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鬼蜘蛛の網の片隅から › 原子力発電 › 高木仁三郎さんの「核施設と非常事態」を読む

2011年05月08日

高木仁三郎さんの「核施設と非常事態」を読む


 新聞報道によると、原子力資料情報室をつくられた故高木仁三郎さんの「核施設と非常事態-地震が遺作の検証を中心に-」が話題になっているとのことだ。

「想定外」、16年前に警告 福島第1で故高木さん論文(47NEWS)

 インターネット上で読めるとのことなので、さっそく読んでみた。以下のページから論文にアクセスできる。

核施設と非常事態:地震対策の検証を中心に

 これは1995年に日本物理学会誌に掲載されたものだ。阪神大震災を教訓にして原発の安全性を見直すべきだとの提言なのだが、現実にはその指摘はまったく無視された。その理由は、原発推進者にとっては「原発は壊れない」という建前になっていたからだ。原発震災の懸念を抱いている人たちがいくら問題点を指摘したところで、「想定不適当」とか「ためにする議論」だといって無視されてきた。

 昨日の記事「原発設計者が語る地震の危険:直下型地震では必ず壊れる自信!」で、原発設計者の菊池洋一さんの話を紹介したが、「壊れない」と言われてきた原発は、実際には地震で壊れても全く不思議ではない、というより壊れないほうが不思議といえるようなお粗末な代物だったのだ。腰の抜けるほど驚くような話しだし、これほど国民を愚弄した話しもない。高木さんの指摘はしごくまっとうだし、本当に不幸なことにその指摘はほぼそのまま現実のものとなってしまった。

 だいたい「想定外」とか「想定不適当」などという言葉を使うことは「科学」とは言い難い。科学者であれば予測を上回る地震や津波が生じる可能性も考えなければならないだろう。その地域における過去最大の地震や津波を上回る地震や津波だって、想定するのが科学だ。

 たとえば河川整備の根拠とされる基本高水でも、「150年に一度の確率の降雨」などという想定のもとに流量を計算する。しかし、それ以上の大雨が降ることだってあるのだから、その場合にどうするのかを考えなければならない。そのためには、堤防やダムに水を貯め込むのではなく「溢れさせる」という考えが必要であり、溢れた場合の被害を最小限に食い止める対策や住民の速やかな避難などが求められるのだ。「想定外の大雨だったから氾濫して被害が出た」というのは言い訳でしかない。

 ただし、原子力のような危険きわまりないものに対しては、安全性を確保できる保障がない場合は止めるという選択をするしかない。核の暴走は地球規模の汚染、取り返しのつかない被ばくという大変な危険をはらんでいるのだから、人間が制御できないような事態が予測されるなら手をだすべきではないのだ。「想定外」という言い訳を口にする御用学者は、学者という呼称を返上すべきだ。

 一部の研究者の指摘に耳を貸さず、阪神大震災での教訓を活かすことなく「原発は壊れない」という嘘を言い続けてきた末に、今の福島の惨事がある。政府も東電も、「原発は壊れない」などという妄想を捨て、「原発は壊れる」という前提のもとにエネルギー政策を考えねばならないのだが、そういう姿勢は未だに見えない。

 そういえば、「ヨウ素剤」の配布はどうなっているのだろう? レベル7という大事故となり、福島原発の周辺では高濃度の汚染が明らかになってきているのに、自治体がヨウ素剤を配布したというニュースは一向に聞かない。


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Posted by 松田まゆみ at 12:16│Comments(6)原子力発電
この記事へのコメント
 松田様、失礼致します。

脱原発は現実論としてはあり得ない>
 安全対策を最大限にやっていく>

 高橋知事の安全対策最大限は  現実論としてありえません、彼女は常に
 できなかった言い訳を先に用意する人間だからです。

高橋はるみ知事は、つくづく国策のまんま路線の受け売り常に路線を変革できない
 押し付けしかできぬ官僚上がりで 改革路線とは程遠い独善路線な知事です。

 本当に道民の安全を考えるなら あり得なくてもやってみろ!
 一歩踏み出してから物を言え! と言ってやりたいです。

 さらに原発容認派は現実には7割もいませんよ。
 全道民に知事の首をかけて被爆被害の怖さと政府がいかに
 地方道民を見捨てるかを知っていますから一斉調査で調べてみるとよくわかる筈ですよ。
Posted by 影 at 2011年05月08日 17:36
 ここのみなさんにも見てもらいたくてリンクします。ただし、恐ろしいです。心して飛んでください。
 臨界事故とはちがうでしょうが、放射能障害というのは、基本はおなじと考えます。人間を内側から“こわす”のです。
 わたしは、人間、健康でさえあれば、クスリなどは気休め程度のものと思ってきました。現にわたしはそうでした。自然治癒力というやつです。
 しかし、放射線にやられると、その再生能力がやられるのです。番組では、「身体の設計図が壊される」と称してます。するとどうなるか。それがこのドキュメントです。
 わたしがショックだったのは、これが本になっているのですが(NHK取材班編、岩波書店)、その要約を読みましたが、それはもっと噛み砕いてます。もっと具体的です。
 ところが、そのアマゾンレビューで、福島原発の事故以来読んだというレビュアーも多い中、35件中、ただの1件も明確に「原発停めよう」という声がないのです。

http://www.twitvid.com/ARTCA
(『NHKスペシャル - 被曝治療83日間の記録』2001年制作)
Posted by 本間康二 at 2011年05月09日 00:03
 今朝、これを入手しました。必見です。

 必見動画もあるリンク:
[原発ダイアリー]最新からフジ「とくダネ 福島の子供たち」(約16分の動画)をリンクする『中電、脅迫なう』
 ↓
http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20110511/1305071935
Posted by 本間康二 at 2011年05月11日 12:15
松田さま、初めまして。
平成19年度緊急被ばく医療全国拡大フォーラム(第11回緊急被ばく医療フォーラム)講演録集に「安定ヨウ素剤予防服用の考え方と実際」と題して、放射線医学総合研究所の明石真言先生の講演が有りました。
http://www.remnet.jp/kakudai/11/index.html
「ヨウ素剤を事前に各戸配布すれば、万が一の時に迅速に投与できると思うのですが?」との質問に、スライドNo.28以降で、米国テネシー州での実例を基に解説が示されています。国の考えのもとになっているのかも知れません。賛否は兎も角としてお知らせしておきます。
Posted by nephila at 2011年05月11日 23:14
 リンクばかりですみません。
 しかし、東京新聞じゃ全国区じゃないからなあー。
 ウェブ版だけだと「なんのこっちゃ」てなもんだけど、本紙では『「夏の電力不足」は流言飛語』とタイトルして、痛烈にやっつけてくれてるらしいです(嬉)。

 5月12日付『東電単独で供給可能 広野火力、7月全基再開へ』
 ↓
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011051202000020.html
Posted by 本間康二 at 2011年05月12日 21:28
影 様

原発容認派がどの程度なのかよく分かりませんが、国民が今回の福島の事故の重大性をどの程度認識しているのか、政府や東電の騙しによる原発推進や事故後の嘘や隠ぺいをどの程度見抜いているかによって、違ってくるでしょうね。意識調査の方法によっても違ってくるかもしれません。事実をきちんと理解している人が多ければ、たぶん容認派はそれほど多くはならないでしょう。


本間康二様

いろいろ情報ありがとうございます。放射能汚染がいかに恐ろしいかという現実が分かっていない日本人はまだまだ多いのでしょう。今のようなときこそテレビは放射能のことについてきちんと伝えて欲しいものですが、相変わらずくだらないお笑い番組ばかりで辟易とします。


nephila様

情報ありがとうございました。日本はヨウ素剤配布もきちんとできない国のようですし、SPEEDIの予測などは放射法が拡散した後でしぶしぶ公開する始末です。政府は、国民の健康のことを第一に考えていないことがよく分かりました。
Posted by 松田まゆみ at 2011年05月14日 09:30
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