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2009年08月06日

新しいクモ図鑑が発売

新しいクモ図鑑が発売



 昨日「日本産クモ類」(小野展嗣編著 東海大学出版会 税込価格33,600円)が届きました。実はこの図鑑が企画されたのは1999年。10年を経て出版にこぎつけました。お値段は張りますが、各論だけでなく概論、カラー写真の口絵、撮影法や研究手法まで扱っていて内容はとても充実しており、クモを調べる人にとっては必携の図鑑です。

 この図鑑の最大の特徴は、何といっても日本産のクモのほぼ全種について生殖器を図示しているということでしょう。これまでもいくつかクモ図鑑が出版されていますが、一冊で全種の同定ができるようなものはなかったのです。ですから、図鑑に載っていないクモを調べる場合、あちこちから論文を引っ張り出して・・・というなかなか大変な作業をやっていたのです。とりわけ種数の多いサラグモ類を調べるのは大変なことで、サラグモというだけで諦めてしまう方も・・・。この本によって、同定の作業がかなり楽になりそうです。

 この図鑑は今までに日本で記録された64科1,496種のクモを掲載しているのですが、約1,500種という種数には感慨深いものがあります。今から32年前の1977年に八木沼健夫先生が作成された日本産真正蜘蛛類目録では、日本産のクモは48科914種だったのです。その頃から、日本のクモは1,200種くらいだろうとか、1,400種くらいいるかも知れないなどと憶測が飛び交っていました。そして八木沼先生が1989年に作成された目録は52科1,111種。その後も順調?に増え続け、今回の図鑑では64科1,496種が掲載されたのですから。

 この20年間で385種ものクモが新たに記録されたんですね。日本のクモはすでに解明されていると思っている方が多いかもしれませんが、決してそんなことはないのです。日本のクモの分類は、今でも発展途上といっていいでしょう。大半のクモはこの新しい図鑑で同定できますが、種名が未決定で図鑑には掲載できなかったものもあります。確実にこれからも増えていきますから、日本には1500種以上のクモがいることになります。

 クモの場合、よほど特徴的な種以外は、同定にはどうしても実体顕微鏡による生殖器の確認が必要なのです。約1500種の生殖器の図が掲載された専門書ですから、基礎知識のない一般の方がクモの名前を調べようと思ってこの図鑑を手にしても、使いこなすのは大変でしょう。まず、口絵の写真や他の写真図鑑などで見当をつけてから、解説と図版に当たるのが賢明ではないかと思います。

 それにしても、このような紙によるクモ図鑑は恐らくこれが最後になるのではないでしょうか。私もサラグモの一部を担当したので、このような図鑑の制作や編集作業がいかに大変であるかを垣間見ることができました。これからは専門的で小部数の出版物はデジタル化が進むのではないかと思います。それでも、顕微鏡を覗きながらの同定作業の場合、紙に印刷された図鑑が一番であるのはいうまでもありません。


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Posted by 松田まゆみ at 15:07│Comments(7)クモ
この記事へのコメント
嗚呼!33,600円・・・。( @@;)
専門書ですので高そうとは思いましたが値段の桁を改めて
見てビックリしました。(^^;)
以前、本屋で買おうか止めとこ・・・か迷った挙げ句に
5000円か6000円の値段の辞書を購入した事があります。
この辞書には主だった単語が10カ国翻訳されて書かれて
いましたのでネーミングを創る時の参考にすべくその時
持っていた全財産?を投げ出しました。(^^;)
今は・・・相当ほこりまみれ・・・です。(^^;)
Posted by 北の旅烏 at 2009年08月07日 11:53
北の旅鳥様

そうですよねえ。確かに3万を超える書籍はあまりありませんから。

図鑑の校正をしてつくづく思ったのですが、多数の図版・学名や英語の文献などが入った本というのは、編集が本当に大変なのです。文字が主体の本とは手間隙がまったく違います。それだけ、編集や校正などにお金がかかっているということなんですね。

しかも、専門書ですから発行部数は多くありません。当然、一冊あたりの単価は高くなってしまいます。ちなみに「写真日本クモ類大図鑑」(千国安之輔著、偕成社)という写真図鑑(生殖器も掲載)は、540種が掲載されていて308ページですが、税込み価格は28,840円です。

「日本産クモ類」は738ページ(函の厚さは4.5センチほど)でカラー口絵もあり、なんといってもほぼ全種の図が掲載されているのですから、この価格も仕方ないかな・・・と思います。1500種の生殖器の図が掲載された図鑑というのはなかなか圧巻で、それだけでもクモ屋さんにとっては大きな価値があるのです。なお、著者割だとかなりお得な価格で入手できます。
Posted by 松田まゆみ at 2009年08月07日 19:46
流石に専門書となれば高価ですね。
松田まゆみ蜘蛛博士でしたらお似合いの本ですよ。
それにしても、蜘蛛って多種多様 いーっぱいいるんですねえ。
これからも、面白い蜘蛛珍しい蜘蛛変わった蜘蛛変わった蜘蛛etc
紹介してくださいね、楽しみにしております。

爺ィも道楽で中国語を始め、小さな辞書で物足りず
“中国語大辞典”大東文化大学教授 香坂順一(上下2巻)編纂主幹を
6年前 50485円で買いました。
Posted by jijii at 2009年08月08日 15:32
jijii様

多くの方は日本に1500種ものクモがいるなんて思っていないでしょうね。でも、日本は南北に長く、亜熱帯のような沖縄から亜寒帯ともいえる大雪山の高山帯まであって、生物多様性にはとても富んだ国なんですね。まだまだ新種や新記録種が発見されると思いますよ。

何事も、深く追求しはじめると専門的な本が必要になりますよね。jijii様の向学心にも関心させられます。
Posted by 松田まゆみ at 2009年08月08日 17:30
はじめまして。
子どものころの蜘蛛キライを克服して、大人になってからは観察の対象として愛でております。
たまに夢で大きなクモが蠢いているのを見てうなされますが。
専門書籍は高いのですね。またこれだけの投資をしないと「同定」なんてことはできないんですね。
ハンディ図鑑片手に蜘蛛を見ては首をひねっているオヤジの戯言でした。
Posted by おなら出ちゃっ太 at 2012年02月03日 16:18
図鑑があれば同定できるということではないんですね。専門書を使いこなすためには、やはり予備知識がなければ無理です。それに実体顕微鏡も不可欠。
まずは、ハンディ図鑑で楽しみながら知識を深めるのが大切かと思います。
Posted by 松田まゆみ at 2012年02月03日 22:13
アドバイスありがとうございます。
まあ私は専門家でもありませんので、あまり細かく調べずに、楽しみの範囲で「同定」していきたいと思います。
ちなみに、昨年の10月、愛媛県の松山に出張で行きました。
たくさんのジョロウグモを見て嬉しくなってしまいました。
北海道では見られない色彩ですものね。
Posted by おなら出ちゃっ太 at 2012年02月06日 17:07
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