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鬼蜘蛛の網の片隅から › クモ › 高嶺の鬼蜘蛛

2007年06月24日

高嶺の鬼蜘蛛

高嶺の鬼蜘蛛
 高山植物のことを「高嶺の花」ということがあります。気象条件の厳しい高山帯で、短い夏を謳歌するように可憐な花をつける高山植物は、まさに「高嶺の花」。ただし、これを盗掘して売る人にとっては「高値の花」ですが・・・。

 ところで、クモにも「高嶺の蜘蛛」、要するに高山性のクモがいます。氷河時代は大陸とサハリン、北海道は陸続きになっており、大陸の北部に棲んでいたクモが北海道にも移動してきました。氷河時代が終わり温暖化していくと、海水面が上昇して北海道とサハリンの間には海峡ができ、そのようなクモは高山に取り残されてしまったのです。氷河時代に北から日本に移動してきたものの、高山帯にとりのこされてしまった生物を、「氷河時代の生き残り」なんていいますよね。

 さて、そのような「高嶺の蜘蛛」のひとつにマツダタカネオニグモというクモがいます。北アメリカやユーラシア大陸北部にこのクモの近縁種が生息しています。もとは同じ種だったのでしょう。

 マツダタカネオニグモが確認されているところは大雪山国立公園内の2つの地域だけです。高嶺という名がついていますが、「高山帯」ではなく、もう少し低いところに棲んでいます。高山にもいるかも知れないのですが、現時点では確認はされていません。

 では、どんなところに生息しているかというと、岩塊地なのです。岩塊地の岩と岩の間に円い網を張っています。そして体の色や模様が岩についている地衣類にそっくり! 網を張っていると見つけやすいのですが、岩に止まっていると本当にどこにいるのかわかりません。

 このクモが新種記載されたのは1994年で、分布や生態などを詳しく調べている人はいませんから、実態がよくわかっていません。そして成体が見られる季節は5月下旬から6月頃。岩場で粘っていると、雄のクモが雌の網にやってきて、プロポーズしているところが観察できます。生息地の岩場では、小さいクモ(幼体)は比較的多く見られるですが、成体はそんなにたくさんはいません。それで、環境省のレッドリストにも掲載されています。

 何万年も前に大陸からやってきた小さな生物が、氷河時代が終わってから1万年の間、ごく限られた岩塊地でずっと生きてきたのかと思うと、その生命力の強さに感心させられます。でも、1万年間生きてきた生物でも、ちょっとした環境の変化などでいなくなってしまうこともあり得るのです。自然とはそういう微妙なバランスのうえに成り立っています。そして、今の時代は、人間がつねに「環境の変化」をつくりだしているといえます。だから、「1万年間生き続けてきたのだから、簡単に絶滅などしない」などとは誰もいえないのです。


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Posted by 松田まゆみ at 22:12│Comments(5)クモ
この記事へのコメント
鬼蜘蛛おばさん こんばんは


【「高嶺の蜘蛛」のひとつにマツダタカネオニグモというクモがいます。】
は鬼蜘蛛に詳しい鬼蜘蛛おばさんこと「松田まゆみ」様が最初に発見
された蜘蛛と推察したのですが如何でしょうか?
ナキウサギのように氷河時代の生き残りなのですね。

生物は高校時代に大好きだったのですが、進学は電気を選び、通信
機器製造会社に入社、暫らく生き物のことを忘れていましたが、2001
年8月 日野市の「自然観察会 夜の鳴く虫を楽しむ」に参加以来、
秋の鳴く虫に興味を持ちました。現在は書斎の出窓で邯鄲が鳴いて
います。今日、マツムシの雄も羽化してたので一週間以内には鳴き出
すでしょう。

車庫の引戸の外側に鬼蜘蛛と思われる蜘蛛が毎晩のようにアミを張り
スリガラスの向こうに大きく見えています。こういう時は、戸を開かず
「オヤスミ」と言って、そっとして置いています。
Posted by 邯鄲のゆめ at 2007年06月28日 21:56
邯鄲のゆめ 様

 ご推察のとおり、最初に発見したのは私です。というより正確に言うなら、私と娘の二人で岩塊地に調査に行ったとき、見つけました。一目見ただけで、これはたぶん日本では記録されていないクモだとわかりました。

 そのときは幼体しかいなかったのですが、そのあとで成体のクモを採集して、新種として記載されることになりました。生物の名前に自分の名前がつくというのは、光栄なのでしょうけれど、その反面なんだか恥ずかしいですね。

 オニグモは夜行性で、夕方に網を張って夜のあいだ活動し、昼間は網の近くに隠れています。網があまり邪魔にならなければそっとしておいてあげてください。

 もう、鳴く虫たちが羽化する季節なのですね!
Posted by 松田まゆみ at 2007年06月29日 08:49
はじめまして。私は双翅目屋なので、私が北大苫小牧研究林のクロヤマアリの巣の近傍で採集して分類屋の友人に届けたハナアブ科アリノスアブ亜科のハエが未記載種であったため、光栄にも学名に献名してもらう機会を得ました。『札幌の昆虫』に出ているコマチアリノスアブの学名、Microdon murayamaiがそうです。ハエはまだまだ未記載種がたくさんあるので、これからもこういう機会が多々ありそうです。
Posted by 村山茂樹 at 2013年03月12日 18:24
村山茂樹さん、はじめまして。

「札幌の昆虫」は北海道の昆虫を調べるのにとても役立つので私もよく利用していますが、村山さんはコマチアリノスアブの発見者だったのですか。

昆虫でもハエやハチなどはまだまだ未記載種がたくさんありますよね。クモも、種名が分からず不明種としているものが私の手元にもたくさんあります。その中には未記載種もあるでしょう。早くなんとかしなければと思うのですが、既知種か未記載種かを調べるのがまず大変です。
Posted by 松田まゆみ at 2013年03月12日 20:10
ハエは、特にイエバエ科に未記載種の候補が手元にたくさんストックされています。ハナレメイエバエ属やトゲアシイエバエ属は日本国内の解明度がまだまだ低いので、念入りに調べる必要性を感じています。
Posted by 村山茂樹 at 2013年03月12日 20:55
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