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鬼蜘蛛の網の片隅から › 共同出版・自費出版 › 初版で儲け、増刷でも儲ける悪質出版商法

2014年10月25日

初版で儲け、増刷でも儲ける悪質出版商法

【2015年1月23日追記】この記事で取り上げた「某自費出版会社との契約を巡るトラブル顛末記」の著者に関しては、700部を買い取る責務があることが分かっていながら支払いを拒否し続け、踏み倒しまで目論んでいることが判明したことをここに記しておく。したがって、この事例に関しては出版社には大きな落ち度はない。以下の記事(特に追記)を参照いただきたい。
zih*s*uppan*さんへのお返事(随時追記)


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 今、とある出版社と増刷契約を巡ってトラブルになっている方がいる。以下がその方のブログ。

某自費出版会社との契約を巡るトラブル顛末記

 契約形態はいわゆる共同出版タイプ。今では共同出版という用語はあまり使われなくなり自費出版という言い方になっているが、従来から行われている制作請負契約・販売委託契約による自費出版ではない。商業出版と同様に、本の所有権や出版権を出版社に設定し著者には売上金ではなく印税を支払う契約だが、出版費用は著者が負担するというタイプだ。

 私は、このような出版形態は著者と本を買う読者の双方から利益を得るという点で出版社に一方的に有利で不公正な契約だと思っている。また、売れないことを知りながら書店販売をメリットとして宣伝したり、褒めちぎった感想で著者を舞い上がらせたり、執拗な勧誘をするという点で悪質であるし、勧誘の仕方によっては法律に抵触することもあると思っている。このような商法では、今でも著者との間にトラブルが頻発している。ただし、こうした出版形態そのものが違法であるという裁判所の判断は出ていないようだ。

 上記のブログの方の経緯を簡単に説明しておきたい。初版の300部が売り切れたため、著者の方から出版社に増刷を求めた。増刷の最低部数は1000部と決まっている。出版社は難色を示し、増刷に当たって著者に「覚え書き」として買い取りの条件をつけた。出版社は「700部を上限に残部を著者が買い取る」という主旨の覚え書きを作成したつもりだったが、文章の書き方が不適切だったために、著者は「700部のうち残部を買い取る」と錯誤した。このため、契約が終了して買い取りをする段になって、買い取り部数をめぐってトラブルとなった。

 出版社によると約200部が売れたという。残部は約800部なので、出版社の意図していた買い取り条件では700部を買い取ってもらうことになる。しかし、著者解釈では約500部の買い取りになる。200部も違いがあるのだから、トラブルになるのは当然だ。

 錯誤の原因は、出版社の書いた覚え書きの文章が、二つの解釈が可能なものだったからだ。著者からそのことを指摘された出版社は、後にその事実を認めて謝罪し、著者の解釈による買い取り部数でよいと譲歩した。

 これで一件落着と思ったのだが、著者は他にも多数の不手際があったことを指摘し、また買い取り条件は不合理であるとして契約の無効を主張し、今も買い取りを拒んでいる。そのあたりの具体的な主張については著者ブログをお読みいただきたい。

 さて、私がここで言いたいのは、このような出版商法はまず本体契約で儲け、次に増刷で儲ける仕組みになっているということだ。とりわけこの出版社の場合、初版が300部と少ないので、1000部近く作製する場合よりも完売がたやすい。著者が友人、知人などに働きかけて宣伝するなど販促を頑張ったなら、完売もそれほど困難ではない部数だ。なお、憶測でしかないが、実際には完売していないのにも関わらず著者には完売したと伝えている可能性も否定できない。

 「完売」は著者に増刷という欲望を誘発させる。契約では増刷の場合は出版社が費用を負担するとなっているので、なおさらだ。しかし、出版社は当然のことながらそう簡単に増刷をしない。300部程度の売り上げ実績しかない素人の書いた本を1000部も作製するのはあまりにリスクが大きいからだ。だから、赤字にならないよう著者に買い取り条件をつけるのである。結果的に出版社は何ら費用負担をしなくて済むし、本が売れた分だけ利益を得られるのだ。もしかしたら、本が全く売れなくても著者による買い取り費用で利益を得ているのかもしれない。まあ、このあたりは仮定の話しでしかない。

 初版を小部数に抑えることで費用を比較的安くできるため顧客を確保しやすい。さらに増刷で儲けるチャンスを増やせる。一方で、著者は、本が売れなければ相応の費用を出して自著を買い取ることになるが、段ボールに10箱とかそれ以上の本が届いたなら、置き場所にも難儀することになりかねない。

 ただし、増刷に際して出版社側が甘言を用いて執拗な勧誘をしたり、虚偽説明で契約させるようなことがなければ、違法行為に該当するとは思えない。あくまでも「買い取り」であって、商品である著書を受け取ることができるのだから、著しく不公正な契約とも言い難い。「最高で700部を買い取る」という条件に合意した責任は著者にあるのだから、思ったほど売れなかったとしても後で異を唱えることにはならない。

 残念ながら、覚え書きに合意してしまった以上、著者を救済する手立てが私には思い浮かばない。いつまでも買い取りを拒否していたなら、さらに倉庫代などを請求されかねないし、法的手段をとられかねない。著者は苦戦を強いられた上に、買い取り費用以上の支払いをしなければならなくなる可能性も高い。「買い取り費用」は勉強代だと割り切り、本は希望者に配って読んでもらうといった建設的な方向で考えたほうが賢明ではないかと思う。

 そもそも、素人の書いた本はそう簡単に売れるものではない。そのことを一番よく分かっているのが出版社だ。ところが、多くの著者は「書店販売をしたい」という夢を持ってしまうのだ。書店販売をメリットとして宣伝する自費出版は、著者の夢を利用したあざとい商法である。

 自費出版を希望する方に再度ここで言っておきたい。「書店で売る」などという夢を見ないように、と。自分で売ったり配ったりできる部数を考え、印刷しすぎないのが賢明だ。印刷の質は落ちるが、注文に応じて必要部数だけを作製するオンデマンド出版という選択肢もある。

 一昔前は、自費出版というのは書店で売ることが目的ではなかった。売れないからこそ必要部数だけを制作請負契約で作ってもらったのだ。そういう請負契約をしている良心的な自費出版社は全国にある。請負契約の場合は増刷費用もはじめから著者負担だから、上記のような増刷トラブルも生じない。無名の著者の本は基本的に「売れない」ということを肝に銘じたほうがいい。

【10月26日追記】
 昨今は、制作請負契約であっても、書店流通つまり販売委託契約も合わせて扱っている自費出版社が多くなった。これは、共同出版商法が盛んになり書店流通をするのが当たり前という感覚の著者が増えてきていることと関係している。自費出版社側は販売を勧めたくないのに、著者が販売を望む場合が多いためにやむなく販売委託契約も扱うようになってきているのだ。

 しかし、取次や書店を通じて書籍を売る場合はさまざまな費用がかかる。取次との口座を持っていない出版社は口座を持っている出版社に委託する場合もあり、委託費用がかかる。また、著者から本を預かるので倉庫費用もかかる。あまり売れない場合はマイナス、つまり著者の持ち出しになることがあるので要注意だ。

 私は、安易に書店流通を勧めない自費出版社こそ良心的だと考えている。


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Posted by 松田まゆみ at 14:36│Comments(0)共同出版・自費出版
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