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鬼蜘蛛の網の片隅から ›  › 蜘蛛仙人 八幡明彦さんを偲ぶ

2014年10月16日

蜘蛛仙人 八幡明彦さんを偲ぶ

 今年の5月31日、日本蜘蛛学会や東京蜘蛛談話会の会員であった八幡明彦さんが交通事故で亡くなられた。諸事情で蜘蛛学会の大会も欠席していた私は、八幡さんの訃報を最近になって知ったのだが、若く、また突然の悲しい知らせに残念でならない。

 私は八幡さんと親しい間柄だったわけではない。日本蜘蛛学会の大会で何度も顔を合わせているが、彼と親密に話しをした記憶もない。タランチュラを飼育したり、加治木町の蜘蛛合戦に参加するなど、かなりのクモおたくという印象を持っていたが、のちに学術面でも大変熱心な方であることを知った。

 然別湖で行われた東京蜘蛛談話会の観察・採集会の際は、一人で藪に入ってもくもくと捕虫網を振るっていた。そして採集品を管ビンに入れては私のところに持ってきて「これ何ですか?」と尋ねる。よく見ると、それらの多くは小さな幼体のクモだ。幼体だというだけでたいていのクモをすぐに釈放してしまう私は、その熱心さに驚いた。このように一人でもくもくとクモを採集するのは、いつものことらしい。

 また、彼はGIS(地理情報システム)を活用し、全国のイソコモリグモの生息可能海岸の推定も行った。単なる蜘蛛好き、蜘蛛おたくでは決してない。

 そして、八幡さんにはクモ愛好家とは異なるもう一つの顔があった。というのは、彼は東北地方太平洋沖地震の津波の被害を受けた宮城県南三陸町、旧歌津地区でテント小屋暮らしをしながら、蜘滝仙人(くもたきのりと)を名乗りって「歌津てんぐの山学校」を主宰し、復興支援だけではなく被災した子どもたちのためにさまざまな活動をしてきたのだ。

 彼の「歌津てんぐの山学校」のホームページには以下のように書かれている。

≪来歴≫
2011年3月から11月まで東日本大震災の緊急支援ボランティアを行った「RQ市民災害救援センター」の「RQ歌津センター」の活動から誕生した。
津波被害で歌津の「浜」は壊滅したが、同じく壊滅状態の志津川にある町役場からの救援の手は遅れた。ボランティアさえ来ない状況下で、町の人たちは江戸時代からの互助組織「契約会」が中心になって避難所運営をし、山の人が浜に物資を運びこんで自力で生き抜いた。2週間遅れてRQ市民災害支援センターがボランティア組織としては一番に歌津入りし、伊里前地区の契約会の紹介で、その地に土地を借りてテント村のボラセンを設営した。以来、斜面林の人の手でしか片付けられない漂着物の撤去と写真等思い出の品の洗浄、漁師さんの依頼での網のクリーニング作業、半壊した家の片付け作業、避難所や仮設住宅への支援など、しだいに地元の顔の見える関係でのお手伝いをするようになった。
そうした中で、地元に遊び場が作れないかというお母さん方の声を受け、棚田跡地の活用が始まった。夏休みには地元児童対象のサバイバル・キャンプを開催した。子供たちがキャンプ場に来てまず自作する竹のコップは、契約会の男たちが、津波翌日に竹を切って作ったコップを6月に避難所の詰め所を解散するまでずっと大切に名前を書いて使い続けたのを追体験である。このキャンプをきっかけに、毎週土日や長期休暇に子どもたちが集まる新たな遊び場となっていった。

 ボランティアとして被災地に入り、主体的かつ献身的な活動を続けるというのは誰にでもできることではない。八幡さんの尊敬すべきところは、惜しみなく他者のための活動を続ける優しさと行動力だ。地位とかお金とか名誉などとは無縁の活動であり、ここにこそ彼の人柄が滲み出ている。

 彼が地元の人たちから慕われていたことは、以下の記事でよく分かる。

「八幡明彦と共に」ご案内(あちゃあちゃ猪飼野仙人日記)

 長い髭を蓄えた風貌もテント小屋暮らしもまさに仙人だったが、無欲な生き方もまた仙人のようだった。

 あのどこか飄々とした、しかしとても真面目な八幡さんにもう会うことができないとは何とも寂しく悲しいが、心からご冥福をお祈りしたい。



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Posted by 松田まゆみ at 20:38│Comments(0)
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