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鬼蜘蛛の網の片隅から › 環境問題 › 研究者と御用学者

2010年06月07日

研究者と御用学者

 世の中には自然について研究している方がたくさんいます。たとえば生物に関しては生態学とか分類学とか生物地理学とか、さまざまな関わり方をしている研究者の方たちがおり、多くの方が大学や研究機関などに所属しています(もちろんアマチュアの方もたくさんいますが)。ところで、大型公共事業などによる自然破壊は、研究対象としている生物の生息地を破壊してしまうことになります。こうした現実は研究者にとって見過ごすことはできません。ならば生物系の研究者の方たちが自然保護運動に積極的に参加しているかというと、決してそうではありません。

 もちろん、中には自然保護団体の代表や役員などを務めて頑張っている研究者の方もいます。自然破壊、環境破壊に対する意識の強い方たちは、黙っていられないのです。自分のフィールドが破壊の危機にある場合などもそうでしょうね。しかし、大半の研究者は自然保護運動に積極的に関わってはいないのです。個人的には、研究者の責任としてできるかぎり保護するために意見を言って欲しいとは思います。でも、なかなかそうはなりません。

 理由はいくつかあると思います。とても忙しくてそこまで手が回らない、という人も多いでしょう。日本の研究者の待遇は決していいとは思いませんから、時間的にゆとりがないというのはよく分かります。また、無言の圧力のようなものもあるのかも知れません。国立大学を退官されたある先生によると、やはり自然保護や環境保全に関して自由に物を言えない職場環境があるとのことでした。退職してようやく自由に物を言えるようになったそうです。また、大学の先生は学生の就職の世話もしなければなりません。自然保護運動に関わっていると、必然的に公共事業の環境調査などを引き受けるコンサルタント会社と良好な関係を保てませんから、そのような会社への就職の世話ができなくなります。大学の教員が自然保護に積極的に関わっていても、いいことなどないのです。堂々と自然保護運動に関わっている現役教員というのは、すごい存在なのかもしれません。

 恐らくそういう事情を知ってなのでしょう。大型公共事業を行っている行政機関や、環境調査などを請け負っているコンサルタント会社などは、大学の教員に巧み近づいて利用しようとすることがあります。自然保護や環境保全などで発言している教員などにアドバイザーを委託したり、環境調査を委託するなどして取り込んでいくのです。大学の研究室は潤沢な研究費があるわけではありませんから、アドバイザーや委託調査などによる収入はありがたいのです。また、委託調査は学生の卒論などにも利用できるので一挙両得です。指導教官として論文の共著者になることで業績も増やすことができ、昇進にも有利になります。教員自身はそれほど意識していないのかもしれませんが、こうやって徐々に癒着関係ができてきます。

 この癒着関係が明瞭になると、御用学者と呼ばれる存在になってしまいます。こんな具合ですから、御用学者とそうではない研究者をきっちりと線引きできるわけではありません。しかし、表向きには環境保全の重要性をアピールしながら、行政と仲良くして行政の主催する検討会とか委員会などの常連になり、行政の意を汲んだ判断をすることが仕事のようになっている完璧な御用学者もいます。退官して大学という足かせから逃れたのに、自然保護や環境保全で毅然とした態度をとれないどころか、御用学者となってしまう研究者など何とも情けないですね。

 ただ、そういう歴然とした御用学者は全体の研究者の数から見れば、ごく一部なのでしょう。おそらく多くの生物系の研究者は自然破壊について危機意識や問題意識は持っているものの、時間的に、また職場環境などによって積極的に自然保護に関われないのだと思います。大雪山国立公園で建設が強行されようとした士幌高原道路の反対運動の際は、地元の帯広畜産大学の研究者をはじめとして何人もの研究者が積極的に反対運動に関わりましたし、複数の学術学会が建設反対の意見書を出すなどの行動をとりました。多くの研究者に、自然を守らなければならないという意識があるのは確かなのだと思います。

 地球温暖化に関しても同様のことが言えるのではないでしょうか。温暖化の研究をしている気候学者の多くはまじめな研究者なのだと思います。そして自分たちの研究結果からIPCCの報告書を基本的に支持しているのだと思います。国の行っている不適切な温暖化対策を批判するなどの行動を起こす気候研究者はあまり(ほとんど?)いないようですが、外野席がそれを批判することにもなりません。温暖化を放置したらどのような影響があるか(例えば生態系や農作物にどのような影響を及ぼすか)を予測したり、具体的な対策(省エネや自然エネルギーの利用など)を提言するのは別の研究者の仕事でしょうから。気候研究者の役割は、研究結果を明らかにすることです。そしてその結果、かなりの確率で人為的二酸化炭素の放出によって温暖化が生じていると考えられるのなら、「二酸化炭素の放出を削減すべき」と提言するところまでが研究者の責任であろうと私は思います。もしかしたら気候研究者の中にも御用学者といえる立場の方がいるのかもしれませんが、お金や名声を目的にデータを捏造するなどして、嘘と知りつつ温暖化を主張している研究者がいるとはちょっと思えません。常識のある研究者ならそんなことはとてもできないでしょうし、やったところでバレてしまうでしょう。

 ところが、地球温暖化を唱える研究者はそれだけで御用学者であるかのように受け止めてしまう方もいるようです。化石燃料の使用による二酸化炭素の増大が近年の地球温暖化の原因となっていることを認めず、人為的温暖化説は陰謀だと主張する人たちです。クリーンエネルギー産業などに携わる人たちの中には、確かに温暖化説を利用してお金儲けをしようと企んでいる人もいるのでしょうし、温暖化対策の名の下の陰謀がないとは思いません。でもでも、純粋な温暖化の研究まで陰謀だと疑ってしまうのはどうなのかと思います。


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Posted by 松田まゆみ at 14:31│Comments(10)環境問題
この記事へのコメント
はじめまして、毎回興味深く読んでいます。

 自然科学から話がずれるかもしれませんが・・・
 元熊本大学医学部助教授の原田正純さんは、水俣病の第一人者であるばかりでなく、患者の立場にたった支援活動を続けられていましたが、熊本大学での「水俣病」にかかわる講義は一切できなかったと、聞いています。
 外部からは伺いしることができませんが、やはり何らかの圧力があるのかなと思います。

 熊本学園大学に教授として招かれて、はじめてそこで「水俣学」の講座を開くことができました。

 ちょっと昔になりますが、インタビューがここに掲載されています。
http://www.southwave.co.jp/swave/6_env/harada/harada02.htm

 
Posted by 熊本から at 2010年06月12日 01:26
松田まゆみ様

大変失礼ですが、松田様は、人間は利益のためならどんな恥知らずなことでもするという性悪説に強くおちいってしまっていると思います。

学者の真のプライドは自説に対する自負です。利益のために間違っているとわかっていることでも言うのは、官僚や弁護士などあって彼らは学者ではありません。

学者にとって一番、屈辱的なことは自説を否定されることです。学者にとって自説が否定されたり、自分が思ってもいないことを発言するのは、どんな多額の金よりも遥かに屈辱的なことなのです。
Posted by 匿名 at 2010年06月12日 03:09
熊本から様

はじめまして。このブログをお読みいただいているとのこと、ありがとうございます。

原田正純さんのインタビュー記事を読ませていただきました。やはり国や大企業と対極をなす立場になってしまうと、さまざまな圧力があるのでしょう。そんな中でも、地位やお金にこだわらずに自分の意思を貫かれる姿は立派ですね。
Posted by 松田まゆみ at 2010年06月12日 12:50
温暖化の研究をしている気候学者の多くはまじめな研究者なのだと思います。そして自分たちの研究結果からIPCCの報告書を基本的に支持しているのだと思います。
-->
松田さまがそのように思っていらしても、学者が正直ではなく、まじめでなかった例は洋の東西を問わず無数にあります。

わたし自身はこの国でとくに小泉政権下で、北は北海道から南は沖縄まで、海洋や気象の分野や気候関連分野の大学や国立研究所だけでなく、あらゆる省庁官庁所属の学者研究者連中が、気候温暖化にかこつけて研究という名の公金をふんだんに引き出して、遊び金にして、貴重な税金を結局は平気でどぶに捨ててきたことを知っています。

とくに小泉政権下の2002年に、
   「全日本の総力を挙げてIPCCへの国際的な貢献!」
   「革命児小泉純一郎の下で、この国の研究に革命を!」
とのスローガンを掲げて総動員をかけて、地球温暖化予測研究事業Research Revolution 2002リ-サーチレボルーション2002、通称アールアール2002)に群がった教授や国立研究所の研究官僚たちの心理は、一億総動員の戦時動員体制に率先した洗脳型の学者センセー(マフィアやくざのボス)の精神構造で説明できます。

いとも簡単に国家権力の走狗になるのが、松田さまのおっしゃる「真面目な研究者」なのです。

中本 正一朗
沖縄工業高等専門学校教授
元AMSTEC地球シミュレータ用次世代海洋モデル開発責任者
前地球科学技術総合推進機構主任研究員


追伸:
1990年6月から2003年3月まで旧科学技術庁傘下の海洋科学技術センター(現在の海洋研究開発機構JAMSTEC)と地球科学技術総合推進機構(AESTO)にて、国家 規模の地球科学研究事業に群がる学者先生方が如何に国家権力を操りながら「御用御用してきた実態」を私はこの眼と耳と体を通して経験してきました。
Posted by 中本正一朗 at 2010年06月15日 20:05
中本正一朗様

はじめまして。近藤邦明さんの「環境問題を考える」というサイトでも中本さんの主張が掲載されていますので、お名前は存じております。中本さんが私のブログまで訪問されコメントを書かれるとは思っておりませんでした。槌田さんや近藤さんを支持されている方たちの間で、拙ブログが話題になっているのでしょうか。ご健闘をお祈りいいたします。
Posted by 松田まゆみ at 2010年06月15日 22:40
ブログリーダーにいれて、時々読ませていただいております。
環境保護に対する熱心なご活動には、特に敬意を持って注目しております。

地球温暖化対策には、いろいろな意見もあり、研究者のあいだにもいろいろ議論があるようです。

何を言ったかも重要ですが、何をしているのか?言っている事とやっている事に矛盾はないか?ということに私は注目します。そうすると、地球温暖化の研究者も含め地球温暖化対策にかかわる人々の大勢は御用学者と言える。と言うのが私の結論です。この点に関しては、おいおい、私のブログで追及していきたいと思います。

見解や意見は違ってしまいますが、違うからこそ、お互いに学ぶものがあると思います。これからも、松田様のご検討を願ってやみません。
地球温暖化対策
http://chikyuondanka1.blog21.fc2.com/
Posted by 地球温暖化対策 at 2010年06月16日 19:09
地球温暖化対策様

はじめまして。拙ブログをお読みいただいているとのこと、ありがとうございます。おっしゃる通り、温暖化対策には効果の疑わしいもの、無駄としか思えないものもなどもあります。その点では意見が一致するようですね。

ただ、だからといって私は温暖化の研究者や気候研究者の大半が御用学者であるとは捉えていません。また、槌田さんや近藤さんの説には賛同できない立場です。このあたりは考え方が違うようですね。

もっとも、中本正一朗さんが指摘されているように、温暖化問題でも御用学者と考えられる方がいないとは思っていません。そのような方が実際にいるのであれば、きちんと指摘していくことは大切だと思います。

ブログも拝見させていただきましたが、ご健闘をお祈りいたします。
Posted by 松田まゆみ at 2010年06月16日 20:39
熊本から様もご指摘ですが、時として、学会全体が狂うということがあるわけです。いま、地球温暖化に関する気候学者の学会がそうなっていないか?実に心配です。

中西 準子HPより抜粋引用
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak501_505.html
>(最近の地球温暖化議論に対してーーー引用者追記)それと、愚直で古い言葉だが、少数意見の尊重。反対意見を述べる人を組織的に追い出したりしてはいけない、学会の役員を乗っ取るというような発想はやめてほしい。
>かつて、水俣病や自動車公害を告発する学者を、大学でつるし上げ、追い出し、学会誌に出される論文をすべて掲載不可とした、それと同じようなことをしていないか。
Posted by 地球温暖化対策 at 2010年06月18日 20:23
地球温暖化対策様

「学会全体が狂うこともある」というご指摘ですが、槌田さんの論文が気象学会でリジェクトされたことを指していらっしゃるのでしょうか?

槌田さんの主張については、ネット上においても実名、匿名も含め、さまざまな方が誤りを指摘しています。気候研究者と思われる方のほかに物理を専攻されている方もいたと記憶しています。私は具体的な数式はわかりませんが、それらの方たちの説明は大変納得のできるものです。したがって、槌田さんの論文がリジェクトされたことも正当であろうと私は考えています。

もしお読みでなければ、以下の私の記事も参考にしていただけたらと思います。

気候変動と地球温暖化
http://onigumo.kitaguni.tv/e1393675.html

レジーム・シフトと地球温暖化
http://onigumo.kitaguni.tv/e1398380.html

消える北極海の海氷
http://onigumo.kitaguni.tv/e1436393.html
Posted by 松田まゆみ at 2010年06月19日 07:11
松田まゆみ様

丁寧な返信ありがとうございます。リンク先拝見しました。

>「学会全体が狂うこともある」というご指摘ですが、槌田さんの論文が気象学会でリジェクトされたことを指していらっしゃるのでしょうか?

槌田先生の場合もそうですが、一般論として、学会全体が狂うということは過去にあった、これからもあるであろう、ということを言っているわけです。そして、私の推測では、いままさに、IPCCを中心とする気候学者の学会が狂っているようだということであります。狂っている兆候はいろいろありますが、これからそれをいろいろ私のブログで書いていきましょう。中西 準子氏も内部情報もまじえて指摘していますよと。

たとえば、IPCCは報告書の間違いを認めていますが、正誤表を出していません。訂正能力がないようです。

槌田先生の件は、まさに、現在大論争中でありまして、槌田先生の説を支持する論文も徐々に出てきましたので、いずれ決着がつくことでしょう。裁判は、このような議論が盛んな時期に、根拠も不明なまま論文をリジェクトした。名誉も毀損された。その根拠を問うものでしょう。裁判をすれば、きちんと公式文書で残りますので、後世に歴史的な資料として残りますからね。

抽象的な議論ではなく、科学論でもなく、何が行われているのか?という具体論が私は好きでありまして、環境保護の名のもとに環境破壊が進まないように、と願っております。その点に関しては、松田まゆみ 様のご活躍を大いに期待しておりますし、学ばせていただいており、いろいろこれからも引用させていただきたく思っております。
Posted by 地球温暖化対策 at 2010年06月20日 04:46
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