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鬼蜘蛛の網の片隅から › 原子力発電 › 環境省による福島県外の甲状腺検査を考察する(追記あり)

2013年03月09日

環境省による福島県外の甲状腺検査を考察する(追記あり)

 昨日、環境省によって弘前市、甲府市、長崎市の3歳から18歳の4365人を対象とした甲状腺検査の結果が発表された。

福島県外3県における甲状腺有所見率調査結果(速報)について(お知らせ) (環境省)

 今回の結果(平成24年度)は以下。括弧内は福島の数値で、平成23年度と24年度。

A1  42.4% (64.2%・55.8%)
A2  56.6% (35.3%・43.6%)
B   1.0% (0.5%・0.6%)
C   0.0% (0.0%・0.001%)

(注)A1-結節やのう胞を認めなかったもの、A2-5.0ミリ以下の結節や20.0ミリ以下ののう胞を認めたもの、B-5.1ミリ以上の結節や20.1ミリ以上ののう胞を認めたもの、C-甲状腺の状態等から判断して、直ちに二次検査を要するもの。

 この結果について、NHKでは環境省の「福島の結果が原発事故の影響によるものとは考えにくいことが分かった。この結果が不安の解消につながることを期待したい」というコメントを報じた。

子どもの甲状腺検査 福島県以外と同じ(NHK)

 しかし、今回の「のう胞や結節の割合が福島と同じ傾向」という結果だけでは、「福島の結果が原発事故の影響かどうか」は分からない。

 このデータから分かるのは、原発事故後の同じ性能の機器による検査で、福島県外の子どもでも福島の子どもと同程度(厳密に言えばむしろ高い)の割合でのう胞や結節が認められたということだけである。同じ条件・精度による事故前の検査データがないので、この結果だけでは事故による被ばくが今回の検査結果に関係しているか否かの判断はつかない。

 弘前、甲府、長崎の子どもたちののう胞や結節が事故と関係がない良性のもので、そもそも日本の子どもはこの程度の割合でのう胞や結節を保有しているという可能性は十分に考えられる。しかし、福島ではすでに3人が甲状腺がん、7人ががんの疑いがあるのだから、福島ではがんの発症率が非常に高いというのは事実だ。福島の場合は事故による被ばくががんの発症と関わっている可能性は否定できない。

 なお、甲状腺がんの原因はヨウ素131だけとも言い切れないようだ。以下を参照していただきたい。

何故チェルノブイリ後の甲状腺癌は放射性ヨードが原因なのか?[科学検証]  (六号通り診療所所長のブログ)

想像を絶する甲状腺異常に関する第3の関与は放射性セシウム(エビデンスに基づく考察)

 ところで、検査の精度はどうなのだろう。福島で検査を受けたらのう胞も結節もないと言われたが、県外に避難して別の機関で検査を受けたらA2判定だった、という事例をネット上で読んだ記憶がある。今回の結果ではA2判定もB判定も福島県より県外の方が高い。これは何を意味するのだろう? たとえ同じ性能の機器を使っていても、判定をするのが人間である以上、ごく小さなのう胞は数えないなど過小評価することもあり得るだろう。判定する人のスキルによっても結果は変わってくると思われる。福島では過小評価している可能性も否定できない。

 これについては以下の指摘もある。

甲状腺判定基準が(A1とA2)不明確なので境界値を設定すべき(エビデンスに基づく考察)

 また、福島では0~3歳を含んでいるが、県外では含んでいない。検査の時期もズレがある。だから、福島県内と県外のデータを単純に比較することも適切ではない。

 もう一つ不可解なことがある。今回は「速報」ということで地域別のデータは出していない。全体で4500人程度の検査をしたようだが、各地域それぞれ1500人程度と考えていいのだろうか? 詳細な結果は3月下旬に公表するとのことだが、もちろんデータは地域別に出ているはずだ。ならばなぜ、最初から地域別のデータを公表しないのだろう?

 長崎に関しては山下俊一氏による事故前の調査結果がある。以下を参照していただきたい。

子どもたちの甲状腺異常:福島(2011~2012)と長崎(2000)の差が著しい! (意識屋のブログ)

福島甲状腺検査その2:比較調査の必要性(Peace Philosophy Centre)

 長崎では2000年に7歳から14歳の250人の子どもについて甲状腺エコーの検査をしているのだが、この検査ではのう胞を認めたものが2人で0.8%でしかない。なぜ今回のデータと大きくかい離しているのだろう? 検査機器の性能や検査の条件が違うといってしまえばそれまでだが、これほどにまで数値が異なるのはあまりに不可解だ。きちんとした説明が必要だろう。

 グーグル・アースを利用して福島第一原発から今回の調査地のおおよその距離を調べてみると、弘前は約360km、甲府は約295km、長崎は約1,140kmであった。チェルノブイリの事故ではチェルノブイリ原発から約340kmにあるミンスクでも甲状腺がんの増加が見られた。単純に距離で考えるなら甲府や弘前でも事故による被ばくの影響があってもおかしくはない。

 長崎が、弘前や甲府と比べて明らかにのう胞や結節の保有率が低いのであれば、弘前や甲府では事故による被ばくの影響が関係している可能性が高いといえるだろう。また、長崎が弘前や甲府とあまり変わらないのなら、日本の子どもたちののう胞や結節の保有率は本来この程度あるというのが妥当なのかもしれない。いずれにしても地域別のデータをすぐに明らかにしないのは不可解だ。

 それにしても、環境省がこのような検査をするというのも不可解だ。本来なら厚労省あたりがやるべきことではなかろうか。

【3月11日追記】
 福島の原発事故のあと、米国西海岸に到達したヨウ素131は通常の211倍に達し、2011年3月11日から31日までに生まれた新生児の甲状腺の異常が前年に比べて16%増加していたとのこと。日本全域で甲状腺の異常が増えてもおかしくない。

小児甲状腺がんは全国的規模に拡大を示唆する論文が公表(エビデンスに基づく考察)

【3月12日追記】
 3011年3月下旬から4月上旬にかけて、九州大学で大気浮遊じんの放射線の計測からヨウ素131の急上昇を記録していたが、これは線量計では捉えることができなかった。日本全域にヨウ素131が降りそそいたことは間違いないだろう。

九州大学が低線量内部被曝の「見えない雲」を証明!!! (原発はいますぐ廃止せよ)



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Posted by 松田まゆみ at 15:12│Comments(0)原子力発電
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