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鬼蜘蛛の網の片隅から › 森林問題 › 共生林と森づくり

2009年01月07日

共生林と森づくり

 昨日紹介した石城謙吉氏の「森林と人間」(岩波新書)の話題の続きです。

 昨日の記事では、ドイツ林学による人工林をいまだに続けている嘆かわしい日本の林業について書きましたが、もうひとつ大変印象に残ったのが、最後の章「森と人の歴史」です。

 飛行機に乗っていつも感じるのは、日本の内陸部の大半が深い緑で覆われていることです。天然林、人工林の区別はともかくとして、日本が「森林の国」であることの証でしょう。ヨーロッパの内陸部も、今から2000年ほど前には深い森林に覆われていたといいます。日本もヨーロッパも共に森林文化圏だったのです。ところが農耕の受け入れ方に大きな違いがあったといいます。

 麦作の広まったヨーロッパでは牧畜がセットとして持ち込まれ、森林が大規模に切り開かれました。自然を征服し、大きく変えてしまう道をたどったのです。森林文化が駆逐されて農耕文化が広まりました。その後、18世紀の後半の産業革命で都市が発展し、大量生産と大量消費のシステムができあがりました。さらに海外貿易と植民地からの自然の収奪により、自然と共生していた海外の文化まで駆逐されたのです。ヨーロッパは自国のみならず、世界の資源を食いつぶしてきたといえます。

 一方、稲作が広まった日本では大規模な森林破壊は引き起こされず、雑木林と共生してきました。日本では森林文化と農耕文化の融合した共生圏が保たれたのです。ところが明治になると日本にもヨーロッパの近代文明が伝わり、ドイツ林学によって自然林が針葉樹の人工林へと変えられてきました。

 こうした歴史を踏まえて石城先生が提唱するのが「共生圏」です。つまり人間には森林と共存するしか選択肢がないということなのです。そのひとつの試みとして、北大苫小牧演習林(研究林)で共生林づくりの実践をされたのです。目標とした共生林とは「市民の休養、自然の研究から木材の生産までを含め、さまざまな人の営みが絶えず関わり、その営みによって維持される森」です。

 今、地球温暖化問題にともなって各地で森づくりが盛んですが、苫小牧の試みはその手本としてさまざまなヒントを与えてくれます。もっとも、地域の自然を生かしたままで手を加えていくのですから、その地域の自然についての十分な知識をもとに不自然な改変にならないようにしなければなりませんが。

 ところで、共生林づくりに誰よりも率先して取り組んでほしいのは、広大な森林を所有する国や地方自治体です。北海道には手入れもされずに放置された人工林がいたるところにあります。林野庁は保護する森林と木材生産を行なう森林の線引きを検討していると聞きますが、人工林での施業をどのように考えているのでしょうか? 相変わらずの法制林しか頭にないのなら、明治時代から思考が停止状態にあるといえるでしょう。

 ヨーロッパの都市林では市民に憩いの場を提供しながら、木材生産も行なっているそうです。ヨーロッパは、治水のあり方も森林のあり方も歴史に学んで変えてきたといえます。

 日本でも、誰も見向きもしないような単純な造林地をつくるのではなく、いかに地域に根ざした共生林を造っていけるかが、今後の森づくりの課題になるのではないでしょうか。


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Posted by 松田まゆみ at 15:46│Comments(2)森林問題
この記事へのコメント
私の活動内にいる 研究者pが河川と環境をまともに捕らえる
学者がいなくなった .. と嘆いていましたか゛
身近では石城教授と写真家の稗田さんは深い慧眼をもっている. と
以前から言っていました.
石城教授は最近、千歳で在来鱒の生い立ちの講演をされていましたので
うかがってきたところです.  ところで 森林再生と保全の外堀を
政府機関が しっかりできないことが 違法伐採や不要ダムの建設に
繫がっているのですから 自治体が率先して森林再生をとりまく
保全姿勢を示していくべきだと思っています
Posted by こるとれーんtone at 2009年01月07日 18:54
こるとれーんtone様

いわゆる御用学者のような方たちばかりが目立ってしまい、問題点をきちんと捉えて発言される研究者が少ないのは、とても嘆かわしいことです。そうした中で、石城先生や稗田さんは行政におもねるようなところがなく、まっとうな指摘をされていますね。

石城先生の講演会があったのですか。石城先生は、私と同じ上諏訪の出身ということもあり、私にとってはとても身近に感じられる方です。
Posted by 松田まゆみ at 2009年01月08日 09:04
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