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鬼蜘蛛の網の片隅から › 森林問題 › 100年遅れた日本の林業

2009年01月06日

100年遅れた日本の林業

 お正月は、年末に刊行された石城謙吉氏の「森林と人間」(岩波新書)を読みました。石城先生は私の尊敬する研究者の一人です。この本は、石城先生が、大学演習林の改革を目指して苫小牧にある北大演習林(現在は研究林)に林長として赴任し、荒れた演習林を整備するとともにその一部を市民の森、研究者の森へと開放していった経緯が、軽妙な筆致で綴られています。

 私も苫小牧の北大研究林での調査に泊りがけで参加したことがありますが、樹木園、森林資料館、宿泊施設、池などが、石城先生の発案と職員の方たちの尽力によって造られ、研究林の一部が市民に開放されたことをこの本で知りました。この研究林には、すばらしい森林が保たれ、希少なクモも生息していることがわかってきています。

 さて、この本のはじめのところで、ヨーロッパではじまり林業の基礎を築いた「ドイツ林学」の問題について触れられています。

 皆さんは、人工林といったらどのような森林を思い浮かべるでしょうか? 日本ではスギやヒノキ、カラマツなど一種類の木が並べて植えられ、伐期になれば一斉に皆伐する造林地が人工林と呼ばれています。

 このような林業の基になったのは18世紀後半にドイツで確立された「ドイツ林学」といわれるものです。もともとあった森林を皆伐し、育成効率も利用効率も高い針葉樹の単一樹種による森林に変えていくというやり方です。持続的に効率よく木材を生産するために、木の生長量と収穫量を把握し、林齢の異なる造林地を計画的につくっていく「法制林」という考え方が主流となり、世界中に広まりました。日本には明治時代に導入されました。

 しかし、このような森林は生物多様性を大きく低下させます。広葉樹が主体の雑木林に比べ、人工林は生物が少なく魅力がないことは誰でも体験で知っているでしょう。また、単一樹種の森林は病害虫の発生を誘発し、薬剤散布によって環境汚染を引き起こすことにもなります。畑で病害虫が発生し、農薬を散布するのと同じです。皆伐は土砂の流出も引き起こします。

 ヨーロッパでは、19世紀半ばから20世紀にかけて市民の休養や環境保全を重視する都市林づくりが盛んに行なわれるようになりました。天然林を伐りつくした結果、森林は人々にとってかけがえのない自然空間であることに気づいたのです。また、ヨーロッパの都市林の多くは林業の技術と労働によって育成されており、市民の休養のためだけにあるのではなく木材生産も担っています。つまり、広葉樹と針葉樹の入り混じる森林をつくり、抜き伐りによる木材生産を行なっているのです。ヨーロッパは、だいぶ前から「法制林」からの脱却を図ってきたといえそうです。そして、今ではこのような方法が林業の基本となってきているようです。

 日本はどうでしょうか? 生物多様性の保全や森林の公益的機能の重視が叫ばれるようになりましたが、いまだに「法制林」の問題を省みることなく延々とつづけているのです。どうやら日本の林業は100年遅れているといえそうです。

 国立公園や奥山の天然林など、守るべき森林は基本的に手をつけずに保全し、里山を自然林に近い森林にしながら木材生産もしていく・・・そんな林業への転換こそ求められているのではないでしょうか。


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Posted by 松田まゆみ at 17:04│Comments(0)森林問題
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