さぽろぐ

日記・一般  |その他北海道

ログインヘルプ


鬼蜘蛛の網の片隅から › 政治・社会 › 悪夢のようなランドラッシュ

2010年02月13日

悪夢のようなランドラッシュ

 一昨日のNHKスペシャルのテーマはランドラッシュでした。ランドラッシュとは、2年前の食糧危機に端を発した農地の争奪戦のことです。近年、食糧を輸入に頼るのではなく、海外に農地を確保して食糧危機に備えようという流れが広がってきています。

 現在およそ68億人の世界の人口は、2050年には90億人に膨れ上がると予測されているそうですが、そうなれば深刻な食糧不足に陥ります。とりわけ人口が急増しているインドなどでは、食糧危機は深刻な問題です。中国・韓国・インドなどがランドラッシュに積極的で、ロシアやウクライナ、アフリカなどで農地の争奪戦が繰り広げられています。

 しかし、タンザニアではランドラッシュによって政府が農民に立ち退きを要求して農民が抗議し、マダガスカルではクーデターに発展するなど、さまざまな軋轢も生じています。

 日本の場合は「自国の自給率を上げるべき」という声が強いとのことで、ランドラッシュへの方向性ははっきりしていないそうです。それはそうでしょう。耕作放棄地がたくさんある日本が、なぜ海外に農地を求めなければならないのでしょうか。自国の食糧を自国で生産するということは、ごく当たり前のこと。大豆も小麦もトウモロコシも日本で作れる作物です。

 このように闇雲に海外の土地を漁るという状況に、危ういものを感じざるを得ません。地球上の土地は有限なのに、農地を拡大して人口増加に対応するなどという発想は限度があります。限られた面積の地球で、人類という自然を破壊し汚染物質を垂れ流しにする生物がどんどん増殖していったなら、自滅に向かうしかないでしょう。食糧危機への対策としては、まずは中国のように人口の抑制策を考えるべきではないでしょうか。

 もうひとつ、非常に懸念されるのはランドラッシュのように企業が農業経営をすることの弊害です。企業が農業に参入したなら大規模化、経営の合理化が目に見えています。農薬や化学肥料の大量使用、遺伝子組み換え作物の導入が進むでしょう。環境面でも健康面でもマイナスでしかありません。農業は自然と密接に結びついており、自然のサイクルを乱すような農業をやっていれば、かならずそのしわ寄せが自分たちに返ってきます。

 2月7日付けの北海道新聞に「受胎率低下 経営を圧迫」とのタイトルで、酪農の大規模化が人工授精の受胎率の低下を引き起こしていることが報じられていました。配合飼料によって一頭の乳量は20年前と比べて3割以上増えたそうですが、その一方で受胎率の低下による損失が大きくなっているそうです。

 乳製品のパッケージに乳牛が青々とした牧場で草を食む光景が描かれていることがありますが、北海道に住んでいても、近年はそのような光景を見ることはほとんどなくなりました。大規模化すると、牛を牛舎に閉じ込めて配合飼料を与え、乳を出す機械ででもあるかのように扱わざるを得なくなります。これでは牛もストレスが溜まり、栄養不足にもなるでしょう。品種改良なども受胎率の低下につながっているそうです。酪農家は設備投資で莫大な借金を抱え込み、経営面でも決して安泰ではありません。こういうやり方は限界にきています。

 日本でも企業が農業に参入しはじめていますが、利潤を追い求めるだけのやり方は、自然を相手にする農業には通用しません。ランドラッシュで土地を奪い合う人々の光景は、まるで悪夢でも見ているようで背筋が寒くなりました。


あなたにおススメの記事


同じカテゴリー(政治・社会)の記事画像
地震兵器について思うこと
医療ジャーナリスト鳥集徹さんへの疑問
新型コロナワクチン後遺症患者の会と民主的組織運営について
辺見庸氏の「1★9★3★7」インタビュードタキャンと日本共産党批判
札幌合同庁舎に設置された大仰なゲート
漁港と生態系
同じカテゴリー(政治・社会)の記事
 食料を自給できない国の行方 (2024-04-11 16:20)
 『日高山脈を含む新国立公園の名称に「十勝」を入れるべきではありません!』のオンライン署名を開始 (2024-04-08 12:03)
 個人の責任 (2024-04-06 15:34)
 日高山脈一帯の国立公園の名称を巡る不可解 (2024-03-30 20:49)
 主権を失った国の行方 (2024-01-25 11:17)
 「地震兵器について思うこと」への追記 (2024-01-10 17:23)

Posted by 松田まゆみ at 14:54│Comments(3)政治・社会
この記事へのコメント
世界的な農地争奪戦が激しさを増しているとのこと。食糧の自給は現下の急務かもしれません。カロリーベースで39%の自給率、金額ベースでは60%で一寸安心できます。しかし、面積ベースでは28%です。460万haの国内耕地に対して、1200万haを輸入し食べている勘定です。12万平方キロです。逆算すると、日本の国土は3千万人の人口しか養えません。この先、エネルギー資源が枯渇すると、悲惨な事態になります。幾ら自給率向上を声高に叫んでも、その限界が見えます。

それに対して、新しい政権は「耕地の生産性向上」という視点は持っていないように感じます。民主党のサイトの政策に農林水産省の政策会議の議事録が公開されています。その中は、まさしく羊羹の切る位置の我田引水ごっこです。
日々購入する商品は、安価な外国製。今は粗製乱造かもしれませんが、品位の向上は瞬時です。安価な外国製品が世界を席巻するのは間近です。すると、食糧を輸入する外貨も途絶えます。
そのとき、食糧と煮炊きや生活のエネルギーはどうするのでしょうか。心配です。

私は、耕地の生産性の倍増、という視点が世界的にも必要と考えます。いま、一人の占める最大の面積は農地です。約1400平米。水の最大の用途は農業用水です。耕地の生産性を倍増することで、大幅な余剰耕地を生み出し、余計なダム・水路・道路等の社会資本投資を削減できます。農地の生産性倍増と言うテーマこそ、未来を切り開くスイッチではないかと思います。とすれば、ランドラッシュの狂騒も沙汰やみになるでしょう。

耕地には、所定の生産性があります。しかし、長年の実績に基づく収量・生産性が正しいのでしょうか。私は、今新しい栽培思想が広がっているように感じます。「有機液肥」という用語でウエブ検索すると、21世紀に爆発しています。その中身は「作物が有機物を直接吸収する」とあります。炭素肥料です。或いは、光合成をバイパスして有機炭素を獲得することで、光合成のリサイクルともいえるでしょう。耕地の作物に、耕地外の昔の光合成産物を付加することかもしれません。そうであれば、耕地の生産性を倍増できる可能性があります。
肝心な努力を忘れ、使い慣れた、暴力と姦計で他を貶めるのが常道と考える人が、上に立ち、差配する時代なのでしょうか。
Posted by 松井 萌 at 2010年02月19日 22:18
松井萌様

農耕地の生産性を高めることを提唱していらっしゃるようですが、耕地面積あたりの生産性を高めるといっても限度があります。自然の摂理を無視するようなことをやったなら、記事本文で紹介した乳牛の問題のようなことが生じるのではないかと思います。

ランドラッシュと食糧自給率の問題については、「そりゃないよ獣医さん」の以下の記事が参考になります。

http://okaiken.blog.ocn.ne.jp/060607/2010/02/post_5a41.html
Posted by 松田まゆみ at 2010年02月20日 13:16
松田まゆみ様

私は、耕地の生産性向上、が日本ばかりか世界中の現下の急務と考えています。仮に、倍増できれば、ランドラッシュは緩和されます。
品目にもよりますが、50~150%の向上は実際に実現しているものです。勿論、30年前からですから、遺伝子操作などない時代です。

日本の耕作放棄地に主眼を置かれているように感じますが、日本の全耕地面積は460万ha。現在、日本人が食べている耕地面積は1660万haと推計されています。1200万haは海外です。日本の国土は3700万haです。耕作放棄地を利用しても1200万haを充当できません。
どうしても、海外の農産物に期待するのは仕方がありません。

また、「自然の摂理を無視」とのことですが、地球上には1.8haだけ存在する「マール」という土壌があります。世界中の地質学者は例外なく知っています。たった1.8haの土壌の地質を知っていても、地質学者として活用できることは全くありません。ニュートリノのようなものです。でも知っています。フランス、ブルゴーニュ地方、ロマネ村の1.8haが地質学上マールと言われる土壌です。地球で1.8haしか確認されていません。それが、「石灰と有機物がまじり合った土壌」とされています。理由は判りませんが、900年以上昔から、この1.8haの土地でブドウが生産され、ワインとなっていました。勿論、周囲は広大なブドウ畑。修道士は何故か、ブドウを分けて、結局、全部ワインにしていました。ただ、畑ごとに仕分けの仕方があったようです。この1.8haは今日。ロマネコンティとして世界的に有名な赤ワインとなっています。
家畜糞尿や植物残さを生石灰で処理し、短時間で殺菌分解したときの残さには、低分子量の有機酸カルシウムが含まれています。原料のタンパク質、核酸、生体膜が破壊され、低分子量の有機酸となるためです。このときの処理残さは、まさに、マールに類似した物質となっているだけのことで、それは天然に存在する土壌と大差ありません。
ただ、日本の農業関係者などは、そのような天然の土壌に対する知識がないのかもしれません。
どの程度を自然の摂理とするのかは、勿論、夫々の尺度による他ありませんが。

このような考えは、21世紀になってから、云々されるようになってきたと感じます。その証左が「有機液肥」にあります。グーグル検索でも有機液肥は、20世紀は少ないと思います。それが、21世紀になって急激に増えています。加速器型質量分析計で炭素の挙動を追跡しやすくなったのかもしれません。往時は10億円もした計測器が、3億程度に下がり、考古学の年代測定以外にも利用されるようになったのでしょう。その結果わかったのが「植物が有機物を直接吸収する現象」です。これが科学的に検証され、存在することが判りました。
この現象は、植物が光合成によらずに有機炭素を獲得する現象です。炭素肥料・光合成のリサイクル・光合成のバイパス・・いろいろな表現があろうと思います。解釈しやすいものを利用すればよいと思います。
そして、今、固体有機物である堆肥を見限り、水に溶けた有機物で、作物に吸収される有機物を含んだ有機液肥へ雪崩を打っています。
液状堆肥、という表現すらあります。どんなものなのでしょうか。しかし、真面目に考えた結果の名前で自治体や著名な企業名もあります。

耕地の作物で進行する光合成以外の経路で、吸収によって有機炭素を獲得できるなら、作物は今までの収量を大幅に超えて収穫できる可能性が生まれます。
そして、それは30年も前から、一部で行われ、今、青森を中心に数1千haに拡大しています。
自然の摂理かどうかは、判りませんが、マールと同様に大変美味しい農産物を多量に収穫できる手段として利用されています。
Posted by 松井 萌 at 2010年02月21日 10:15
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
悪夢のようなランドラッシュ
    コメント(3)