験したにも関わらず、選挙に行かず自民党圧勝を許している人達は相変わらず多い。脱原発に舵を切れない責任は私たち国民一人ひとりにもあるのだ。

  

Posted by 松田まゆみ at 23:15Comments(4)原子力発電

2019年04月19日

被ばくによる健康被害を「風評」にしてしまう人たちを信じてよいのか

 漫画「美味しんぼ」の作者である雁屋哲さんの4月15日のブログ記事が話題になっている。雁屋さんが、「美味しんぼ」で主人公が福島の取材から帰ってきた直後に鼻血を出すという描写をしたところ、風評だと言われて非難されたことを記憶している人は多いと思う。その後、雁屋さんの周辺で奇怪なことがいくつも起きているという。ツイッターなどをやっていない人は知らない人も多いと思うので、紹介しておきたい。

奇怪なこと(雁屋哲の今日もまた)

 福島の原発事故が起きてから鼻血が出たという話はあちこちで聞かれたし、被ばくとの関係が指摘されていた。被ばく問題に関心を持っている人なら、放射性微粒子が鼻血の原因になることは知っていると思う。

 取材のために福島に行った雁屋さん自身も、福島から帰った直後に突然鼻血を出すようになり、疲労感を覚えるようになった。しかも、福島取材に行った取材班の4人の中の3人が鼻血を出し、その中のお一人は体調が回復せずに歯茎からも出血するようになり、脳梗塞で亡くなられたという。井戸川前町長も「私も鼻血が出ます。今度の町長選の立候補を取りやめたのは、疲労感が耐え難いまでになったからです」、「私が知るだけでも同じ症状の人が大勢いますよ。ただ、言わないだけです」と発言している。これらの個々の症状は被ばくだと断言できないとしても、複数の人に同時に生じていることから、「被ばく」を抜きにして説明できないのではなかろうか。

 ところが、安倍首相はこうした事実を「風評」だといってマスコミを利用して非難した。一国の首相が事実を風評だと決めつけ、事実を語る人を非難することで、被ばくによる健康被害の否定に躍起になっている。狂っているとしか言いようがない。しかし、こうしたことは雁屋さんに限らない。被ばくによる健康被害について言及したり懸念する人たちの多くが、デマ呼ばわりされてきた。さらに汚染地域在住で安心情報にすがりたい人たちがそれに同調してバッシングを繰り広げている。

 福島の小児甲状腺がん多発に関しても、いまだに過剰診断説を唱える科学者や医師やジャーナリストがいる。そして、被災者に寄り添い情報を発信している「おしどりマコ」さんを「放射能デマ屋」だと言って攻撃している科学者もいる。「事実」を否定して嘘デタラメを拡散させ、被災者のために尽力している人を貶めている人はどっちなのだろう?

 残念なことに、こうしたことを知らずにマスコミの垂れ流す情報を信じてしまっている人たちも少なからずいる。若い人たちには安倍政権の支持者が多いというが、雁屋さんの記事を読んで何が正しいのか、こんな状態を黙認していていいのか、もう一度考えてほしい。以下に雁屋さんのブログから最後の部分を引用しておきたい。

一つの国が滅びるときには必ずおなじことが起こります。
支配階級の腐敗と傲慢。
政治道徳の退廃。
社会全体の無気力。
社会全体の支配階級の不正をただす勇気の喪失。
同時に、不正と知りながら支配階級に対する社会全体の隷従、媚び、へつらい。
経済の破綻による社会全体の自信喪失。

これは、今の日本にぴったりと当てはまります。
私は社会は良い方向に進んでいくものだと思っていました。
まさか、日本と言う国が駄目になっていくのを自分の目で見ることになるとは思いませんでした。
一番悲しいのは、腐敗した支配者を糾弾することはせず、逆に支配者にとっては不都合な真実を語る人間を、つまはじきする日本の社会の姿です。


【参考記事】
放射性PM2.5としての原発フォールアウト(セシウムボール)を考える(赤の女王とお茶を)


  
タグ :雁屋哲


Posted by 松田まゆみ at 09:57Comments(4)原子力発電政治・社会

2019年02月11日

早野龍五氏「見解」の嘘で濃厚になった捏造疑惑

 2月8日にOur Planet-Tvが驚くべきニュースを報じた。

千代田テクノルのデータを研究に使用認める~宮崎・早野論文

 第一著者の宮崎氏が、事実を語り始めたようだ。「科学」2月号で7つもの倫理違反が白日のもとに晒され、伊達市や東大の調査も始まった。宮崎氏は事実を語ることを覚悟したように見える。

 著者は伊達市からデータを受け取る前の2015年2月に千代田テクノルからデータを入手し、早野氏はすぐに解析作業をはじめて2015年7月には第1論文の図やグラフがほぼ完成していたらしい。これにはびっくり仰天。

 この記事の最後に掲載されている経緯を引用しておきたい。

2011年 8月  伊達市が千代田テクノルにガラスバッチ による「外部被曝計測」を委託
2012年 8月  伊達市が住民に同意書を送付
2013年 8月  伊達市が千代田テクノルに「データベース構築業務」を委託
2013年10月  伊達市が千代田テクノルに「外部被ばく検査事業集計分析業務」を委託
2014年10月  パリで開催されたIRSNのセミナーに仁志田伊達市長、半沢直轄理事、多田順一郎アドバイザー、早野氏、宮崎氏らが参加。伊達市のビッグデータを解析して論文を書くよう提案を受ける
2015年 1月  宮崎真氏が伊達市のアドバイザーに就任
2015年 2月13日 千代田テクノルが宮崎・早野氏へのデータ提供許可を伊達市長に求める
2015年 2月16日 伊達市長が千代田テクノルにデータ提供を了承
2015年 3月13日 千代田テクノルが「外部被ばく検査事業集計分析業務」成果品を納品
2015年 7月30日 定例打ち合せで、宮崎氏が論文掲載データと同じ図が含まれた資料を提示
2015年 8月 1日 市が福島医大と宮崎氏に研究依頼文書(日付と内容が捏造された可能性)
2015年 8月25日 定例打ち合せで宮崎氏が論文用の依頼文書作成を要望
2015年 9月12日 ICRPダイアログにて早野氏が論文に掲載された図と同じデータを公表
2015年11月 2日 研究計画を倫理委員会に申請
2015年12月17日 倫理委員会が研究を承認


 この経緯から、以下のことが分かってくる。

・伊達市長や著者らがIRSNのセミナーに参加してガラスバッチのデータを解析し論文を書くように提案されたことが論文を書くきっかけ。 → 原子力ムラが大きく関与している。
・伊達市が医大と宮崎氏に論文を依頼する前に千代田テクノルが市長に許可を求めた上で著者にデータを提供。 → 伊達市長の許可で個人情報が流出。
・第1論文の解析が終わって図表が作成されてから倫理委員会に申請・了承。 → 倫理委員会は形だけのものだった。
・早野氏の1月8日付けの「見解」にある「私たちが伊達市から受け取ったデータには同意の有無を判断出来る項目がなく、さらに幾度となく委託元である伊達市側に解析内容を提示した際にも対象者数に関するご意見もなく、適切なデータを提供いただいて解析を行ったと認識しておりました」という説明と一致しない。 → 千代田テクノルから直接データが提供され、それを用いて解析したのだから、この説明自体が嘘。

 これはもう、原子力ムラと伊達市と医大と著者らがグルになっていたという話しになる。しかも、個人情報がそのまま早野氏に提供されたということだろう。委託側と受託側は利益相反の関係であり恣意的な数値操作がなされたとしても何ら不思議はない。

 その後、2月11日になって黒川眞一氏によるまたまた驚くべき記事がハーバー・ビジネス・オンラインにアップされた。

黒川名誉教授緊急寄稿。疑惑の被ばく線量論文著者、早野氏による「見解」の嘘と作為を正す

 何と、黒川氏のレター論文に対し早野氏の方から指摘に一つひとつ答えるのではなくcorrigendum(正誤表、訂正)を提出したいと申し入れ、掲載誌がそれを受け入れていたのだ。ところが、早野氏は「見解」で「正誤表」あるいは「訂正」とは書かず「JPR誌より『修正版を出すように』との連絡を受けました」と書いている。さらに伊達市からデータの再提供を受けて新たな論文を書くことが「修正版」であると説明し、「正誤表」を「別の論文による修正版」へと巧みにすり替えをしたのだ。

 私も早野氏の「見解」に関しては前回の記事で「論文修正に関わる早野氏の欺瞞に満ちた説明」として取り上げているが、レター論文を送った黒川氏本人による早野氏の数々の嘘の指摘は衝撃的だ。

 私は前回の記事で「早野氏が第2論文に対するレターに答えようとしないのは、レター論文のことを知りながら掲載誌がそれを受理する前にデータを(恐らく恣意的に)廃棄してしまったから」と書いた。研究終了の報告書でもデータは10月末で廃棄ということになっているし、早野氏自身が1月8日の「見解」で削除したと記していたからだ。しかし、私は黒川氏のこの記事を読み、早野氏は本当はデータを廃棄していないのではないかと思うようになった。

 早野氏は、掲載誌に対してcorrigendum(正誤表、訂正)で対応したいと申し入れをした。corrigendumというのは誤記などの単純ミスの訂正だ。したがって、論文に単純ミスがあったことを認めそれを訂正すると言っていることになる。さらに「解析プログラム」を見直して被曝線量を1/3に過小評価していたという別のミスも発見している。データを削除していたら、ミスを確認して訂正したり新たな間違いを発見することもできないのではなかろうか? 元データは削除していると言いながら「解析プログラム」は残っているというのも不可解だ。とすると実際にはデータは削除していなかったと考えざるを得ない。

 10箇所もの単純ミスがあったのならあまりに杜撰だが、そもそもそんな多くの単純ミスをするというのは非常に不自然であり不可解だ。データが保存されており、そのミスが誤記や計算間違いなどの単純ミスならば、黒川氏のレター論文に一つひとつ回答できるはずだ。

 こちらの記事では「図の一部に不自然な点があり『線量を過小評価するための捏造が疑われる』」と指摘されている。これらのことかも、単純ミスなどではなく恣意的な数値操作、すなわち捏造によって過小評価がなされたという疑惑はほぼ確定的のように思える。

 宮崎・早野論文問題は宮崎氏の告白と黒川氏の告発によって新たな局面を迎えたように見える。

  


Posted by 松田まゆみ at 21:31Comments(0)原子力発電

2019年02月02日

宮崎・早野論文の驚くべき不正と隠蔽(訂正と追記あり)

 岩波の「科学」2019年2月号に、高エネルギー加速器研究機構名誉教授の黒川眞一さんと福島県伊達市民の島明美さんによる「住民に背を向けたガラスバッチ論文 -7つの倫理違反で住民を裏切る論文は政策の根拠となり得ない」という論文が掲載された。問題にしているのは2016年12月および2017年7月にJournal of Radiological Protection誌に掲載された宮崎真氏と早野龍五氏の二つの共著論文である。

 この宮崎・早野論文では「同意のないデータが使われていた」ことが明らかになりマスコミでも報道された。黒川氏らは伊達市への情報開示請求によって入手した資料を精査し、宮崎・早野論文は文科省と厚労省が定めている「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と照らし合わせて7つもの倫理違反があると驚愕の指摘をしている。

倫理違反と不正の数々

 7つの倫理違反として挙げられているのは以下だ(本文より引用)。

1 医大の研究に自分のデータを提供することに同意していない伊達市民のデータを使用していること
2 研究を実際に始める前に、研究対象者である伊達市民に研究内容を公知せず、同意撤回の機会を与えなかったこと
3 伊達市長室から論文作成を依頼されたことを隠していたこと
4 研究が倫理審査委員会による審査を通り学長による承認を得る前に、伊達市民のデータが宮崎氏と早野氏に提供され、このデータを使った研究発表が早野氏によって行われていること
5 研究計画書に書かれている内部被曝線量と外部被曝線量の相関を調べる研究を発表せず、研究を終了したこと
6 研究終了報告書に研究計画書には書かれていない研究を成果として報告していること
7 倫理指針がデータをできるだけ長期保管するようにと定めているのにもかかわらず、前データを研究終了時に破棄していること


 詳しくは論文をお読みいただきたいが、とりわけ重要と思われる5~7に関して以下に取り上げるとともに、疑問に思うことなどを記しておきたい。

第3論文を書かずに不都合な事実を隠蔽か

 研究計画では4つの予測がなされており、そのうちの3つは第1論文と第2論文として公表された。しかし「個人の外部被ばく線量と内部被ばく線量との間には相関がない」との予測がなされていた研究(第3論文として公表予定)は公表されなかった。その代わりに解析結果を利用した別の論文を公表することで委託業務を終了させたのである。なぜそんなことをしたのか。

 黒川氏らが情報公開で入手した資料中に書かれていた文書をGoogle 検索して、伊達市のホームページ上で見つけを読み込んで検討したところ、外部被ばく線量と内部被ばく線量との間には明らかな相関を認めたという。つまり計画段階での予想とは異なる結果が得られていたことになる。また、2011年と2012年の4,3261人の受検者のうちセシウム検出率は子どもを含めて9.4%あり、4000人が検出限界以上の内部被ばくをしていたとのこと。4000Bq超、6400Bq、5700Bqの内部被ばくが検出された市民がいることも分かった。

 こうしたことから黒川氏らは「第3論文を発表しない本当の理由は、外部被曝線量と内部被曝線量の間の相関がはっきり表れたためであり、2015年になっても数千Bqの内部被ばく者が存在するためと考えられる。伊達市から内部被曝線量のデータを受け取りながら、都合が悪い結果がでたときは論文を発表しないことは研究倫理に反して言わざるを得ない」と指摘している。これは看過することのできない事実の隠蔽であり不正だ。

 研究計画に掲げた論文を提出せず、計画になかった別の査読付き論文を研究成果として提出するという形をとったのは、第3論文を別の論文で代替することで不都合な結果を隠蔽したい、という意図があったとしか考えられない。

黒川氏のレター論文を知って慌ててデータ廃棄か?

 データの廃棄に関しても不可解なことが多々ある。

 黒川氏は論文掲載誌にレター論文を送っているが、この経緯に関しては横川圭希氏がツイッターで説明しており、以下のtogetterの「黒川レターへの早野龍五氏らの反応の時系列」にまとめられている。

「宮崎真・早野龍五論文」掲載「Journal of Radiological Protection」のコメント・リプライの手順について(2019.1.11作成)

 横川氏によると、黒川さんがレター論文を送ったのは2018年8月。9月には宮崎・早野両氏に届いているとの返答が黒川さんにあった。黒川さんがご病気のため12月の半ばに回答をもらうことになっていたが、回答がないために年末にレターを公表とのこと。

 黒川氏らが開示資料を調べたところ、研究計画書では2018年11月末に研究終了としているのに、どういうわけか2018年10月23日に研究終了報告書が提出され、10月末に研究を終了しデータが廃棄されたことが分かった。計画より1カ月も早く研究を終了しデータを廃棄しているのだ。

 伊達市議の高橋一由議員が9月4日の市議会でレターのことに言及しており(追記参照)、横川氏の説明のとおり早野氏が9月中にレター論文のことを知っていたのなら、研究終了を1カ月繰り上げて10月末にデータを削除してしまうというのは訳がわからない。自分の研究に疑問が呈されている以上、それに対する返答のためにデータを保存しておかなければならないのは自明だ。

 これらのことから、早野氏は自分の論文に不正がありレター論文に答えられないためにレター論文の受理(受理は11月16日)に先立って研究を終了させ、データを削除してしまったのではないかという疑惑が生じる。もしそうであるなら、データ削除によって不正の発覚から逃れようとしたことになる。

 データを廃棄してしまえば研究不正があった場合にも検証をすることができなくなる。しかも研究終了と同時のデータ廃棄は倫理指針、学術会議の「科学研究における健全性の向上について」、文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」のいずれにも反する。東京大学教授の早野氏がこうしたことを知らなかったとは考えられず、恣意的な削除だったのではないかという疑惑が深まる。

論文修正に関わる早野氏の欺瞞に満ちた説明

 一方、早野氏は2019年1月8日にツイッターに文書を公表して黒川氏のレターに触れるとともに新たに発見したミスおよび今後の対応についての見解を表明した。この早野氏の文書の概要は以下のようになる。

 11月16日に掲載誌から連絡があり、黒川氏のLetterにコメントをするように求められた。そこで解析プログラムなどを見直したところ、黒川氏の指摘とは別の重大な誤りに気付いた。11月28日に掲載誌に「重大な誤りを発見したので、Letterへのコメントとともに論文の修正が必要と考える」との申し入れをした。これを受け、掲載誌は12月13日に早野氏に修正版を出すように求めた。2018年12月14日に筆者らの二本の論文に不同意のものが含まれていることを報道によって知った。しかしデータを削除してしまったので修正版を出すためには伊達市から同意の得られている方のデータをあらたに提供してもらわなければならない。

 早野氏のこの説明は欺瞞に満ちている。

 早野氏の言う「修正版」は第二論文の修正にはならない。なぜなら、第二論文でつかったデータとは異なるデータを取得して解析をやり直し論文を全面的に書き直す、すなわち新たに論文を書くと言っているのだ。しかし黒川氏のレター論文は宮崎・早野論文の第2論文に対するものであり、掲載誌が著者に求めているのも第2論文の修正だ。早野氏の説明は「修正」について誤魔化しているとしか思えない。

 いずれにしても第1と第2の二つの宮崎・早野論文は多数の倫理違反や不正が明らかになっているわけで、この二つの論文はもはや取り下げをするしかない。

 早野氏は毎日新聞の取材に対し「伊達市から同意のあるデータの再提出を受けられなかった場合、両論文の撤回もやむを得ない」と述べている。しかし伊達市から同意のあるデータの再提出が受けられなかった場合は新たな論文が書けないということであり、第1および第2論文の撤回の理由にはならない。

 以上のことをまとめると、早野氏が第2論文に対するレターに答えようとしないのは、レター論文のことを知りながら掲載誌がそれを受理する前にデータを(恐らく恣意的に)廃棄してしまったからであり、論文を撤回しなければならない本当の理由は倫理違反や不正ということであろう。早野氏はそれを隠して「伊達市が同意のあるデータを再提出しない」と、伊達市のせいにしようとしているのだ。

はじめに結論ありきの研究計画

 予定されていた第3論文を公表しないことで不都合な結果を隠蔽したことから、この一連の研究自体が「はじめに結論ありき」でスタートしていたことが分かる。線量を過小評価するために恣意的な数値の操作が行われていたのであれば、過小評価ははじめから予定されていたと言えよう。研究終了と同時にデータを廃棄し黒川氏のレター論文に回答しないのは、そうした不正を隠すためとしか考えられない。

 それにしても多数の矛盾点や疑問が指摘されるような論文が査読を通ってしまったことも驚きだ。学術雑誌の査読がこんなに杜撰であるなら、論文不正は他にもあるのではないかと疑問が湧く。

 宮崎・早野論文が掲載されたJournal of Radiological Protection誌はヘルシンキ宣言(ヒトを対象とする医学研究に関わる医師、その他の関係者に対する指針を示す倫理的原則)を全面的に支持するとしているのだが、宮崎・早野論文はこのヘルシンキ宣言に反しており、そもそも「刊行のために受理されるべきではない」論文なのだ。

 宮崎・早野論文の倫理違反や線量の過小評価、計算ミスはきわめて悪質であり、科学史上に残るスキャンダルだ。マスコミが大きく報じないほうがおかしい。

責任者は誰なのか?

 ところで、宮崎・早野論文は第一著者(共著の論文で第一番目に名前が記される著者で、研究や執筆に最も貢献度が高い)が宮崎氏で第二著者が早野氏だ。Our Planet-Tvのこちらの記事によると、この論文によって宮崎氏博士号を取得したと書かれている。ならば第一著者が宮崎氏になるのは当然であり、宮崎氏はこの論文の内容を最も理解し最終的な意思決定を下した者と理解できる。第二著者である早野氏は東大教授として宮崎氏の研究の指導にあたる立場といえよう。

 従って、黒川氏のレター論文に答える立場にあるのは宮崎氏ということになる。ところが黒川氏のレター論文に関して見解を公表しているのは早野氏だ。早野氏は1月8日の文書で「主としてデータ解析を担当した早野の見解を述べさせていただきます」と書いているからデータ解析をしたのは早野氏だしその内容を最も理解しているのも早野氏であろう。

 上記のOur Planet-Tvの記事に掲載されている情報公開の資料を見ると、この研究の責任者は福島県立医大放射線健康管理学口座の大津留晶教授となっている。伊達市から研究の委託を受けた責任者は大津留氏だ。宮崎氏は大津留教授と同じ講座の助手であり部下にあたる。そして分担研究者(データ分析)として東大教授の早野氏の名前が書かれている。研究場所も東京大学になっている。

 データを解析したのが早野氏ならば、宮崎氏はデータの解析や論文執筆にどの程度の貢献をしたのだろう? もしデータ解析や意思決定にあたって早野氏の方が主導権を握っていたのなら、第一著者は早野氏にしなければならない。しかし、そうしてしまったら宮崎氏の学位論文にはなり得ない。このあたりのことも矛盾しており不可解としかいいようがない。

 これは単なる私の想像だが、宮崎氏は上司である大津留教授から学位の取得と昇進を持ちかけられてこの研究に関わったが、実質的にデータ解析を行い執筆の主導権を握っていたのは早野氏だったのではなかろうか?

 「人を対象とする医学研究に関する倫理規定」や「ヘルシンキ宣言」についても、医大の教授である大津留氏が知らなかったとは考えにくい。知っていながら、倫理違反に目をつむったということはなかったのだろうか?

 黒川氏と島氏の論文で、宮崎・早野論文の倫理違反や不正は揺るぎないものになった。宮崎・早野論文はもはや取り下げるしか選択肢はなく、宮崎氏は学位を失うことになるだろう。場合によっては失職もあり得る。しかし宮崎氏はこの研究に関しどこまで主導権を握っていたのだろうか? この数々の倫理違反や不正に関する責任は誰にあるのか、明らかにする必要がある。

 東京大学は伊達市民からの申し立てによって調査を進めていると思うが、こうした責任問題についてもきっちりと検証して事実を明らかにしてほしい。

 なお、黒川眞一氏による宮崎・早野論文の日本語訳は以下で読むことができる。

【第1論文】
パッシブな線量計による福島原発事故後5 か月から51 か月の期間における伊達市民全員の個人外部被曝線量モニタリング: 1. 個人線量と航空機で測定された周辺線量率の比較

【第2論文】
パッシブな線量計による福島原発事故後5 か月から51 か月の期間における伊達市民全員の個人外部被曝線量モニタリング: 2. 生涯にわたる追加実効線量の予測および個人線量にたいする除染の効果の検証

黒川氏による宮崎・早野論文(第1論文)の問題点の指摘は以下のWEB RONZAに掲載されている(一部有料)

被災地の被曝線量を過小評価してはならない

【関連記事】
御用学者、早野龍五氏の欺瞞と背景にある利権構造
早野龍五氏は物理学者らの指摘に答える責任がある
早野龍五氏の本音は原発推進


【2月3日 訂正と追記】
 記事中の横川圭希氏のツイートに誤りがあるとの指摘があったためその部分に取り消し線を引いた。レター論文に関する経緯は以下の通りである(黒川氏に確認)。

2018年8月17日掲載誌にレター論文投稿、11月16日“is ready to accept”(著者の応答を待ち、批判的レターと著者からの応答を論文誌に同時に掲載する)となった。12月末になっても著者から応答がなく、2019年1月1日に arxiv.org に掲載された。

 なお、9月4日の伊達市議会で高橋一由議員が宮崎・早野論文について追及した。議事録は以下参照。

 伊達市 平成30年 9月定例会(第5回)議事録

 高橋議員は住民の同意・不同意について質問したほか、データを破棄しないように申し入れ、市側も「データベースはしっかりと保持して、分析していきたいというふうに考えております」と答弁している。しかし、島氏が伊達市に開示請求したところ「事実上不存在」との回答があったとのこと。議会での答弁と一致していない。データには同意・不同意の欄があるので、これを削除してしまえば倫理違反の証拠を消すことができる。

 また高橋議員は黒川氏のレターにも言及しており、市政アドバイザーでもある宮崎氏は9月に黒川氏が宮崎・早野論文に批判的レターを上げたことを知ったと考えられる。著者らが今後、倫理違反が追及されることを恐れ、あるいは黒川氏の批判的レターのことを知って研究終了を繰り上げ、不都合なデータを削除したという疑惑は消えない。

黒川氏のレターに言及している質問部分を以下に引用しておく。

◆16番(高橋一由) ぜひそのようにお願いしたいと思います。
 それから、研究計画書にも書いてあるのですが、市民に周知するべき論文を日本語に直して、市民に提示することが大事なのではないかと。我々だって全然知らないまま、どういう中身なのかもわからなくて、伊達市がお願いした論文が世の中に出回るのですね。そうすると、それはやはりかなりインターネット上でも検索されていることがわかっているし、これがひとり歩きしていって、最終的に伊達市のせいになどされると困るので、実は、黒川眞一氏は批判のレターを上げています。ですからそのこともどういう結果になるかということもちゃんと見守って、正しい論文にしていく必要があるだろうというふうに思っていますから、今のデータ保持は重要になりますので、どうぞぜひよろしくお願いしたいという思いです。


【2月4日追記】
 一部の説明に不正確なところがあったので、加筆修正した。

 2月4日にハーバー・ビジネス・オンラインに掲載された牧野惇一郎さんの記事も紹介しておく。

宮崎早野論文を、「削除はするが問題はない」とした放射線審議会の異常さ
  


Posted by 松田まゆみ at 09:56Comments(0)原子力発電

2019年01月21日

早野龍五氏の本音は原発推進

 宮崎真・早野龍五両氏による論文不正疑惑に関しては前回の記事で取り上げた。その後、Our Planet-Tv で著者である宮崎真氏と伊達市の職員が2017年4月24日に面会し、不同意のデータは使用しないという確認を取っていたことが報じられた。

1年半前「同意のみ使用」確認~宮崎・早野論文問題(Our Planet-Tv)

 早野氏は「同意なし」のデータを使っていたことを知ったのは昨年12月と言っていたが、著者らは同意なしのデータを使っていたことを認識していたとしか考えられない。いったいどうなっているのだろう。

 ところで、2013年6月13日に書いた「御用学者、早野龍五氏の欺瞞と背景にある利権構造」という記事(さぽろぐ版)に寄せられたコメントの中に非常に重要な指摘があるので、改めてここで紹介しておきたい。以下に読みやすいように一部改行などに手を加え、重要な部分を太字にした上で転載する。

**********

早野龍五氏の本音は以下のurlで知ることができます。

http://www.researchsea.com/html/article.php/aid/8440/cid/6/research/people/researchsea/should_the_japanese_give_nuclear_power_another_chance_.html

要点は以下の通りです。

In 2012, Professor Ryogo Hayano, a physicist from the University of Tokyo, joined Dr. Tsubokura in Minami-Soma Hospital and invented BABYSCAN technology, a whole-body scanning to measure radiation in small children as well as to allay the fears of Fukushima parents.

“BABYSCAN is unnecessary but necessary. It is unnecessary because we know that the radiation is low. But it is necessary to assure parents that their children are going to be okay,” said Prof. Hayano.

After witnessing the fears of the Fukushima people, Prof. Hayano thinks that nuclear power is no longer appropriate for Japan. He believes that the government should shut down nuclear power plants.

“As a scientist, I know that nuclear power is safe and cheap. But looking at the public’s fear in Fukushima, I think it should be phased out,” said Prof. Hayano.
Posted by SB at 2014年12月28日 19:11



先ほど投稿した文章は英語でしたので、日本語による解説を行います。原典は、SjCOOPという発展途上国の科学ジャーナリストを支援するプログラムに際して書かれたものです。英文の記事であり、あまり目に触れるようなものではないので、早野龍五氏も本音を出したものだと思います。

早野氏の考えは、

(1) 自分は科学者として、原発は安全で安価だと思う。

(2) しかながら、福島の人々の放射能にたいする恐怖を考えると、原発はもはや日本にはそぐわないものであるので日本政府は原発をシャットダウンするべきである。

(3) 早野氏が開発したBABYSCANは本当は不要なものである。何故ならば福島の放射線レベルは低いからである。しかしながら、親たちを安心させるためにはBABYSCANは必要である。

この考えの論理的な帰結は以下のようになります。「人々が放射線は怖くないことを知れば、原発は当然動かすべきである。なぜならば、原発は本来安全で安価であるからだ。人々は科学者のような知識を持っていないので、大いに教育をし、放射線は無害であり、こわくないことをしらしめるべきである。私はこのためにがんばっていますよ。」

Posted by SB at 2014年12月28日 22:05



私が早野氏言葉の中で(引用符の中に書かれた部分です)最も違和感を持つところは

As a scientist, I know that nuclear power is safe and cheap.

という部分です。

この発言には、科学者だから庶民と違って正しい判断ができるという高慢至極の考え方が透けて見えるがらです。福島の事故に真摯に向き合い、真面目に原発についての勉強をすれば、原発は安全で安価だなどということを言えるはずはありません。このような学者が、新潮文庫で「知ろうとすること」という本を書き、それがベストセラーになる日本という国はどうなってしまったのでしょうか。

なお、私も職業的科学者であることをお知らせいたします。
Posted by SB at 2014年12月31日 23:35



福島第一原発事故の放射線被害について調べているうちに、高橋博子著「封印されたヒロシマ・ナガサキ」の存在を知り、さきほど初版を読み終わったところです。緻密な調査に基づく労作であり、多くのことを教わりました。この本を高く評価いたします。
福島の状況は、この本の最終章の一節「アイゼンハワー政権下での放射線被曝防護行政」そのものであると思います。以下、私が重要と思う部分を引用いたします。

引用
「被曝線量値そのものは、医療、社会、経済、政治などの種々の要素に基づく決定であって、数学的公式に基づいて決定できるような性格ではない。したがってバランスのとれたリスクの決定とは、労働者の場合には他の産業でのりすくと比較する方法が有効で、公衆の場合は、自然放射線からの被曝量も考え得るが、むしろ交通事故のリスク、あるいは産業廃棄物からの汚染のリスクを比較するのがよい」と勧告した。
第二に、「議会内の核軍拡・原子力開発の推進派と手を結んで公聴会を開催して推進派の科学者を総動員し、ファールアウト批判を抑え込むこと」である。
第三に、「学術機関の権威を使って、放射能不安が根拠のないものであるという評判を定着させること」であった。
引用終わり

さらに、「ガイ・オークスが指摘するように、政府にとって国民は終始一貫して心理作戦の対象でしかなかった。」とこの節がまとめられております。

著者はまた、本の後書きに、核兵器は人類の発明した最悪の兵器だと思っていた。(中略) マンハッタン計画に従事していた時、物理学者ハンス・ベーテ博士は「クラスファイド・スタンプは人類の発明した最も強力な兵器である」とラップ博士に語った。
と記しております。
Posted by SB at 2015年01月03日 18:45


**********

 早野氏は、「原発は安全で安価なもの」と捉えているようだ。日本の原発は廃炉にすべきと言っていても、その理由は「危険だから」ではなく「人々が無知で放射能を怖がるから」なのだそうだ。この思考は原発推進論者そのものだ。しかし、チェルノブイリや福島のレベル7という過酷事故を経験してもまだ原発は安全と考えているなら、信じがたい。核廃棄物の処理や廃炉、安全対策などにかかる莫大な経費などを考えたら、原発は決して安価ではないことは自明だ。こんなことを科学者が平然と述べているとは驚きを禁じ得ない。

 さらに早野氏は、福島では放射線が低いので、両親に子どもが大丈夫であると安心させる必要がある、と考えているらしい。これは安全論を振りまいて安心させることで住民に被ばくを強いていることになる。チェルノブイリでは被ばくによる小児甲状腺がんが多発した事実があり、福島でも悪性の小児甲状腺がんが多数確認され手術が行われているというのが歴然とした事実だ。被ばくとの因果関係が証明できないからといって、被ばくの影響を無視することはできない。安易にこのような発言をすることに、人としての神経を疑う。早野氏と同じような主張をしているのが「ニセ科学批判」のリーダーである大阪大学の菊池誠氏であることも付け加えておきたい。

 今回の宮崎・早野論文の結論は、原発推進の早野氏の思惑通りのものになっている。しかし、その論文には早野氏自身が認める過小評価があり、ほかにも多数の矛盾や間違いの指摘がある。だからこそ、そこに恣意性があるのではないかと疑われるのだ。正直いって、私はこの宮崎・早野論文は科学論文という形をとった原発推進派によるプロパガンダではないかと疑っている。SBさんが最後のコメントで指摘している「心理作戦」とも言えよう。

 宮崎・早野論文は「不同意データの使用」が明らかになっているので、掲載誌から取り下げの勧告を受けるのは時間の問題だろう。しかし、論文が取り下げられたとしても、複数の科学者によって指摘されている誤りや矛盾について著者らがきちんと説明しない限り、「科学論文を利用した原発推進派によるプロパガンダ」という疑いは晴れない。不同意データの使用だけでも大問題だが、もし論文作成に際して被曝線量を過小評価するために恣意的な数字操作等が行われていたのであれば、STAP細胞の件より遥かに悪質な論文不正でありスキャンダルだと思う。

 なお、この件についてはさつきさんも問題点を具体的に指摘している。

「宮崎・早野論文事件」について(メモ:その1)
「宮崎・早野論文事件」について(メモ:その2)
「宮崎・早野論文事件」について(メモ:その3)
  
タグ :早野龍五


Posted by 松田まゆみ at 11:52Comments(0)原子力発電

2019年01月10日

早野龍五氏は物理学者らの指摘に答える責任がある

 早野龍五氏については以前、こんな記事を書いた。

御用学者、早野龍五氏の欺瞞と背景にある利権構造

 この記事で取り上げている早野龍五氏の論文は2013年のこちらのものだ。さらに昨年末になって、2017年に英科学誌に発表された早野氏らの二つの論文で本人の同意のないデータが使われたことや捏造疑惑が報じられた。

 早野氏は東京大学名誉教授であり、福島の原発事故以降、福島の汚染はたいしたことはなく健康への被害はないといういわゆる「安全論」を流布していた。しかし、早野氏らの論文にはその「安全論」の根幹を揺るがしかねない重大な問題があることが発覚したのだ。

 今回の早野氏の論文や姿勢に関する問題点について、一般向けに分かりやすく解説しているのが牧野惇一郎氏によるこちらの記事だ。

データ不正提供疑惑・計算ミス発覚の個人被曝線量論文。早野教授は研究者として真摯な対応を(ハーバー・ビジネス・オンライン)

 早野論文に関しては複数の問題があるのだが、一つは同意を得られていない住民のデータを使っていたことにまつわる問題。牧野氏は『論文に「データ処理はこうした」と書いてあることと、実際のデータ処理の結果に明らかな矛盾があります。また、「適切なデータを伊達市から受け取ったという認識で対応していた」という早野氏の回答は、市の担当者の答弁とは矛盾するものです』と指摘している。データの受け渡しに関しては第三者による検証が欠かせないだろう。

 もう一つは計算ミス。牧野氏はこのミスを『極めて初歩的なミスであり、意図的でなくこんなミスをするのは論外である一方、意図的にやったのであればあまりに下手なやり方であり、どちらにしても研究の質を疑わざるを得ないものです』としている。

 そして、報道を受けて発表された早野氏の見解にまつわる問題。黒川眞一氏は2018年8月に雑誌編集部に問題点を指摘するレター論文を送っており、査読が済んで11月16日に ready to accept となっている。また、この時点で著者にレター論文が示されている。レター論文では10箇所近い誤りが指摘されている。しかし、現時点で早野氏は黒川氏の指摘に何ら答えていない。

 さらに牧野氏は、早野氏が福島の原発事故以降、ツイッターで次々と間違った情報発信と過去の改ざんを続けていたと指摘している。これが福島安全論を拡散していた科学者の正体ということだろう。科学者としての資質が疑われる。もちろん早野氏に同調し擁護し続けている菊池誠氏も同じだ。

 なお、早野氏の論文の問題点については、ツイッターで複数の方が具体的に指摘している。

【KEK 名誉教授 黒川眞一さんによる宮崎真・早野龍五論文に対するコメント(間違いの指摘)】関連ツイートまとめ(2019.1.1作成)

2019.1.8報道【『宮崎真氏早野龍五氏論文』修正へ】の論文修正・問題点認識の不誠実さ

 これだけの問題がある以上、早野氏は最低限でも物理学者らから提示された問題点に誠実に回答する責任がある。何しろ、早野論文は福島安全論の根拠にされているのだから責任は極めて重い。

 さて、1月9日になって早野氏は毎日新聞に対し「伊達市から同意のあるデータの再提供を受けられなかった場合、両論文の撤回もやむを得ない」と述べている。

「同意あるデータ再提供なければ撤回も」早野・東大名誉教授 原発事故論文で(毎日新聞)

 これだけ疑問が噴出している論文なのだから、撤回は当然だろう。ただし、早野氏は不同意データが使われていたことを撤回の理由としているだけで、黒川氏からの指摘に関しては口を閉ざしている。私は、早野氏はもはや黒川氏をはじめとした物理学者らの指摘に誠実に答える気がない、というか答えられないので白旗を掲げたのではないかと感じた。つまり撤回表明によって説明責任を逃れようとしているように思えてならない。そうでないのなら、科学者として黒川氏らの指摘に誠実に答えてほしい。

【1月21日追記】
 黒川氏のレター論文に関する記述に誤りがあったため修正した。


  
タグ :早野龍五


Posted by 松田まゆみ at 22:23Comments(0)原子力発電

2017年12月16日

破局噴火と原発

 12月13日に、広島高裁は四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを命じる決定をした。原子力規制委員会の策定した「火山影響評価ガイド」では原発から160キロ内にある火山を対象に、火山活動の可能性や噴火規模を推定し、原発稼働時の安全性を評価するように定めている。推定できない場合は、過去最大の噴火規模に照らし火砕流などの影響を評価するように確認している。

 伊方原発は熊本県阿蘇カルデラから約130キロに位置しているので、「火山影響評価ガイド」に従って火山活動の可能性や噴火規模を推定しなければならない。高裁は、阿蘇カルデラの約9万年前の破局噴火による火砕流に言及して、立地に適さないとした。今回の決定は「画期的」「歴史的判決」などと評価されているが、火山影響評価ガイドに照らし合わせたごく当然の判断だろう。この当然の判決が「画期的」ということは、今までの原発訴訟がいかに科学をないがしろにしたものだったかを物語っている。

 川内原発の火山影響評価で九州電力および規制委が「運用期間中(核燃料が存在する期間)に、設計対応不可能な火山事象によって、本発電所の安全性に影響を及ぼす可能性について十分小さい」と判断してしまったことの方が妥当性を欠く。これは科学を無視した「再稼働ありき」の結論だ。

 今回の広島高裁の決定に対し、ツイッターなどでは、阿蘇カルデラの破局的噴火を想定するなら原発より九州が壊滅状態になることの方が重大事だという意見が散見されて驚いた。

 確かに破局噴火が起きれば、九州どころか日本が壊滅状態になりかねない。具体的にどんな状態になるのか。神戸大学海洋底探査センター巽好幸教授の記事が参考になる。

最悪の場合、日本喪失を招く巨大カルデラ噴火

 「巨大カルデラ噴火」「破局噴火」などと呼ばれる大規模噴火で直近のものは7300年前の喜界カルデラ噴火だが、この噴火は南九州の縄文人を絶滅させ、火山灰は東北地方にまで達したという。そして巨大カルデラ噴火は今後100年間に約1%の確率で発生するとされている。早い話し、いつ起きてもおかしくないということになる。2万9000年前に鹿児島湾を作った姶良カルデラ噴火を参考に、九州中部で巨大カルデラ噴火が起きたと想定するとどうなるか。

数百℃の高温の火砕流は2時間以内に九州のほぼ全域を焼き尽くし、関西では50センチメートル、首都圏は20センチメートル、そして東北地方でも10センチメートルの火山灰が降り積もる。ここで重要なことは、10センチメートル以上の降灰域では、現在のインフラシステム(電気・水道・ガス・交通など)は全てストップすることだ。つまり、この領域に暮らす1億2000万人の日常は破綻する。しかもこの状況下での救援活動は絶望的である。

 ここまでの規模にならないとしても、九州の部分的な壊滅はあり得るし、偏西風によって火山灰が四国や本州に流されることを考えれば、被害面積は相当なものになるだろう。農地は火山灰に覆われ、日照も妨げられるから食糧危機にもなる。果たして日本人がどれだけ生き残れるかという状況になるかもしれない。

 巨大カルデラ噴火そのものだけでも大変なことになるが、火砕流が原発を襲ったらどうなるのか? 「川内原発を襲う、カルデラ噴火【日本壊滅のシナリオ】」という記事ではこんなことが指摘されている。

「数百度の熱を帯びた火砕流が川内原発敷地内まで到達する可能性があります。そうなれば、原発自体が破壊されるのはもちろんのこと、原発作業員も全員火砕流でやられてしまいます。火砕流と放射能で、外部から救助にも原発の収束作業にも入れないという恐ろしい事態になってしまうのです」

「噴火に伴う原発事故の場合、火山灰に放射性物質がくっついて、風に乗って全国に降り注ぐことになります。しかもカルデラ破局噴火の場合、日本最大の地上の火山である富士山と同じくらいの体積の降下物が飛散します。それだけの降下物が放射能を伴って日本中に降り注ぐ可能性を考えないといけません」

 手のつけられなくなった原発がメルトダウンし暴走を始めるのは目に見えている。福島第一原発の事故では格納容器が破損したものの形は留めており作業員が懸命に被害の拡大を防いだ。しかし、高熱の火砕流が襲ったら格納容器も燃料プールも破壊されて大量の放射能をばら撒くだろう。そして、とめどなく放出される放射能が火山灰とともに偏西風に乗って日本中に拡散され続けるのだ。飛行機も飛べないし、なす術がない。福島の事故とは比べ物にならないような汚染が広がるだろう。

 九州には巨大カルデラが複数あり、160キロ以内に川内原発、玄海原発、伊方原発がある。これらの原発が1基メルトダウンしただけでも恐ろしいが、同時に複数の原発が破壊されることもあり得る。それだけではない。日本中に火山灰が降り注ぎインフラシステムがダウンしたら日本列島の他の原発も制御できなくなる可能性がある。考えただけでも恐ろしいが、日本列島は死の島になるだろうし世界中が深刻な放射能汚染にさらされるだろう。

 いつかは分からないが破局噴火は必ず起きる。これまでは地震や噴火の静穏期にあったが、今は活動期に入ってきていると言われている。とするなら、破局噴火の時期はそう遠くないかもしれない。そのときに原発が巻き込まれるか否かで難を逃れて生き残った人たちへの影響が大きく異なってくることは間違いない。

 利己的な人間は、しばし自分の生きている時代のことしか考えない。自分が生きているうちには破局噴火などないだろうと他人事のように考えている人が大半だと思う。だからこそ地震大国・火山大国である日本に54基もの原発建てられてきた。しかし、2011年にマグニチュード9という超巨大地震が日本を襲い、福島第一原発は3基もの原子炉がメルトダウンし、今も収束の目途は立っていない。私自身、生きている間にこんな巨大地震が日本を襲うなどとは考えたこともなかったが、それがいかに甘い考えだったかを痛感した。

 プレートの縁に位置する日本では、巨大地震や巨大津波、巨大噴火がいつ起きてもおかしくない。そして、その度に原発事故に怯えなければならない。もはや原発がなければ電気が足りないなどという主張が幻想であることははっきりしている。それにも関わらず原発にしがみつき、国土のみならず世界中を放射能汚染させてしまうのなら、あまりに利己的で無責任というほかない。

 人類はいつか必ず起きる破局噴火を防ぐことはできない。ならば、自然災害に伴って世界中に放射能をばら撒く愚かなことだけは何としてでも防がなければならない。そのためには一日でも早く原発を停止して廃炉にするしかない。あとは(破局噴火は手に負えないとしても)できる限り大噴火の予知に努め、被害を最小限に食い止める工夫と努力をするしかないだろう。 
  


Posted by 松田まゆみ at 15:02Comments(0)原子力発電