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2014年11月17日

黒木睦子さんによる日向製錬所の告発は大企業の公害問題

 マスコミでは報じられないが、宮崎県日向市の主婦黒木睦子さんが、(株)日向製錬所と(有)サンアイから名誉毀損で提訴された。黒木さんの実家のすぐ前の山中に日向製錬所がフェロニッケルスラグ(グリーンサンド)を運び込んで埋めており、風が吹くとその粉じんが実家にまで到達して子どもが咳を出し困っているという(現在は黒木さんの実家前は埋め立てが完了している)。

 彼女は日向製錬所のほか、トラックで運搬してくる(有)サンアイにも抗議したが埒が明かず、警察に訴えたり、行政や市議に相談したり、新聞社に情報提供するなど、おそらく個人として思いつく限りのことをしてきたようだ。しかし、誰もとりあってくれない。日向精錬所も行政も埋めているのはグリーンサンドという製品であり産廃ではないと主張している。彼女のブログやツイッターは、企業が投棄した有害物質から子どもたちや下流域の人たちの健康を守ろうと行動している彼女の生の声である。

黒木さんのブログ
宮崎県日向市 産業廃棄物のゴミの山が目の前で非常に困っています

黒木さんのツイッター
https://twitter.com/mutsukuroki

 ところが、日向製錬所と(有)サンアイは、名誉毀損であるとして彼女のブログやツイッターの削除と損害賠償を求めて提訴した。なお。日向製錬所の親会社は住友金属鉱山株式会社という大企業であり、過去に土呂久砒素公害を起こしている。

 原告らは名誉毀損で提訴しているが、この問題の本質はもちろん産廃問題であり公害問題だ。フェロニッケルスラグは「鉱さい」に分類される産業廃棄物である。そして、水銀やカドミウム、鉛、六価クロム、砒素などの有毒物質が基準値を超えて含まれる「鉱さい」は有害産業廃棄物なのである。以下参照。

産廃知識 廃棄物の分類と産業廃棄物の種類等(公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センター)

 黒木さんは、フェロニッケルスラグが積まれた場所の沈殿池の水質検査結果を公表している。以下。

山に捨てている(株)日向製錬所の産業廃棄物を「商品だ」、という宮崎県は説明が出来ないなら全部片付けて下さい。それが出来ないなら、全責任を取ると一筆書いて下さい。No.1 

 ここに示している検査結果では、明らかに環境基準を超える有毒物質が検出されている。この水が垂れ流しになっていて、その下流には水田があるという。ならば、明らかに公害問題であり健康に関わる重大な問題だ。

 もしフェロニッケルスラグが価値のある製品なら、それこそ黒木さんの主張するように、日向製錬所が倉庫などに保管するべきだし、販売して活用するのが筋だ。山の中に埋めているのは廃棄目的としか考えられない。つまり日向精錬所がフェロニッケルスラグを山の中に埋めるという行為は産廃問題そのものだし、埋め立て場所から有害物質が流れ出ているのなら、産廃による公害問題だ。産廃ではないから問題ないという態度をとっている行政の責任も極めて大きい。

 これは傍からみている私にも、告発者の口を封じるための裁判であるとしか見えない。ネット上ではスラップ訴訟だと言う人と、そうではないと言う人がいる。例えば、「市民メディアみやざき」の大谷憲史氏の以下の発言。この裁判の争点は産廃問題ではなくブログに端を発する名誉毀損で、原告と被告に争点にズレがあるからスラップ訴訟とは言えないという見解のようだ。

https://www.facebook.com/NorySkywalker/posts/898625176816648

 確かに名誉毀損で提訴されているので、争点は名誉毀損にあたるか否かになる。しかし、権力者や企業が弱者であるジャーナリストや市民の言論などを封じ込める目的で、名誉毀損を理由に訴えるというのがスラップ訴訟の常ではないか。名誉毀損はあくまでも手段であって、黒木さんの言論封じの本質は産廃問題の隠蔽にあると捉えるべきだろう。このような裁判をスラップと言わず何をスラップというのだろう。

 大谷氏は以下の発言もしている。

スラップ訴訟の意に即して考えると、産廃問題のことや自分たちの不都合なことを隠して、一市民である黒木さんに対して威圧的、恫喝的な訴訟を日向製錬所側が起こした、ということになります。
 しかし、日向製錬所だけではなく、日向市役所、宮崎県庁等は、今回の件を「産廃問題」として捉えている様子はなく、当初、記事にする予定であった西日本新聞も、その後、記事の掲載を見合わせています。

 大谷氏は、グリーンサンドの投棄が産廃か否かということに関して、日向製錬所や行政が産廃と捉えている様子がないから産廃問題ではないと言いたいようだ。これが市民メディアを名乗る者の発言なのかと首をかしげたくなる。ジャーナリストであるなら、企業や行政の言い分をそのまま鵜呑みにするのではなく、産廃か否か、有害か無害かを自ら取材によって検証するべきではないか。

 また、黒木さんが訴状に対して認否を行っていないことを指摘して争点にズレがあると言っている。しかし、以下の裁判傍聴記から推測するなら、黒木さんは答弁書の書き方が分からないようだし、名誉毀損の闘い方の理解が不十分のように感じられる。これは争点のズレというより法的知識の問題だろう。

黒木さん関連。日向製錬所との第一回口頭弁論のこと。(Come on by !英語ガレージ!)

延岡地方裁判所 第二法廷 第1回口頭弁論の日に(鰯の独白)

 今回の裁判は名誉毀損なのだから、まずは黒木さんがご自身の発言について「事実の公共性」「目的の公益性」「真実性・真実相当性」を主張することによって、名誉毀損の免責を主張するしかないのではなかろうか。これらの証明は被告である黒木さんがしなければならない。もちろん黒木さんが産廃問題として日向製錬所や関係行政機関を民事で訴える、あるいは刑事告訴するということもできるが、それをするにはやはり十分な証拠を集める必要があるだろう。どちらにしても、法の専門家の手助けを求めたほうがよいと思う。

 以下は東海アマさんによる現地報告とブログ記事。

日向市の産廃公害問題、現地調査報告

日向製錬所 公害被害者を訴える主婦へのスラップ訴訟問題 その1 (東海アマのブログ)

 被告の黒木さんは今のところ弁護士をつけず一人でこの裁判に立ち向かっている。しかし、自然保護に関わってきた私から見ると、大企業から提訴されてしまった以上、弁護士もつけずに闘うということ自体に非常に厳しいものがあると感じざるを得ない。黒木さんは真実を主張しているのだから一人でも大丈夫と思っているのかもしれないが、裁判というのはブログに書いているような主張をしていれば勝てるというものではない。裁判での主張は基本的に書面で行われるのだから文章で論理的な反論をしなければならないし、その都度、証拠を提出していく必要がある。口頭弁論は次回期日を決めるのが主で、たいていはあっという間に終わってしまう。口頭弁論で意見を述べたいのなら、裁判所に意見陳述をしたいと申し出なければならない。

 もちろん本人訴訟で闘うという選択肢もあるし、弁護士をつけるか否かは黒木さんの判断に委ねることだ。しかし日頃言論を仕事とし名誉毀損に注意を払っているジャーナリストでも、スラップを起こされたら弁護士をつける。まして法に疎い市民が、たった一人でスラップ訴訟に立ち向かうというのは無謀ではないかというのが正直な感想だ。

 すでに裁判は始まっているが、まだ訴状に対する認否(答弁書)も出されていない。この問題は黒木さん個人が標的になっているが、明らかに企業による公害問題だ。支援団体の協力を得て、産廃問題や環境問題に強い弁護士をつけるなど検討できないものだろうか。

 彼女が提訴されてしまった背景には、市民がネットを利用して一人で企業の告発を続けたということがあるのだろう。しかし、これは地域の公害問題である。本来なら地域の人たちが組織を立ち上げたり、環境保護団体と連携して公害問題として提起していくような大きな問題だ。企業も公益目的とした組織相手ならそう無闇に提訴はできないだろう。新聞などのマスコミにしても市民団体が動けば取り上げやすい。日向精錬所も一人だから口封じはたやすいと見たのかもしれない。

 この問題の背景には、産廃に絡む企業と行政の癒着という大きな闇が垣間見える。

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