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2010年09月13日

森林生態系保護地域拡大で無視されたパブリックコメント

 9月7日の北海道新聞に、「大雪・日高山系の森林保護地域 国内最大に拡大へ」との大きな見出しの記事が掲載されていました。8月にパブリックコメントを行い、6日に、森林生態系保護地域等設置委員会(座長は辻井達一氏)が開かれて、北海道森林管理局の提示した原案が認められたためです。

 新聞記事を見ると、なんだか保護される森林が増えたと評価するような書き方なのですが、パブコメに寄せられた意見や委員会での意見などにはまったく言及されていません。新聞記者というのは、どうしてそういうことに注目しないのでしょうか。

 パブリックコメントには、私も意見を出しました。

森林生態系保護地域についての意見はどう反映されるのか

 その後、北海道森林管理局のホームページには、寄せられた意見とそれに対する森林官管理局の対応方針が掲載されました。

意見募集の実施結果について

 これによると、意見はたったの4通だったとのこと。3人と1団体です。私の他に、十勝自然保護協会の理事の方が意見を提出しています。また、団体というのは日本森林生態系保護ネットワークです。これしか意見が寄せられなかったというのは、寂しい限りですね。森林保全に関心を持っている方は大勢いると思うのですが、広報不足ということもあるのでしょう。

 さて、出された意見に対する森林管理局の対応方針を見て、まあ、予想はついてはいたのですが、やはり呆れてしまいました。彼らの言い訳を見ていきましょう。

【意見】設定方針として「森林生態系保護地域は、上記ポテンシャルが高いと評価された区域を踏まえるとともに、原生的な天然林の区域において、脊梁部等の高山帯から比較的標高の低い森林、あるいは、針葉樹林や広葉樹林等多様な森林生態系を包括的に保護できるように設定」するとしていたのだが、標高1000m 以上の高標高域の森林帯を指標に入れたことと1,000 ヘクタール以上の原生的天然林という1991 年の基準に拘泥したため、設定案にはほとんど反映されていない

【言い訳】対応方針では、「ポテンシャルが高いと評価された区域で、設定案に含めなかった区域については、森林現況、木材需要、地域振興頭様々な状況を踏まえながら、その他保護林の設定の可能性も含め、今後取扱いについて検討を行っていくこととしております」としています。結局、木材生産などで利用したい地域は森林生態系保護地域から除外した、ということです。保護より利用を優先し、そもそも伐採対象となるような木が生育していない高標高地を中心に森林生態系保護地域を決めているのですから、開いた口がふさがりません。

【意見】鳥類やほ乳類に限らず、その他の動物群や植物も含め、保護の対象とする希少種等の種名を明確にし、種ごとに生息・生育が期待される潜在性の高い区域を示して検討する必要があります。

【言い訳】対応方針では、「特に、森林生態系・河川生態系のアンブレラ種については、分析が可能な既存の生態情報があるクマタカ、クマゲラ、シマフクロウをその指標としております。このため、ご指摘の種を含め、個別の希少種の生息・生育区域の観点から見れば、それらが含まれていない場合は多々あると考えております」としているのですが、これはとても矛盾した説明です。なぜなら、クマタカやクマゲラ、シマフクロウが生息している森林はごくわずかしか森林生態系保護地域に入っていないのです。これらの種の生息地を保護するなら、広大な針葉樹林帯や針広混交林を含めなければなりません。そして「個別の種については、必要に応じてその他の保護林の設定や森林整備に当たっての一層の配慮を通じて、その保護に努めてまいりたいと考えております」として、逃げています。

【意見】「針葉樹林や広葉樹林等多様な森林生態系を包括的に保護できるように設定」と書かれていますが、針葉樹林や広葉樹林はほとんど含まれておらず、文章による説明と指定区域の実態が一致していません。このような矛盾した設定案は、基本的なところから見直す必要があります。

【言い訳】対応方針では、「具体的には、検討対象区域(約64 万ヘクタール)内の針葉樹林面積の約47%、同じく針広混交林面積の約9%、広葉樹林面積の約30%の区域が、森林生態系保護地域及び緑の回廊の設定区域となる見込みです」とのことですが、とても針葉樹林の半分が含まれているとは思えません。針葉樹林帯をかなり狭くとっているのではないでしょうか。基にした植生図などを示して説明してほしいものです。言葉だけでは、いくらでも誤魔化すことができます。

【意見】失われた生物多様性を回復させるために今後取り組まねばならないのは、過去の乱伐を反省し、かつての原生的な針葉樹林や針交混交林を甦らせることです。今回の拡大案は、そのような視点がまったくありません。

【言い訳】対応方針では、「森林資源の持続性の維持と生物多様性の保全を両立させるための天然林施業の検討等についても、優先的に取り組んでいくこととしております」としていますが、大雪・日高地域での具体的提案はありません。

【意見】本来、国立公園や国定公園では生態系の保全が最優先されるべきであり、伐採をすること自体が不適切です。国立公園や国定公園での伐採の是非から見直すことが必要です

【言い訳】対応方針では、「自然公園における森林施業については、風致の維持を考慮し、特別地域の区分に応じて、その制限が定められております」としていますが、結局、現状の伐採率の制限を見直すつもりはないということです。

 北海道森林管理署の「対応方針」から分かる彼らの姿勢は、意見は聞きましたが、希少種などには配慮したうえで、これまで通りの施業を行いますといっているわけです。これでは、ほとんど進歩なしです。

 やはりパブコメは形だけで、「聞きおく」だけだったということです。設定委員会とやらもお墨付きを出してもらうことが目的の委員会だったのでしょう。


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Posted by 松田まゆみ at 18:00│Comments(3)森林問題
この記事へのコメント
森林生態系保護地域の拡大案、じっくり読みましたが、いろいろな利害関係に総合的に配慮したものになっていると思います。

鬼蜘蛛おばさんの意見にしても、その趣旨の何割かは意見を申すまでもなく、すでに案に反映されているように思います。

自分の意見が100%通らなかったからと言って、役所をスケープゴートにして、ストレス発散するのはいかがなものでしょうか?

鬼蜘蛛おばさんの意見だけ通すなら、我々よりはるかに森林への思いと造詣の深い学識経験者による検討委員会はいらないのではないですか。

「開いた口がふさがらない」という言葉をよく書かれていますが、このブログを見ている鬼蜘蛛おばさんのいらっしゃる町のみなさんや、対極的な意見を持つみなさんは、鬼蜘蛛おばさんの日々の発言に「開いた口がふさがらない」と思っているのではないでしょうか。
Posted by 林業の街の住民 at 2010年09月13日 22:29
林業の街の住民様

「林野庁は違法伐採を認めたけれど」という記事で、「77本の無許可伐採を認めさせたといっても、損害額は、たったの1万円以下だと思うのですが^^」と、頓珍漢なことを書かれた「林業の街の住民」さん、再度、ご意見をありがとうございました。お陰さまで、あなたがどのようなお立場の方なのか、皆さん察することができたでしょう。

昨日は543ものアクセスがありました。関係者の皆さん、熱心にお読みいただき、アクセス数アップにご協力いただき、ありがとうございました。「ストレス発散」というお言葉は、「林業の街の住民」さんにそのままお返ししましょう。

設置委員会を傍聴されたある方から、案に対して明確に批判的な意見を述べていた委員が複数いたと聞きました。そのような意見はどこに行っちゃったんでしょうか。この委員会の座長さんは、あちこちの委員会で座長をされていますね。委員から反対意見が出されても、お役所の意向をうまく汲み取ってまとめてくださる、役所にとってはとてもありがたい方なのでしょう。なお、この座長さん、ウィキペディアなどでは湿原の研究者になっています。森林生態系や林学について深い造詣があるとは思えませんが。

それから、私を批判されるのであれば、私の意見に対して具体的に反論をしていただきたいと思います。そうでなければ、単なる憂さ晴らし、あるいは嫌がらせと思われますよ。
Posted by 松田まゆみ at 2010年09月14日 09:02
1.森林生態系保護地域の拡大案が総合的に配慮されたものとは笑止千万だ。標高1000m以上の地帯は更新困難地や施業困難地が多く、国土保全上、切れなかったところがほとんどである。そこを今回、保護地域に拡大しましたと言っても説得力はない。もし今回保護地域にしなければ、今後は切りますというとでも思っているのだろうか。つまり、現在、伐採対象となっていないところに、森林生態系保護地域の名を冠しただけのことである。したがって、いろいろな利害関係を調整したわけではない。伐採対象地を失いたくないという林野庁の利権を優先させただけのことである。こういった事情を知らなければ、今回の設定案を評価するかもしれない。

2.役所をスケープゴートにして、ストレス発散する。馬脚が見えた。いまどき林野庁を擁護する人間など皆無に近いだろうから、こんなこと書くのは林野庁の内部の者だろう。それなら正体を明らかにして正々堂々と論争すべきだ。できるわけがないか。

3.学識経験者が我々よりはるかに森林への思いと造詣が深いと思うのは勝手だが、座長のTさんが森林についてまともな論文を書いたという話は寡聞にして知らない。また、鳥の専門家といわれるF委員がミユビゲラやキンメフクロウの保護と設定案の関係について委員会で発言した気配が議事録にはない。これまで何回か検討会の委員なるものを経験したが、委員の意見により事務局原案が大きく変更されると事務屋はその収拾に困り果ててしまうのである。だから自分たちの言うことを聞いてくれそうな人物を半数以上委員に選任するのが常である。昔、北海道営林局の委員会(検討会かも)で、ある委員が原案の論理の矛盾を指摘し原案の変更を求めたら、他の多くの委員も賛同し、原案が承認されない局面となった。そこで座長のH北大教授(当時)がそそくさと議論を打ち切り、原案を通したということがあった。彼は自分が座長に指名されたワケを理解して行動したのである。委員会などその程度のものと林野官僚は認識しているのである。
(管理人様、先ほどのコメントに間違いがありましたので、これと差し替えてください。)
Posted by キムンカムイ at 2010年09月15日 18:42
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